15 / 18
荒涼たる荒野のゴルゴーン
しおりを挟む
思っても見ない問題が生じました。体育から戻ってきたらなんと大切な物がなくなっています。
私が裏図書室から借りた本が無くなっているのです。
これは本当に由々しき事態です。何せ、返却期限が過ぎたら超過分は寿命で調整されてしまうのです。
困りました。途方に暮れるとはこのことを言うのでしょうか。
青ざめながらアタフタとリュックの中身をひっくり返している私に、蛇塚さんが近寄ってきました。
「何か探し物? 例えば、白い本とか?」
「そうです。それです」
咄嗟に返答してしまいました。私の返事に満足したのか、蛇塚さんはニィタァと不吉な笑みを浮かべます。
ちょっと引いてしまいました。
「その本なら、廊下の窓から落ちるのを見たわぁ。きっと裏庭に落ちてるんじゃなぁい?」
「ありがとうございます」
お礼を言ってすぐに拾いに向かおうとしたところ、蛇塚さんに呼び止められてしまいました。
「終学活が終わってからじゃないと、怒られるわぁ」
「重ね重ねありがとうございます」
確かに私の足では拾って戻ってきた頃にはみんなが下校しているでしょう。
蛇塚さんは実はいい人なのでしょうか。
「さようなら」の挨拶を終えると私はリュックを背負い、学習用タブレットを手に持ち教室を後にしました。
西日を校舎が遮り、濃い黒色の陰影の中を必死に探しましたが、本が見つかりません。蛇塚さんに騙されたのでしょうか。
「探し物はこれかしらぁ」
陰湿な声につられて顔を上げました。
日陰の中からぬるりと蛇塚さんが現れました。
本は蛇塚さんのおかげで見つかりました。
問題は、蛇塚さんが右手に鋏を持ち、左手に本を持っていることです。
「それです。その本です。ありがとうございます」
返してもらえる可能性に賭けて、受け取ろうとしますが、サッと。身を引かれてしまいました。
やはり、ただでは返してくれないようです。
「返して欲しければぁ。ここで全裸で土下座してお願いしてぇ」
「はい?」
思いもよらない要求をされてしまいました。
私の思考が現実についていかずに石化していると、だんだん蛇塚さんが苛立ってきました。
「嫌ならぁ、この本を切るわぁ」
ちょきん。
ちょきん。
と音を立てながら大袈裟に鋏を動かし、ゆっくりと本へ近づけていきます。
「やめてください」
「ふーん。やめてほしいんだぁ。ならぁ、どうすればいいか分かるわよねぇ」
「全裸で、土下座ですか?」
「わかっているじゃなぁい」
陰湿にニタニタしながら勝ち誇っているようです。
けれども、私は攻略本のおかげで蛇塚さん対策もバッチリです。
ずっとカメラアプリを起動状態で持っていた学習用タブレットを蛇塚さんへ突きつけます。
「ここに鏡に写された真実があります。悪行の全ては白日の元に」
「はぁっ。ちょっと、何なのよそれ!? まさかずっと隠し撮りしていたの?! サイテーシンジランないんだけど」
地団駄を踏みながら取り乱しています。まさか、ここまで効果的面だったなんて考えても見ませんでした。
恐るべし、本の力です。
ただ、私は油断して失念していました。ゴルゴーンを倒すのは勇者でなければいけないということを。
私ではダメだったのです。
私はあっさりと蛇塚さんにタブレットを奪い取られて砂利の上に叩きつけられてしまいました。
物語を参考に啖呵まで切ったのに実に無念です。
「そこまでよ」
凛とした夏海さんの声が裏庭に響きます。
「私が一部始終を撮影したわ」
夏海さんは、学習用タブレットを印籠のように突き出していました。
片手で持ったせいでしょうか。タブレットの重さに耐えきれず、腕がプルプルしています。
「返すわこんなのぉ」
蛇塚さんは本を投げ捨てて、夏海さんと逆の方向へと走り去っていきました。
私と夏海さんの連携の勝利です。
蛇塚さんが逃げ出したのを確認したら、急に膝がガクガクと震え出しました。
「怖かったです。本当に恐かったのです」
「いいこいいこ。雪菜はちゃんと頑張れたよ。えらい、えらい。」
膝が笑い、立っていられない私を夏海さんが支えるように抱きしめてくれます。
以前、私が夏海さんにしてあげたように背中をポンポンと優しくたたいてくれています。
震えている心が次第に平静を取り戻していきます。
拍動が落ち着いてくると夏海さんの体温を意識してしまいます。確かに、夏場はあついかもしれません。
「あっ」
夏海さんがやったように私もあついと言って離れようとした矢先に、私の口を夏海さんの唇で塞がれてしまいました。
顎をくいっと細く綺麗な指で持ち上げらえたかと思うと、朱が差しているであろう私の頬に左手が添えられます。
驚きで私は大きく目を白黒させました。けれども、離れようとも逃げようとも思いはしませんでした。例え逃げようとしても夏海さんは逃がしてくれる気はないと思いますが。
どのくらいそうしていたでしょうか。
一瞬だったかもしれませんし、永遠にそうしていたのかもしれません。
私はすでに恋に落ちていたのでしょうか。
夏海さんも私とお揃いで赤くなっています。
どこまでも澄んだ瞳には茫然としている私が映っています。
何て綺麗な目なのでしょう。人の目というのはこんなにも美しいものだったのですね。
人の目を見て話せない私は初めて知りました。
「ごめんね。でも、これが最後だから許してね」
そう告げるや否や夏海さんは走り去ってしまいました。
ぽつねんと誰もいない裏庭に1人立ちすくみます。
私が裏図書室から借りた本が無くなっているのです。
これは本当に由々しき事態です。何せ、返却期限が過ぎたら超過分は寿命で調整されてしまうのです。
困りました。途方に暮れるとはこのことを言うのでしょうか。
