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白百合、叫ぶ
しおりを挟む私は瞠目した。
人間の言葉を理解している、とは言われていたが人の言葉を喋るなんて聞いた事が無い。
鉄鱗竜は大きく翼を広げると、飛び立つ。
その時だ。
轟音と共に、上空が真っ暗になる。
ギィヤアァアアア!!!!!
耳を劈く咆哮に、何人かが蹲ってしまう。
一面を覆い尽くすそれは、大きく
頑丈な鱗は鈍く光り、ゾクリと寒気がした。
親だ。
『愚かな人間共よ。その罪、償え』
重低音が心臓に響く。
真っ赤な眼で一睨みすると、口が大きく開いた。
「ぎゃあああ!!!」
怒りに身を任せた鉄鱗竜の親は、帝国軍に向けて火を吐いた。
「ノエル!!」
「はっ!」
直ぐにノエルが魔道具の中から大量の水を小さく纏めたカプセル型のボールを空に投げて、消火を行う。
それは雨の如く降り注ぎ、火は一気に沈静化する。
怪我人が出てしまったので、其方の対応はお義父様に任せた。
『小癪な。お主、アルディアンのものか』
「そうだ。鉄鱗竜よ、お前の子どもに危害は加えない。加えさせない。
だからどうか、巣に戻ってはくれないか?」
親はまだ何かを言おうとしたが、先程の子どもが親の身体をグイグイと押しながらグルグルと喉を鳴らしている。
『………今日の所は、そこの娘に免じて許してやろう。二度は無い、覚えておくことだ』
親はシルヴィの方に目線をやると、フイッと私達から背を向ける。
どうやら子どもが説得してくれた様だ。
子どもはシルヴィに向かって頷くと、親と共に領地の方へと飛び立って行った。
私はホッと胸を撫で下ろすと、シルヴィの方へと駆け寄る。
「シルヴィ!」
「カミュ」
「大丈夫?……こんなに切り傷だらけになって…」
彼女には薄い沢山の切り傷が出来ていた。その手を取り、優しく撫でる。
「か、カミュ……大丈夫、大した事ないから。み、皆が見ているから」
「構わない。直ぐに駆け付けられなくてごめんね…」
「構うんだが…、それは大丈夫だ。あの子の事を優先したんだろう?」
「うん…、シルヴィの元へ行きたくてうずうずとしてしまったよ…」
「ありがとう。私を信じてくれて」
「うん。凄いな、私の黒鷲さんは。無茶はしないで欲しいけどね」
「ふふふ、それは約束出来ないかもしれない」
「勘弁して」
二人で冗談を言うと、笑い合う。
「無事で良かった」
彼女の頬にソッと触れ、親指で頬を撫でた。
みるみると顔が紅くなってしまうシルヴィは、いつものシルヴィだ。
「……ゥオッホン!」
大袈裟な咳払いにハッとなる。
そういえば忘れていた。
「父上…」
「邪魔をしてすまない。事後処理の為にお二人にはご同行願いたいのだが、宜しいかな?」
「お義父様、その件ですが私一人で参ります」
「カミュ?」
「…シルヴィ、今日はもう休んだ方が良い。小さいが、傷が多い。手当をして欲しいんだ」
シルヴィは少しだけ悲しい顔をしたが、自分の身体を見てから頷いてくれる。
「そ、そうか。分かった、ではカミーユ殿は此方へ」
「ありがとう御座います。従者を一人だけ連れて行きます。シルヴィの帰りは其方の方にお願いしても宜しいですか?
「そうさせて貰おう」
シルヴィを帝国軍にお願いして、私はお義父様と王城へと向かう。
まさかパーティーより先に王城へと足を運ぶ事になるとは……分からないものだな。
道中、一応お義父様に誰の命か聞いてみたが「行けば分かる」との事だったので確信が持ててしまった。
馬を走らせ、王城に到着すると直通で部屋に通された。
人払いがされ、私とお義父様とノエルだけが残った。
窓の方を向いていた椅子が此方を向くと、やはり知った顔がそこにあった。
「久しぶりだね、カミーユ!!」
「コーデリアン殿下、お久しぶりで御座います」
「おいおい、昔の様に気さくに話してくれよ」
「………昔から気さくに話してはいないと思われますが」
「ははは!それも、そうか!相変わらず真面目だな!」
この人物は帝王の二の王子、コーデリアン殿下。
私とは学友なのだが、お互い飛び級しているので深い仲という訳では無い。
「所で、どうして竜を逃してしまったんだい?私は竜が欲しかったのに」
今まで笑っていた顔がぐるりと変わり、目がキラリと光る。
来た、厄介な奴だ。
「あれは子どもです。親が来ては国が滅びかね無い。実際、妻のシルヴィアが何とかしてくれましたがもうすぐで壊滅的な被害を受ける所でした」
「え~、なんだ。そうだったんだ。折角、竜を見付けたのに国無くなったら意味無いかぁ~」
彼はコロコロと笑う。
「ん~。じゃあ、お礼を言うべきだよね。ありがとう、カミーユ。
マルコスも態々すまないね。とんだ骨折り損だ」
「いえ、お礼は必要御座いません。ですが、今後竜へは危害を加えないと約束して下さい」
「あのレア素材を逃したのに?」
私はその言葉にグッと怒りを堪えた。
だから領地以外に必要以上の魔物の素材を流したく無いんだ。
ただの素材としか思っていない。
その時、扉がバンッと音を立てて開かれた。
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