元奴隷の半吸血鬼少女はのんびり旅をしたい

resn

文字の大きさ
16 / 22
新米冒険者の半吸血鬼少女

冒険者見習いフィア

しおりを挟む
「それでは……こちらが、フィアさんの冒険者資格者証になります」

 そう言って差し出されたのは、フィアの名前と肖像の入った一枚のカード。
 それと、そのカードを保管するための革のケースだった。

「この仮、っていうのが、さっきご飯の時に言っていたの?」
「はい。仮登録期間のふた月を終え、その時点で一定数の依頼をこなしていれば本登録となります。すると最下級である『F級』が与えられ、ここで初めて単独で冒険者と名乗って良い事となりますね」

 それまでは見習い、試用期間であり、公的に名乗れる肩書きではない事に注意してください、とユスティが念を押す。

「ただ、この時点では本当に名乗れるだけだな。受注できる依頼も、もっと上級ランクの者の手伝いか、掲示板に常時張り出されている物資集めや害獣退治が殆どだ。稀にそれ以外の依頼も回ってくるが……」
「そのほとんどは、あっというまに取り合いになって無くなりますね。そうして一定以上の実績を積み上げて既定以上の評価を得れば、一つ上、『E級』への昇級審査を受けられます……もっとも、これは特に試験も無く、よっぽど素行が悪いなどでもない限りは問題なく通りますが」
「へー……通らなかった場合、どうなるんだ?」

 フィアの無邪気な質問に、微妙な表情をする二人。
 その様子に首を傾げていると、アッシュが口を開いた。

「適正無し、さっさと別の仕事を選べってこったな」
「……言い方は悪いですが、アッシュさんの仰る通りです。ここを通らないという事は何も働いていないか、簡単な依頼ですら真っ当にこなせない……あるいはこなす気が無い人でしょうから」
「あとは、何らかの問題を起こし続けた奴だな」

 そもそも、このランクは落とすつもりの審査ではないんですけどね、と苦々しい表情で語るユスティ。
 それでも、脱落する者は一定数居るらしい。

「で、E級になれば見習い終了となるわけだが……ここからが本当の始まりだな。以降の審査も、級が上がればそれだけ査定も厳しくなる」
「昇級は、それまでの実績と面接による人格審査で判定されます。逆に、素行不良や規定の実績に達しない方は、降級もあり得ます。等級が上がればそれだけ受けられる仕事の種類も増えていくのですけどね」
「つまり、等級が上がればそれだけ性格的にも実績面でも、厳しい査定をクリアしてきたっていう保証になる訳だな」

 ここまでの話をおとなしく聞いていたフィアが、微妙な表情をする。予想していたのと違う、という感じに思えていたからだ。

「なんか……冒険者ってもっと色々やれるような職だと思ってたんだけど。あんまり自由って感じじゃないんだな」
「そうですね……等級が上がれば出来ることは増えていきますが、それに伴い責任も増していきますので、そう思えるかもしれません」
「うーん……」

 いまいち納得出来ない、という様子のフィアに、アッシュがポンポンと頭を撫でながら、口を開く。

「その『自由』が認められているのは、それまでの行いによる『信頼』があるからだ。その『信頼』によって認められた『自由』な以上、そこには『責任』が生じるのさ」
「ふーん……そんなもんか」
「ああ。それを履き違えて勝手をするのは自由じゃない。それは我儘って言うんだ……お前は、ちゃんと気をつけられるな?」
「……うん、わかった」

 諭すようなアッシュの言葉に、フィアが真剣な顔で頷く。

「それで……おっさんのランクはいくつなんだ?」
「おっさんじゃねぇ。俺はちょっと前に『B⁺級』に昇級したばかりだな」
「びーぷらす? それってどれだけ凄いの?」

 今ひとつピンとこないフィアが、首を傾げて尋ねる。

「とても、ですよ。ちなみに、その上である『A級』については、もうほとんど国家間にまたがる重要案件に携わる方々です。なので、一般の依頼にはほぼ参加しません」
「……ん? どういうこと?」
「己の裁量で依頼を受けられなくなる……国の要請で動くプロフェッショナルとなるという事です。光栄なことなのですが、一方でほぼ自由は無くなると言っていいでしょう」
「ちなみに、そう言った理由からA級への昇格は拒否権が認められているんだ。そういった拒否した連中のために暫定的に設けられているのがこのB⁺級なんだぜ」
「おお……それじゃ、おっさんは相当凄いんだな!」
「はい、実質アッシュさんは在野の冒険者で最高位に当たる方なのですよ」 
「へー……!」

 ようやく理解が回り、尊敬の眼差しでアッシュを見上げるフィア。
 その純粋な目に流石に恥ずかしくなったのか、アッシュがポリポリと頰を掻き目を逸らす。

「そ、そう改めて言われたら照れるな……ほら、さっさと手続き終わらせちまおうぜ」
「あ、そうですね。フィアちゃんは読み書きは?」
「大丈夫、できるぞ!」
「俺が見た感じ、交易共通語であれば問題ない。誰かに教わったんだそうだ」
「なるほど……では、大丈夫ですね。問題が無ければこちらの資格証の受領証明書にサインを……」

 そう言って差し出された書面に、フィアがペンを取りサインしようとした、その時。



「……そんなガキが、冒険者だぁ!? 舐めてんのか、テメェらァッ!!」

 怒声と、テーブルを蹴飛ばすけたたましい騒音。
 見ると……先程、食堂で絡んでいた元傭兵の男たちだった。

「……あいつら、随分と好き勝手やってるな。連中の指導役は?」
「それが、ライルさんで……他の若い子と今、依頼で出かけているんですよ」
「あいつか……たしかもう数人くらい、見習い抱えてたよな。面倒見が良すぎるのも考え物だな」
「ええ……本当は彼らも一緒だった筈なのですが、やはりこの調子で、結局……」

