後天スキル【ブラックスミス】で最強無双⁈~魔砲使いは今日も機械魔を屠り続ける~

華音 楓

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第9章 富士の樹海ダンジョン攻略編

第118話 盗賊団「霞」

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「頭、奴らが引き返して来やした。」
「なんだって?」

 彼らは盗賊団「霞」。
 神出鬼没のダンジョン専門の盗賊団だ。
 その名の通り、捕まえようとしてもなぜがその姿を捉えることは出来ず、下っ端を捕まえても絶対に上層部までたどり着かないことで有名だった。
 その棟梁である山田 太郎は、部下からの報告に訝しがる。
 リヒテルたちがルーキーであることを確認済みの山田は、自分たちの気配を察知できていないと踏んでいた。
 何度か自分の部下が釣る形でリヒテルたちに怪異をぶつけたが、こちらに気付く様子が見られなかったからだ。
 その為こちらの動きが把握できていないと結論付けていた。

「で、あとどの位で接近するんだ?」
「おそらく20分弱かと。」

 山田は少し思案すると、全員に指示を出し始めた。

「おいお前ら!!主力部隊はこのまま第1階層まで後退だ!!遊撃部隊は2班に分けて枝道に退避!!奴らの後方につけ!!第1階層で奴らを挟撃するぞ!!」
「「「「「おう!!」」」」」

 山田の指示に、野太い男たちの声が続く。
 だがそれに待ったをかけた人物がいた。

「何を言ってるんだ!!ここで始末すればいいだろう!?これほど人的優位なんだ!!何をそんなに恐れ……」

 喚きだしたのは公営組織探索者支援組合探索者ギルド職員の加藤であった。
 加藤はここでリヒテルたちを血祭りにあげられると思い、若干の興奮状態にあった。
 そんな加藤の喚きは、最後まで言い切ることがかなわなかった。
 加藤の首筋にぴたりと当てられた刃。
 ゆるりと影が人型へと変わっていった。

「山田様に何を無礼を働いているのです?」

 加藤は、その首筋に当たられた金属の冷たさに冷や汗を流す。
 言葉に詰まった加藤は、自然と視線を山田に向けたのだった。

 山田がその人物に目くばせすると、加藤の首筋から金属の感触がすぐに消えていった。

「すまないな、うちのやつらはどうにも気が短くてな……。イーグレット、今後は気を付けるようにな?」
「は。」

 イーグレットと呼ばれた女性は、また影の中へと消えていったのだった。

「で?俺の決めたことに意見するには、それなりの理由があるんだろうね?」

 山田の鋭い視線が加藤へと突き刺さる。
 その表情はとても温和であった。
 だがその表情とは反比例するかのように、その瞳は冷たく、ひどく澱んでいた。

「俺はな……誰かに指図されるのが大っ嫌いなんだ……。俺は俺のやりたいようにやる。それが俺のやり方だ。それに異を唱えるならば……お前は俺の敵だ。」

 加藤は、山田から齎された殺気に既に動く事すら叶わず、目の前の捕食者に対して自分はあまりにも矮小な存在なのだと思い知らされていた。

「さてさて、今度の獲物は一体何を俺に齎してくれるのかな?」

 山田の残虐性を物語るような笑い声が、ダンジョンへと消えていった。
 
——————

 カツン……カツン……カツン……

 ダンジョンの中に響き渡る靴音。
 怪異に気づかれないように、出来るだけ音を抑えるのが、探索における基本中の基本であった。
 だが、この人物はそれを意に介していなかった。
 それどころか、ただの街中を優雅に歩く……そんな感じすら思わせる。

「初めて入った場所なんですけれど……懐かしい感じがしますわね……あぁ、〝あの子〟の記憶ということかしら?」

 ゆったりとしてドレスを思わせる衣装を身にまとった女性は、ゆっくりと歩を進める。
 ここは【富士の樹海ダンジョン】中層、第54階層。
 中級探索者パーティーであれば、探索が可能になる階層であった。
 そしてその女性は、ダンジョン内のとある広間に姿を現したのだった。
  
「ここは……そうね、ここが〝あの子〟のすべての始まりの地……。ケント様……早く逢いたいですわ……」

 幼かった面影はほとんど見えず、妙齢な女性へと変貌した明日香。
 その妖艶な笑みは、見るモノをすべて虜にしてしまう。
 そんな魔性すら感じさせるものであった。

「さて、お墓参りも済んだことですし、そろそろ作戦を始めましょうか……。乗り越えてくださいましね……」

 そう言うと、明日香は手にした盃を傾けた。
 盃からは、黒くドロドロとした液体がとめどなく流れ落ちた。
 黒い粘液状の液体は地面を這い始め、徐々に模様を作り出し、地面へと吸い込まれながら一つの形を出現させた。

「我が意をもってその姿を現したまえ。我は代行人。我は執行者。汝のあるべき姿を晒し給え。」

 明日香の祝詞がダンジョンに響き渡る。
 先ほどできた図形が徐々に光を帯び、中心に立つ明日香を照らし出す。
 その光景はあまりにも幻想的で、神秘的であった。
 見るものが見れば、その光景に吸い込まれてしまいそうなほどであった。
 そして、光の奔流が最高潮に達した時であった。
 突如としてダンジョンに揺れが発生したのだ。
 その揺れは徐々に強くなり、異変を感じさせるには十分すぎるモノであった。

「さあ、宴の始まり始まり……」

 ダンジョンに発生した光と揺れが収まると、そこには明日香の姿は見当たらなかった。
 ただの静けさだけが残されていたのであった。

——————

「今の揺れは?」
「地震……にしてはおかしいな。本土で地震が発生することはあるけど、ダンジョンにまで被害が及ぶことはない。」

 突如発生した地震に、リヒテルたちは身構えた。
 ケントは地震にはなれたもので、驚きこそしなかった。
 しかしリヒテルたちは経験が少なく、焦りの様なものが滲み出ていた。

「リヒテル、警戒を密にするぞ。」

 ケントの言葉に、一瞬驚きを見せたリヒテル。
 揺れた直後は気にした様子はなかったものの、少し考えた途端、その態度が一変したのだ。
 ケントは何かを強く警戒している……リヒテルには、そのように見えたのだ。

「ダンジョンに異変が発生した……ということでござるな?」
「分からない。ただ、警戒することに越したことはないからな……」

 ギルバードの言葉に、ケントは首を横に振った。
 ただしそれは、ギルバードの言葉を全否定したかったわけではなかった。
 〝分からない〟という言葉が、この異常事態を物語っていた。

「よし、まずはこのまま戻ろう。何事もなければ問題ないけど、あったらあったで対処するしかないからな。」

 リヒテルは、考えを放棄したわけではなかったが、考えても無駄だとは思っていた。
 だから、今できる最善を尽くそうと思ったのだ。

 それから一行は予定通り、順調に帰路についていた。
 追跡者たちも、リヒテルたちの動きに合わせて第1階層を目指していた。
 ただ、本隊と言える集団は、すでに第2階層を抜けて、第1階層に到着しているようにリヒテルは感じていた。
 それは、スキルによって齎されたものではなく、〝勘〟としか言いようがない。

 しかし、順調なことはそれほど長くは続かなかった。
 リヒテルたちが、第1階層への階段にもう少しで到着する時であった。

「ぐわぁ~~~~~~~!!」
「やめろ!!やめてくれ!!」
「くそったれ!!」

 突如として後方から、人の叫び声が聞こえてきたのだ。
 それの声の主が、追跡者の一味であることは既にスキルで確認済みで、リヒテルたちも、そう認識していた。
 おそらく挟撃してくるだろうとの推測も立てていた。
 だがその挟撃は起らず、何かトラブルが発生したようであった。

 それから程なくして、男性数人が血だらけで第1階層への階段に向かって走ってきていた。
 リヒテルたちは移動は難しいと判断し、壁沿いの窪みに身を隠していた。
 もちろんそこは、ケントの魔道具【幻影被膜ミラージュベール】によってその窪みと一体化していた。
 魔導具【幻影被膜ミラージュベール】は、光学迷彩と魔法的要因によって、包まれた存在を誤魔化すものであった。
 そのおかげもあり、挟撃のために後方から徐々に距離を詰めていた一団が、リヒテルたちに気が付くことなく階段を上っていったのだった。

 そして、次に響き渡るのは、ドシンドシンという何かが地面にぶつかる音であった。
 リヒテルたちの前に姿を現したのは、体長5mはあろうかと思うほどの大男……牛顔胴人……ミノタウロスであった。
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