少女の手には呪いの本

七海 司

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勇者と魔王は共に落ちる

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物語は現実になる。

 裏図書室の死につながる4つのルールの一つです。
 
 物語だと魔王と勇者は共に溶岩の中に落ちていきました。
 物語が現実となるのであれば、溶岩は火でしょうか。だとすると焼死?

 いえ。いいえきっと違います。物語で特に力を入れて書かれていたところは、突き落とすところです。恐らく、夢の通り夏海さんは駅のホームで真尾さんをホームへ突き落とすつもりです。もしかしたら、あのRAINは遺書のつもりなのかもしれません。物語通りに一緒に飛び降りてしまうつもりでしょうか。

 私は慌てて家を飛び出しました。向かう先は夢で見た最寄駅のホームです。




 いました。駅のホームで夏海さんと真尾さんが談笑しています。

「なんで?!」
 真尾さんの手には見慣れた白い本が握られています。
 慌てて、鞄の中にしまっておいた白い本を確認します。

 ありました。確かに私が借りた本は私の手の中にあります。
 嫌な予感が大挙して押し寄せてきます。
 
 もし、真尾さんも裏図書室に行って本を借りていたとしたら。
 もし、真尾さんが最後まで物語を読み終えていたとしたら。
 もし、夏海さんが、物語に従って真尾さんをホームへ転落させようとしていたら。
 もし、真尾さんが夏海さんの考えを見抜いていたら。


 夏海さんだけが、ホームから転落してしまいます。


 何としても阻止しなければいけません。

「夏海さん」
 生まれて初めての大きな声です。自分自身、こんなにも大きな声が出るなんて今まで知りませんでした。
 
 乗客の方々がこっちを一瞬だけ見ますがすぐに興味を無くしたようです。
 それでも道をあけてくれました。
 わずかにできた道を走り、2人に近づいきます。

「あら、日色さん。ちょうど良かった」
 私は、真尾さんに引っ張られ、抱き寄せられてしまいました。

 これでは人質です。
 
「うふふ。まさか貴方も裏図書室で本を借りていたなんてね。何の偶然かしら。それとも同じ本を借りてしまったのは運命かしら?」
 いたずらっぽく笑います。学校での冷笑ではなく本当に楽しそうです。

「やっぱり、真尾さんの本もそうなのですね」 
「ええ、そうよ。裏図書室にある予言の書。これらのおかげで、いろいろな事が上手く運んだわ。定期テストなんて問題が解っていれば楽勝ね」
「うわっ学年一位の秘密がまさか、まさかのカンニングだったなんて」
「あら? 何を言っているのかしら? 図書室にある本を読んで勉強したことをカンニングだなんて酷い言い草ね」
 ふんっと真尾さんは鼻で笑い飛ばします。

 何でしょう。何かが引っ掛かります。
 夏海さんと真尾さんの転落を避けられる妙案を思いつきそうな予感がします。

 いえ、ダメです。転落を避けることはできません。本に書いてあることは現実に起こってしまうのですから。

 夏海さんと真尾さんが言い合っている間に、私は必死に思考を巡らせます。

 いっそのこと別なところへ転落させてしまいましょうか。

 でもどこへ?

「まもなく、電車が参ります。白線の内側までおさがりください」
 電車の到着を告げるアナウンスです。

 それと同時に階段を小走りに降りてきたおじさんが私にぶつかってきました。
「きゃ」
 衝撃でバランスを崩し、2歩後ろに下がってしまいました。

 たった2歩。

 真尾さんと一緒にホームから線路へ転落するのには十分すぎる距離でした。

「日ーーー色ーーーーーーひーーーいろーーーーー。勇者は貴方かぁあああああ」
 落下しながら、真尾さんが叫びます。

 いいえ。私は勇者ではありません。そんなはずは無いのです。間違いなく、本の通りの出来事に巻き込まれたのは夏海さんです。

「痛っ」

 落下した衝撃で足を痛めて動くことができなくなってしまいました。真尾さんも同じように身動きが取れないようです。
 
 電車がもう、視界に入っています。今からでは、もう待避所への避難も間に合いそうにありません。

 もし、本当に私が勇者ならば魔王を倒すことができるはずです。

「私は国語の学習コンテストで100点でした。真尾さん。首位転落です」

 もう、ヤケクソです。何でもいいので、思いつく限りの方法で真尾さんを転落させます。

 せっかく、夏海さんという友達ができたのです。人生を諦めてたまるものですか。

 警笛と電車の車輪が線路を削るキィイイという耳障りな音が、体全体に響きます。

 もう、ダメです。真尾さんを転落させる方法が思いつきません。

 電車はブレーキをかけているようですが、止まる気配はありません。

 目を瞑り、くるであろう衝撃を覚悟します。
 きっと、痛いのでしょう。四肢がバラバラにされてしまうはずです。私は、真っ赤に染まってしまうはずです。

 何も起こりません。

 恐る恐る目を開けると電車は私の鼻先5センチほどで停車していました。

「2人とも無事?!」
 
 夏海さんがホームから飛び降りてきてしまいました。
「はい。私は何とか無事です」
「ちょっと足を捻ったくらいで、何ともないわ」
「よかった。本当によかった。非常停止ボタンが近くにあってよかった」
 夏海さんが大泣きしながら私たち2人を抱きしめます。

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