絶望の鈴音(りんね)~夢幻の牢獄と僕と……~

華音 楓

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愛理編

第50話 ―愛理編~真実~

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 私たちは中学を卒業し、5人ともあの心臓破りの急こう配のある地元の高校に進学。
 特に何か決めてって言う訳じゃなく、近いからという理由で。
 それから何事もなく私たちは高校を卒業した。

 私は地元の大学を出て、中堅企業の事務職として働いている。
 働き始めて4年にもなると、後輩育成と自分の仕事で、忙殺される毎日を過ごしている。
 お母さんに、「せっかくかわいいのに、色気をどこに忘れてきたの?」って冗談を言われるほど、仕事に追われる毎日。
 それでも充実しているだけ、まだましかなて思ってた。
 だけどそれもそうは長く続かなかった。

 ある企業へのプレゼン資料作り。
 私も応援に駆り出され、いろいろ準備を手伝っていた。
 その企業への売り込み次第で、この会社のこの先が変わるって言っても過言じゃない物。
 会社として精一杯準備を煤けていったんだけど……
 誰かが他社にその情報をリーク。
 丸っとその事業を奪われてしまった。
 誰がそんなことを……

 最初は犯人捜しはやめよう、そんな空気だった。
 だけど業績はどんどん悪化……ついにはリストラの話まで出始めた。
 そのとき耳にしたうわさ話に、私は心が折れてしまった。
 〝情報のリーク元は私〟だというもの。
 そんなことはしてないし、むしろ努力していたと思う。
 上司からも覚えよく、もっと頑張ろうって言われていたのに……
 確証のない噂話。
 だけどスケープゴートにするには丁度良い餌。
 見る見るうちにその噂は拡散していき、私が犯人だということになってしまった。
 庇ってくれると思っていた上司からも、冷たい目で見られ、私の居場所はこの会社にはなくなっていた。

 その後どうやって家に帰ったか分からない。
 気が付いたらここに来ていたから……

 手にはお父さんの形見のナイフ。
 今いる場所は会社の屋上。
 私はもう疲れちゃった……
 頑張っても頑張っても誰も認めてくれない……
 こんな世界なんてもういる意味なんてない……
 これだったら、お父さんが生きていた時に戻りたいよ……

 私は自らの首をこのナイフで切り裂き、身を投げ出した……
 はずだった。


 え?ここは……

 私が気が付くと、お父さんの書斎に立っていた。
 手にはあのナイフを持って。
 慌てふためくお父さんが目の前にいる。
 これはいったい……
 今までのは夢……なの?

「大丈夫か愛理……けがはないか?」
「う、うん……大丈夫だよ、お父さん。ちょっとびっくりしただけだから……」

 周りを見ても、あの当時の書斎。
 謎の仮面と不気味な髪飾り。
 所狭しと並べられた資料やお土産の数々。

 まさか……
 このナイフは、死に戻りのナイフ……
 そんな突拍子もないことを考えてしまった。
 だけどそうじゃなかったらこの状況の理由が付かない。

 鏡を見る限り、小学校1年生の時の姿。
 だけど私の記憶は26歳の私……
 20年分の記憶がある事をどうやって説明すればいいのか。
 夢だと言って終わらせられるようなことじゃない。

 私はそっとナイフを鞘に戻して、お父さんに返す。
 するとお父さんはそのナイフを元有った書斎の棚に戻した。
 
 あぁ、そうか、私はやり直せるのか……
 ならもっと違った世界を生きよう。

 こうして私は〝二回目の人生〟をやり直す。

 
 今まで覚えてきたことを使えば、特に問題は発生しなかった。
 それなのに、どうしてこうなったの……
 結局私はこのビルの屋上にいる。
 あのナイフを持て。
 私は2回目の人生にも絶望した。
 今回はお父さんも健在の世界。
 だけど私はこの会社の資金の横領疑惑をかけられてしまった。
 いくら無実を主張しても通らなかった。
 また体のいいスケープゴートに仕立て上げられたらしい。

 この世界は弱肉強食。
 弱ければ私みたいに食い物にされる。
 それがこの世界。
 だったらこの世界に喧嘩を売ってやる。
 お前たちの好きになんかさせてたまるか。
 きっと私はこの世界のイレギュラー。
 だったらこの世界のイレギュラーをもっと増やしてやる。
 そしてもっともっとこの世界を混乱させてやる!!

 私の願いはただ一つ!!
 世界よクソくらえ!!

 こうして私は、また首を切り空へとダイブした。


 それからこの世界は私の実験場と化した。
 私が死ねばすべてがリセットされる世界。
 なら実験のし放題ってモノだ。
 手始めに、どれだけ壊せば生物が死ぬか……
 最初から人間は抵抗が有ったから、小さな生き物から始めた。
 それから猫……犬と進んで、今最後の一ピース。
 人の破壊。
 ターゲットは正直どうでもよかった。
 ただ小柄な私でも問題なく壊せる相手。
 屈強な男性は無理。
 だからと言って子供をって気持ちにはなれなかった。
 そこで目を付けたのが、浮浪者。
 この街も例に漏れず、一定数の浮浪者が存在している。
 彼らの一人が消えたとしても、世の中は何にも思わない。
 だってこの街の人口の一人としてカウントされていないんだもの。
 彼らも私と同じ、世界から隔離された存在なのかもしれない。

 その後の対応はとてもシンプルだった。
 公園で暮らす彼らの一人をお金を渡す。
 その条件はベンチに座る事。
 ただそれだけ。
 そしてその男性に向けて、私はボーガンを放つ。
 何度も何度もこの日の為に練習して、命中精度を上げてきた。
 そしてその成果は見事本番に現れた。
 ボーガンは見事に心臓を捉え、浮浪者は息絶えた。
 うん、何も感情はわかない……

 そして私はついに計画を始める決意をした。
 私と同じイレギュラーの大量生産。
 とは言え、このナイフにはちゃんとしたルールがあった。
 そのルールはこのナイフで殺した人間への強い思い。
 それがその時間軸への移動の起点を定める〝儀式〟。

 そしてあの日、私は実行に移した。
 悠君が輝君を振った日。
 輝君が元居た家に向かうのを確認して後を追う。
 案の定輝君は壊れかけていた。
 だから私から輝君へのプレゼントを渡す。
 このくそったれな世界の、くそったれな閉鎖空間への片道切符。

「大丈夫だよ輝君……失敗したらやり直せばいいんだから。何度でも何度でも……ほら、失敗は成功の基って言うでしょ?だったらやり直そうか?」

 私は輝君の首を切り裂き、その後自分の首を切り裂いた。
 さあ、新しい世界の始まりだよ……
 待っててね、悠君も今度迎えに行くからね…… 
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