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白百合、思案する
しおりを挟むガタゴトと揺れる馬車の中
シンと静まり返る此処で何故だ、と頭を悩ませる。
それもこれも、父上とボーデンが原因だ。
シルヴィが折角可愛いドレスを着られる様になったのに。しかも私に釣り合いたいのだ、と言う。
それにだ、なんだか良い雰囲気だったのにぶち壊されて久々に雷を落としてしまった。
まぁ、そこは反省だな。
シルヴィは可愛い物が好きだ。
そして可愛い人も好きなのでは無いかと考えていた。でないと、こんな奴との婚姻受けては貰えないだろうしね。
だからこそ、恋愛には発展しないのでは…との懸念が有ったのだ。
まぁ、そっちの線も濃厚なので考え過ぎない様にしなければ。
「シルヴィ」
「な、なんだ」
「ふふふ、緊張してる?」
「…してる」
「父上とボーデンが済まなかったね。本当は、もっと緊張を取ってあげてから来たかったんだけど…」
「いや、大丈夫だ。この格好に慣れないだけだ…。ほら、見えてきた」
シルヴィはモジモジとしながら、目に入った王城を指差した。
「シルヴィ。パーティー迄は少し時間が有る、少し父上と母上と待って居てね」
「あぁ、分かった。宝石を見せに行くんだったな」
「そうだよ、商売をしにね。そして、これは君に」
私は座席の中から小箱を取り出すと、シルヴィの手に乗せた。
「そんな所から…。これは?」
「開けてみて」
シルヴィがその小袋を開けると、中にキラキラと輝くネックレスが入っている。
「ピアスとお揃いの色にしてみたから、是非付けてね」
「ま、また、こんな高価そうなもの……」
「私個人が所有している山で採れたんだ。
今回は遠国から遥々色んな方が来ると思う。我が領地の魔物以外の特産物にしたいんだ。領地の為だと思って着けてね」
そう言ってニコリと笑うと、グッと言葉を詰まらせてシルヴィは頷く。
「着けてあげるよ。後ろを向いて」
シルヴィは何も言わずに隣に座った私に背中を向ける。
「まぁ…、ただただシルヴィは私の妻だと皆に見せびらかしたいだけなんだけどね」
私の瞳の色を纏う彼女は美しい。
独占欲で満たしたくなる。
そんな黒い感情を押さえつけて、無事に着け終えたので肩を叩く。
彼女はビクリと肩を揺らすと真っ赤な顔でプルプルと震えながら此方を向く。
「にっ!似合ってるだろうかっ!」
私が言った言葉を受けて恥ずかしくなって声量を間違えたのだろう、大きな声に少しビックリしてしまい反応が遅れた。
「……どうだろうか?」
すると、しゅんと肩を下げて上目遣いで聞いてくる。
どうやら、私を悶え殺したいようだ。
「…ごめんね。とっても似合っているから言葉が出なかったんだ」
そう言うと、彼女は少し嬉しそうに笑った。
二人で笑い合うと、王城に到着した。
さぁ、決戦だ。
*************
「ご苦労様でした。では、パーティーで」
帝王に仕える役人に約束していた宝石を渡し、もう参加者が集まっているホールの方へと歩き出す。
自分の身に付ける物だ、姫も来るかと思ったが私の選んだ物で良いとの事だったので来なかった。
それは、それで何だか複雑だが関わるのも最後だ。良しとしよう。
「か、カミュ………何だか近くないか?」
「ごめんね、今日は許して貰えると有難い。こうでもしないと、色々煩いのが寄ってくるんだ」
王城に入ってからというもの、私はシルヴィの腰に手を回してエスコートをしている。
少し歩きにくいが、とっても幸せだ。
「…成程」
「ふふ。さぁ、行こう。今日も、シルヴィはとても素敵だよ」
王城らしい煌びやかな装飾を見ながら、受付を済ませてホールに足を踏み入れた。
ザッと私達に視線が集まる。
此処に来る迄にも幾つかの視線は感じていたが
驚愕、落胆、憤怒等様々な他人からの負の感情が押し寄せる。
だが、気にならないな。
それ以上に、彼女に向けての視線は好意的だ。
まるで鈴蘭を思わせるかのドレス。彼女が着るからこそ花開く、不思議なドレスだ。
今迄、中性的なイメージの強い彼女が自分の好きな物を着て堂々と歩いている姿はとても美しく、見る人を魅了する。
その彼女は、私の腕の中だ。
恍惚とした溜息が聞こえる程に、ホールは静まり返った。
私達はにこやかにホールを歩み、帝王に挨拶を行う。
「続きまして、アルディアン辺境伯」
傍に侍る従者に呼ばれ、腰を低くする。
「面を上げよ。此度はよう来てくれた。
貢物もとても気に入った様だと、先程連絡が入っておる。主役の二人が来るまで、ゆるりとするが良いぞ」
「クルメリオスの御令嬢に祝福あらん事を」
王族の婚姻パーティーだ。
目立ち過ぎてはいけないが、目的は達成した。
私達は『お似合い』であると。
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