後天スキル【ブラックスミス】で最強無双⁈~魔砲使いは今日も機械魔を屠り続ける~

華音 楓

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第8章 富士の樹海ダンジョン

第102話 ケントの秘密

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 皆が契約書にサインし終えると、徐々に契約書に変化が訪れる。
 
 サインした名前が、徐々に光を放っていく。
 それは金色に輝き、契約書の文字全体に移っていく。
 その光は次第に強くなり、1枚が1つの光の玉となり空中に浮かぶ。
 そして次の瞬間。
 それぞれの胸に飛び込んでいったのだ。
 突然のことに驚くが、それを回避することは出来ずに、ケントとザックを抜いた者たちが、その光の玉を受け止めることになった。

 ドサリ

 光の玉をその体に取り込んだ6人は、ばたりとその場に倒れ込んでしまった。

「これでいいんだな?」
「はい。協力感謝します。」

 倒れた面々を心配そうに見つめるザック。
 ケントは涼しい顔でこうなることを予測していたように動き出す。
 ザックは皆を抱き起すと、改めてソファーに座りなおさせる。
 ケントも同じく皆を座りなおすと、自身もしばししばし休憩といわんばかりに、ティータイムとしゃれこんでいた。

——————
 
「ん……んあ?ここは……ってあれ?」

 最初に目を覚ましたのはレイラだった。
 周りを見回すと、ザックとケントがくつろぐように、優雅にお茶を楽しんでいた。
 その為か一瞬怒りがわいてきたが、その前に確かめなければならないことがあった。

「ちょっと、お兄ちゃん!!いったい何があったのよ!!」

 ソファーにはすやすやと寝息を立てる者たちがいた。
 レイラの横ではレイラの腕に絡みついたジェシカ。
 突っ伏すように寝落ちしているリヒテル。
 ギルバードとレイモンドも同じように眠りこけていた。

 レイラの動きに合わせるようにして、ジェシカのたわわに実った果実がフワリフワリとレイラの右腕を包み込む。
 一瞬殺意を覚えたレイラだったが、我に返り話の続きを促すためにザックを睨みつけた。
 その視線を感じ取ったザックは、少し居心地が悪くなったようで、そっとティーカップをソーサーに戻したが、どう説明していいものかと思案していた。
 そんなザックに助け船を出したのが、原因を作った張本人であるケントだった。

「大丈夫。体には異常が出てないから。とりあえずみんなを起こしてもらってもいいかな?そろそろ回復しているはずだから。」

 そう言うとケントは肩を竦めつつ、いまだ眠りこけているリヒテルたちを起こし始めた。
 レイラもこの時ばかりは仕方ないと、嫌そうな顔をしつつ、優しくジェシカを起こす。
 ジェシカは寝ぼけ眼で周りを見渡して、自分がレイラの腕にしがみついていることに気が付いた。
 しかしジェシカは気が付いていないと装いつつ、さらに強く腕に絡みつこうとした。
 レイラはそれを邪魔そうに払いのけると、少し残念そうにしているジェシカがそこに居たのだった。
 それから順番に全員を起こし終えたレイラは、再度ケントに話を聞こうと視線を送った。

「まずはおはようございます。皆さんが眠りについたのは魔導具のせいです。身体的異常は見られませんでしたので、無事契約が終了したようです。」
「少し待たれよ。あの魔導具から出た光は一体何だったというのだ?」

 ケントの話を遮るように、ギルバードが疑問を投げかけた。
 それは皆が知りたいことを代弁したようにも思えた。

「あれは光魔法です。契約を魂に刻み付ける魔法が組み込まれたいました。皆さん説明を完了させる前にサインしてしまったので、伝えそびれてしまったんです。」

 悪びれた様子もなく、ケントは淡々と事実を説明していった。
 
 曰く、契約期間満了までは魔法が解除されない。
 曰く、契約違反が発生した場合、魂へのダメージとなる。
 曰く、違反しなければどうということはない。

 などとのたまわったのであった。

「とまあ、そんな感じです。それで守秘義務の内容ですが……って、この話し方はなんだか疲れるな。俺についてとこれからについてだ。ザックにもすでに契約はしてもらってる。」

 そうケントは言いながらザックに視線を送ると、ザックも無言で首肯した。

「みんな〝中村 剣斗〟という名前に聞き覚えはないかな?」

 一瞬何の話だと思ったのか、皆が互いの顔を見合わせていた。
 ケントの話の意図が読めなかったからだ。

「拙者は聞き覚えがあるでござる。確か、口伝のお伽噺の登場人物がその名前だったと記憶している。」

 腕組みをして目を閉じていたギルバードが、ゆっくりと目を開けるとそう告げた。
 どうやら自分の記憶を遡っていたようだった。

「そうね、同姓同名さんってことかしら?」
「いやいや、ジェシカ。わざわざそんなことで魔導契約なんてしないでしょ?」

 ジェシカの疑問に、レイラは呆れ顔で突っ込みを入れた。
 なんだかんだで仲の良いことが伺えた。

「ということは……まさか……」

 レイモンドはずれたサングラスをクイッと戻すと、その頬に流れる一筋の汗に気が付いた。

「ご明察。その〝中村 剣斗〟が俺だ。今使った契約書もリヒテル、君を以前護った魔道具も全部俺の作品だ……ってものちょっと違うか。【召喚】。」

 ケントの声に合わせて周囲の床に3つの魔方陣が浮かび上がる。
 すると、そこからゆっくりと3つの影が姿を現した。

「主よ、出番か?」

 青肌の大男は凝り固まった体をほぐすようにストレッチを行う。
 その体躯は2mを優に超えており、皆が見上げなくてはならなく状況であった。

「この筋肉だるま!!いちいち行動がうざったすぎるんだよ!!」

 タクマと呼ばれた大男に罵声を浴びせる、身体の線の細い男性。

「二人とも仲がいいな?タクマもタケシも少しおとなしくしようか?」
「「はい。」」

 ケントの若干の怒り加減に互いを睨みあい、フンと顔を背ける二人。
 そんな二人をよそに、マイペースな少年も姿を現した。

「主~。お菓子もうない?」

 手にした紙袋を逆さにしている美少年。
 どこか人とは思えないような均整の取れた姿に、違和感を覚えざるを得なかった。

「ラー。はいこれ。」
「ありがとう主~。」

 そう良い新しい紙袋を受け取ると、テーブルに中のお菓子を広げてポヨンとテーブルに乗りあがった。
 しかしそこに居たのは、先ほどまでの美少年ではなく、青く透明なぷにぷにとした物体であった。
 その物体はお菓子に手?を伸ばすと、するすると体内に取り込み消化していく。
 なんとも現状把握しにくい状況がそこに広がっていた。

「ケント……これは?」

 たまらずリヒテルがケントに話を振ると、ケントも苦笑いしながら話を続けていく。

「まず紹介からだな。青い大男が異世界の住人であったサイクロプスのタクマ。で、こっちのミリタリー姿の青年がタケシ。もとは陸上自衛隊の隊員だ。って今は陸上自衛隊はないんだっけ?まいいか。で、最後がブルースライムのラー。もともと魔物モンスターと呼ばれた異世界の住人だ。」
「いやいやいやいやいや。そうじゃなくて、何が起こってるか説明してもらっていいかな?」

 リヒテルはケントからの紹介を受けたからと言って、今の現状をはいそうですかと受け入れることが出来なかった。

「手っ取り早く言うと、本来は君たちのこの世界と俺がいた世界は、以前【プロメテウス】との戦いののち、歴史が二つに分かれたんだ。その戦いの際に、タクマのいた世界、ラーのいた世界が混ぜ合わされてしまった。これについては既に解消する方法がなくなってしまったので、あきらめるほかない。つまり、何が言いたいかと言うと、この星のすべてが隣り合った世界を形成しているんだ。ただここで問題が発生した。倒したはずの【プロメテウス】がゴールドラッドプロメテウスとなって現れた。そしてその手によって再度歪められ、4つの世界が混ざり合い今の世界を形成してしまっている。」

 突然の話についていけない面々は、ただ唖然としているほかなかった。
 事前に話を聞いていたザックでさえ、同じような表情を浮かべていることから、やはり理解の範疇外の出来事であった。

「で、君たちにお願いしたいのは、世界を元に戻すための手伝いをしてほしいってこと。」
「つまりゴールドラッドプロメテウスを倒せばいいってことか?」

 ケントの依頼にリヒテルの表情が変わる。
 先ほどまでのあどけなさが姿を消して、怒りを押し殺している、そんな表情へと変わっていた。

「大まかにはそうだ。現状では俺の仲間たちが、ほかにもこの世界に干渉している。本当はこの世界の人たちの自力で何とかしてほしかったんだけど、ちょっと想定外が起こってしまってね。それで俺たちも表に出ることになったんだ。」

 一様に黙り込むリヒテルたち。
 そりゃそうなるだろうなと初めから考えていたケントは、最後の手札を切った。

「それとは別にして……今より強くなりたくない?」

 その表情はどこか悪徳セールスマンを思わせる、あくどさいっぱいであった。
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