 どうやら、年少の新人と同列にされるのが嫌でゴネた結果、処置無しと置いていかれたらしい。
 プライドが高いのは結構だが……こうなると、老害と言わざるを得ない。

「彼女は、最低要件である年齢十三歳以上を満たしています。資格申請に問題ありません」
「だから、それが納得いかねぇってんだよ! こんなヒョロい娘っ子と、戦場で生死を賭けて戦っていた俺らが同じ見習いだと!?」

 規約に則り説明しようとするユスティだが、青筋を浮かべ、唾を飛ばして喚く男は聞く耳を持たない。事情を知るアッシュは内心溜息を吐く。

「納得できないというのであれば、では、どうしろと?」
「そのガキと一戦勝負させろ。俺が納得できる実力があるなら我慢してやる」

 ニヤニヤと笑う男。その目的が、憂さ晴らしに少女を痛めつけるものだという事は明白で、周囲の冒険者たちも流石に動き出そうと各々の武器に手を伸ばす。

 周囲の仲間がそんな冒険者を牽制し、そんな様子すら嫌らしく笑って眺めているのを見ると、余程自信があるのだろう。だが……

「あなた、一体何の権限があって……!」
「いいよ、やろう」
「フィアちゃん!?」

 抗議するユスティを制し、フィアが前に出る。
 その姿に、ユスティが半ば悲鳴のような声を上げた。

「……たぶん、こいつらは言葉じゃ納得しないよ。だから、やる」
「ですが……」

 ユスティが、横に居るアッシュの方をちらっと見る。彼ならばこの場を収めてくれる、そんな期待からだったが……

「……フィア」
「おっさん……大丈夫、
「そうか……なら、好きにやれ。見届け人は俺がやってやる」
「アッシュさん!?」

 今度こそ悲鳴を上げたユスティに、アッシュは大丈夫だと手で制した。

「大丈夫、あいつは聡明だよ、世間知らずだがな」
「ですが……」

 完全に静観の姿勢のアッシュに、渋々といった様子でユスティが引き下がる。

「……はっ、随分と薄情な保護者じゃないか」
「そうか? 別におれはそうは思わないぞ?」
「だったら……後で存分に恨むんだなぁ!!」

 喜悦に歪む表情で殴り掛かってくる男。
 その動きは中々に速くはあるが、大振りなその動きは、少女に恐怖を与え威圧するためのものだ。

 その場に居た皆、幼い少女が殴られて、吹き飛ぶ様を幻視した。思わず目を逸らす者、割って入ろうと腰を浮かしかけた者、様々な反応をする者達の目の前で……



 ――元傭兵の男の巨体が、宙を舞った。



「は? ……あがっ!?」

 以前、アッシュの前でも見せた、相手の力を利用した鮮やかな投げ技。
 しかし、今回は以前とは違い、最後まで腕を掴んだまま、ふわりと男の体を地面へと転がした。

 男が、目を呆然と瞬かせる。少女に殴り掛かった筈が、ほとんど衝撃すらなくいつのまにか床に寝ており、少女を見上げているのだから致し方ないだろうと、アッシュは内心同情する。

「おっさん、って、こんな感じでいいのか?」
「くっ、はは……ああ、完璧だ」

 まさか、手加減すらもやろうと思えばここまでとは。器用な奴だと思わず苦笑しながら返答をするアッシュに、フィアがニコッと微笑み返す。

 ――

 その言葉に、歯牙にも掛けられていなかった、少女と自分の間にそれだけの差があったのだと遅れて理解した男が、体をおこりのように震わせ、顔を真っ赤にして跳ね起きた。

「ふざけんな! こ、こんなガキがそんな……違う、今のは、今のはちょっと油断して……!」
「へぇ、油断ね」
「……っ」

 アッシュが、まだ尚も弁明を続けようとする男を睨む。その視線に、流石の男も息を呑んで黙り込んだ。

「あんな無様に転がされ、優しく寝かされてか? 相手が獣なら、今頃お前のはらわたはその獣の飯になってるぜ? 人間相手なら、次の瞬間四肢を砕かれるか腹を掻っ捌かれるか、あるいは首が胴体からさよならだ。それを……油断か?」
「あ、ぐ……っ」

 そもそも、今の投げの時点でフィアがその気なら、頭を床に叩きつけて再起不能にする事すら出来たのだ。
 曲がりなりにも戦闘を生業としてきたはずであり、それを理解できない程、男も馬鹿ではない。

「さっき、死線を潜り抜けてきたと自慢していたみたいだが……お前の言う戦場ってのは、随分と優しいんだな?」
「っの野郎……覚えてろ!?」

 捨て台詞と共に、逃げるようにして仲間達と共にギルドから出て行く男達。
 直後、ギルド内で、少女に向けて冒険者達の拍手が飛び交った。

「やるじゃねえか、嬢ちゃん!?」
「お、お……っ?」
「お前なら、かなり良いところまで行けるぜ、頑張れよ新入り!」
「う……うん、ありがとな、おっちゃん達!」

 わっと囲まれた事に目を白黒させながらも、好意的な声に笑顔を返すフィア。
 すっかり人気者となったその光景に、ユスティもぽかんと眺めているのを、アッシュは苦笑しながら眺めていた。

「フィアちゃん、本当に強かったんですね……」

 本当に珍しいことに……この時ばかりは受付嬢の仕事も忘れ、ユスティが呆然としながら、そう呟いたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...