青ざめながらアタフタとリュックの中身をひっくり返している私に、蛇塚さんが近寄ってきました。
「何か探し物? 例えば、白い本とか?」
「そうです。それです」
咄嗟に返答してしまいました。私の返事に満足したのか、蛇塚さんはニィタァと不吉な笑みを浮かべます。
ちょっと引いてしまいました。
「その本なら、廊下の窓から落ちるのを見たわぁ。きっと裏庭に落ちてるんじゃなぁい?」
「ありがとうございます」
お礼を言ってすぐに拾いに向かおうとしたところ、蛇塚さんに呼び止められてしまいました。
「終学活が終わってからじゃないと、怒られるわぁ」
「重ね重ねありがとうございます」
確かに私の足では拾って戻ってきた頃にはみんなが下校しているでしょう。
蛇塚さんは実はいい人なのでしょうか。
「さようなら」の挨拶を終えると私はリュックを背負い、学習用タブレットを手に持ち教室を後にしました。
西日を校舎が遮り、濃い黒色の陰影の中を必死に探しましたが、本が見つかりません。蛇塚さんに騙されたのでしょうか。
「探し物はこれかしらぁ」
陰湿な声につられて顔を上げました。
日陰の中からぬるりと蛇塚さんが現れました。
本は蛇塚さんのおかげで見つかりました。
問題は、蛇塚さんが右手に鋏を持ち、左手に本を持っていることです。
「それです。その本です。ありがとうございます」
返してもらえる可能性に賭けて、受け取ろうとしますが、サッと。身を引かれてしまいました。
やはり、ただでは返してくれないようです。
「返して欲しければぁ。ここで全裸で土下座してお願いしてぇ」
「はい?」
思いもよらない要求をされてしまいました。
私の思考が現実についていかずに石化していると、だんだん蛇塚さんが苛立ってきました。
「嫌ならぁ、この本を切るわぁ」
ちょきん。
ちょきん。
と音を立てながら大袈裟に鋏を動かし、ゆっくりと本へ近づけていきます。
「やめてください」
「ふーん。やめてほしいんだぁ。ならぁ、どうすればいいか分かるわよねぇ」
「全裸で、土下座ですか?」
「わかっているじゃなぁい」
陰湿にニタニタしながら勝ち誇っているようです。
けれども、私は攻略本のおかげで蛇塚さん対策もバッチリです。
ずっとカメラアプリを起動状態で持っていた学習用タブレットを蛇塚さんへ突きつけます。
「ここに鏡に写された真実があります。悪行の全ては白日の元に」
「はぁっ。ちょっと、何なのよそれ!? まさかずっと隠し撮りしていたの?! サイテーシンジランないんだけど」
地団駄を踏みながら取り乱しています。まさか、ここまで効果的面だったなんて考えても見ませんでした。
恐るべし、本の力です。
ただ、私は油断して失念していました。ゴルゴーンを倒すのは勇者でなければいけないということを。
私ではダメだったのです。
私はあっさりと蛇塚さんにタブレットを奪い取られて砂利の上に叩きつけられてしまいました。
物語を参考に啖呵まで切ったのに実に無念です。
「そこまでよ」
凛とした夏海さんの声が裏庭に響きます。
「私が一部始終を撮影したわ」
夏海さんは、学習用タブレットを印籠のように突き出していました。
片手で持ったせいでしょうか。タブレットの重さに耐えきれず、腕がプルプルしています。
「返すわこんなのぉ」
蛇塚さんは本を投げ捨てて、夏海さんと逆の方向へと走り去っていきました。
私と夏海さんの連携の勝利です。
蛇塚さんが逃げ出したのを確認したら、急に膝がガクガクと震え出しました。
「怖かったです。本当に恐かったのです」
「いいこいいこ。雪菜はちゃんと頑張れたよ。えらい、えらい。」
膝が笑い、立っていられない私を夏海さんが支えるように抱きしめてくれます。
以前、私が夏海さんにしてあげたように背中をポンポンと優しくたたいてくれています。
震えている心が次第に平静を取り戻していきます。
拍動が落ち着いてくると夏海さんの体温を意識してしまいます。確かに、夏場はあついかもしれません。
「あっ」
夏海さんがやったように私もあついと言って離れようとした矢先に、私の口を夏海さんの唇で塞がれてしまいました。
顎をくいっと細く綺麗な指で持ち上げらえたかと思うと、朱が差しているであろう私の頬に左手が添えられます。
驚きで私は大きく目を白黒させました。けれども、離れようとも逃げようとも思いはしませんでした。例え逃げようとしても夏海さんは逃がしてくれる気はないと思いますが。
どのくらいそうしていたでしょうか。
一瞬だったかもしれませんし、永遠にそうしていたのかもしれません。
私はすでに恋に落ちていたのでしょうか。
夏海さんも私とお揃いで赤くなっています。
どこまでも澄んだ瞳には茫然としている私が映っています。
何て綺麗な目なのでしょう。人の目というのはこんなにも美しいものだったのですね。
人の目を見て話せない私は初めて知りました。
「ごめんね。でも、これが最後だから許してね」
そう告げるや否や夏海さんは走り去ってしまいました。
ぽつねんと誰もいない裏庭に1人立ちすくみます。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
烏孫の王妃
東郷しのぶ
歴史・時代
紀元前2世紀の中国。漢帝国の若き公主(皇女)は皇帝から、はるか西方――烏孫(うそん)の王のもとへ嫁ぐように命じられる。烏孫は騎馬を巧みに操る、草原の民。言葉も通じない異境の地で生きることとなった、公主の運命は――?
※「小説家になろう」様など、他サイトにも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる