絶望の鈴音(りんね)~夢幻の牢獄と僕と……~

華音 楓

文字の大きさ
51 / 51
最終章

第51話 ―終幕~8月6日―

しおりを挟む
——————今日は20✕✕年8月5日の朝です!!朝です!!起きるのです!!——————

「愛理!!」

 僕が目を覚ますと、あの朝に戻っていた。
 犯人が輝だったことに僕は驚きを隠せない。
 それでも輝の思いを聞いて、許せるとは言えないけど、理解しようと思った。
 僕もまた僕の家族を手にかけているから。
 きっと輝は壊れていっていたんだ。
 それを僕は気付いてあげられなかった。
 もっと早く気づいていればもっと違ったはずなのに……

 それよりも愛理だ。
 まさかあの場面で愛理に殺されるなんて思いもしなかった。
 あの手にしたナイフは間違いなく俺が殺され続けていたナイフ。
 でもなんで愛理があのナイフを?

 疑問が疑問を呼び、答えのない迷宮へ思考を連れていく。

ピロン

『悠一へ。きっとこのメールを見ているときは、俺は愛理のもとに向かっている。すべてを清算しに。本当はもっと早くにするべきだったんだ。だけど俺が弱かったから……だから悠一をたくさん傷つけてしまった。悠一……元気で……愛してる』

 突然送られてきた輝からのメール。
 それが何を意味するかなんて考えるだけ無駄だ。
 僕はすぐに着替えて家を飛び出した。
 行く場所は分からない。
 だけど施設に行けば何かわかるかもしれない。
 そう思い自転車を全力で漕いだ。

 施設はすでに動き始め、子供たちの声が聞こえてくる。

「すみません!!輝はいますか!?」
「あら悠一君。それがね、朝から姿が見えなくて……それでみんなで探していたのよ。それとこれが机に……」

 施設の先生から手渡されたのは、一枚の写真。
 それは輝と輝のお母さんが写った小さいときのものだ。
 でもどうしてこれを……

「すみません、この場所分かりますか?」
「えぇ、この先のアパートよ。だけど今は誰もいないし、朽ち果てているわよ?」

 これは勘でしかない。
 そこに行けば二人に会える、そう思ったんだ。

 僕は先生にお礼を言うと、そのアパートに急ぐ。
 早く着きたいと思うほどに、時間が全てスローモーションに感じてしまう。
 それがどれほどもどかしいか。


「輝!!愛理!!」

 僕がアパートに付くころ、二人はすでにあってしまっていた。
 そうなる前に止めたかった。
 俺は自転車を放り投げて、慌てて階段を上る。
 朽ちてきた階段は悲鳴をあげて、僕の行く手の邪魔をする。
 それを蹴散らしながら、僕は二人のもとへ急いだ。

「やめろ二人とも!!」

 俺がその部屋についたころ、二人はもみ合いになっていた。
 輝の手には鈍色のナイフが握られている。
 馬乗りになられた愛理は、そのナイフから逃れようと必死になって抵抗していた。

「悠君助けて!!」
「止めるな悠一!!」

 輝は力を緩める気はなく、今にもその凶刃を振り下ろそうとしていた。
 僕は本当にとっさだった。
 とっさに輝の腕をつかみ、ナイフを取り上げる。

「なにするんだ悠一!!ここですべてを終わらせるんだ!!」
「バカなことを言うな!!そんなことしてなんになるっていうんだ!!」

 それでもあきらめようとしない輝。
 こんなバカげたことを繰り返すことに何の意味があるんだ。

「愛理……もうやめよう……」
「悠……君?」

 どうして自分が攻められているのか分からないとでも言いたげに、愛理は小首をかしげていた。
 だけど僕にはわかる。
 伊達に幼馴染を長くやってないから。

「もういいよ愛理。もうやめよう。」
「悠君、何言っているか分からないよ。だってこの世界は壊れているんだよ?だったら直す人が必要でしょう?だから私は直しているの。私の幸せを壊して楽しんでいる世界なんておかしいもの」

 愛理の心の闇が見え隠れする。
 今話をしている愛理はいったい誰なんだ……
 幼さと、大人の感情がごちゃまぜになって見えるのはきっと僕の気のせいじゃない。
 だけど思考がすでに破綻してしまったのは間違いない。
 どうしてそうなったのかは分からない。
 どう寄り添っていいかもわからない。
 だけどこれを終わりにしないといけないことだけは、僕にでもわかる。

「悠一!!そのナイフを貸せ!!そのナイフで愛理を……愛理をこの永遠の地獄から解放してあげるんだ!!」

 永遠の地獄の鎖……確かに言い得て妙だな。
 愛理はずっと縛られ続けてきたんだ。
 だから輝は愛理を解放しようと、ここで愛理を殺そうとした。
 だからと言って解放されるとは限らない。

「愛理を……助けたいんだ……」
「輝君……それをいらないお世話っていうんだよ?」

 小首をかしげていた愛理が、突然能面の様な感情のない表情になった。
 その表情のせいで、不気味さが増し、禍々しささえ感じてしまう。
 だけど、どこかでこの気配を……

 そして僕はその気配の記憶をたどり思い出した……
 このナイフだ!!

 何か……何かないか!!
 周囲を見渡してもナイフを壊せるようなものが見つからない。

 僕は急いでナイフを持って、建物の外へ向かう。
 その行動に慌てた二人も僕の後を追うように外へ出てきた。
 僕は水の流れが止まっている排水溝の蓋の溝にナイフを突っ込み、柄の部分を思いっきり蹴り飛ばした。

 バキンという音と共に、ナイフの柄が宙を舞う。
 くるくると舞った柄は地面に転がり、最後は輝の足元へ。

「あ、あぁ、あああああああああああ!!」

 その瞬間、愛理は声とも呼べない声で叫び出した。
 それは断末魔とでも言えばいいのか。
 何かの終わりを告げる咆哮とも思えた。

「よ、寄こせ……それを……寄こせ……」

 ふらふらとした足取りの愛理。
 これは俺にでもわかる。
 〝あれ〟は愛理なんかじゃない。
 輝は柄を拾い上げると、柄の先端に付いた宝石をじっと見ていた。
 俺も感じる禍々しい空気感は、まさにその宝石から感じられる。

「輝……」
「分かってる……これで終わりだな、きっと」

 輝は宝石を柄ごと壁に向けてたたきつける。

「やめろ!!やめろ!!やめろ~~~~~!!」

 宝石はきれいに砕け散り、粉末となり空へと昇って行った。
 
 愛理はその場で倒れ込み、ぐったりとしていた。
 俺は慌てて愛理に駆け寄ると、愛理は気を失っているだけで外傷は見られなかった。

 あのナイフが全ての発端であり、愛理を狂わせた原因。
 この時僕らは、やっと終わったと思えた。




——————今日は20✕✕年8月6日の朝です!!朝です!!起きるのです!!——————

「だぁ~~~~!!やっぱりうるさい!!」

 僕は朝を迎えると同時に、輝への恨みを募らせる。
 壊してもいいんだけど、さすがに時計に罪はない。

 僕はまだ覚めやらぬ頭を覚醒させるために、頭を振る。
 そしていつものように、カーテンと窓を開ける。
 お決まりのように、夏の朝日と生温い風が部屋を走り回る。

 
 俺たちはあの時、すぐに救急車を呼び、愛理は病院へと搬送された。
 だけど今だ愛理は意識を取り戻していない。
 肉体的損傷はないと医者は言っていたけど、いつ目を覚ますかは分からないそうだ。
 愛理の両親もなぜこんなことになったのか理由を知りたがっていたけど、僕たちもどう説明すればいいのか困惑している。
 ただ、壊してしまったナイフを愛理のお父さんに見せると、どこか納得している様子もあった。
 考古学・民俗学の学者として何か思うところがあったんだと思う。
 それ以上は僕たちを追及してこなかった。

 ただ問題はその後だった。
 病院へ警察がやってきたんだ。
 内容は、愛理への殺人容疑。
 昨日ニュースで取り上げられていた事件。
 その犯人ではないかという疑いがかかっているそうだ。
 ただ本人がこん睡状態が続いている以上、どうにもできないのが現状らしい。


ピンポーン

「おはよう悠一」
「おはよう輝。じゃあ行ってきます!!」

 いつもの時間に輝の迎えがやってくる。
 そしていつものように、僕らはが通学する。

「待ってよお兄ちゃん!!行ってきます!!」

 ルリもまた同じく。

チリン
 
 行き交う人々も、毎日同じ営みを繰り返す。
 それが繰り返される世界ではなくとも、あまり変わり映えがしないと思ってしまう。
 そう言えば違うことが一つ、僕のカバンにも一つのお守りが付いた。
 〝生願成就〟

チリン
 
 愛理がいない今の時間が早く終わるように。
 愛理が無事目を覚ますように。
 病院の帰り、輝と二人であの神社へ行ってきた。

チリン
 
 愛理はきっと帰ってくる。
 僕はそう信じて待つことにした。

チリン
 
 ね、愛理……
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...