8 / 31
第八話 死の香り
しおりを挟む
エラルドが『巨大ラット避け』をくれたおかげで、3階層で巨大ラットの餌食になることもなく、幸運にも別なエネミーにも出会うこともなく、俺たちは無事に4階層に到達した。
辺りは高級な敷物と壁掛けで覆われている。
そう、4階層はかなり特殊な階層で、迷路のように入り組んでいて、さらにかなりの大きさの城なのだ。
広大な2階層の高原や1階層の森林よりは小さいと思いたいけど、この場所はそれに匹敵するほど大きい。
さらには城内ということもあり、恒久エリアと変化エリアとの境目も曖昧だ。
扉を開けた瞬間、そこは危険な変化エリアだったなんてことも俺は経験している。
だからこの4階層で命を落とす生徒なんてのはラリア時代でもよく聞いた話だ。
変化エリアに入った瞬間に4階層では見かけないような強力なレアエネミーとの戦闘に突入する、ということもあるらしい。
だが、俺はラリア時代何度もこの4階層をクリアしているから、5階層へと続くワープポイントの場所も分かっているし、恒久エリアの敵エネミーであるスカルソルジャーは3階層の巨大ラットと比べて狡猾でもないから戦いやすい。
だからワープポイントの部屋まで行くことについては問題はないと思っている。
ただ、そのワープポイントがある部屋が問題だ。その部屋には他の階層の敵とは比較にならないほど強い、敵エネミーがいる。
所謂、ボスキャラだ。
戦闘方法もどこが弱点なのかも把握はしているが、油断はできない。
なにせ俺には副作用と、魔法を知っていても使ったことがないという最大のハンデがある。
さて、どうしようかなんて思う。
そういえば、『エラルドは4階層くらいならひとりで行ける』と言っていた。
戦闘が得意じゃないエラルドがどうやってここを攻略したのか気になる。
「エラルド」
「あ? どうした?」
「前に4階層くらいならって言っていたけど。その、戦闘があまり得意じゃないエラルドがどうやってと思って」
「そういえばアラスから話しかけられたのはこれが初めてだな」
エラルドは無表情でそう言っていた。
やはり戦闘が得意じゃないということをストレートに言ったのはまずかったかもしれない。
俺は恐る恐る頷く。
「4階層だって、他の階層と同じく俺たちだけが攻略しようというわけじゃないだろ?」
だが、エラルドはいつものような爽やかな表情でそう言っていた。
杞憂でよかった。
俺はほっと一息つくと頷く。それが気になったのかエラルドは一瞬怪訝な表情をしていたが、元の表情に戻ると、
「そいつらが部屋に出入りするのを確認すれば、何となく、ここが違うってわかるだろ? そうやって4階層をマッピングしていったってわけだ。あと、間抜けで単独行動をするスカルソルジャーを倒すくらい俺にもできるしな」
エラルドは自分の頭を指さしていた。
俺は『なるほど』と感心する。
俺は剣や魔法といった単純な強さだけを求め続けていて、別な視点から見ると違った方法でクリアすることもできるのだ。
「それに、俺だって必殺技の一つや二つくらいあるんだぜ?」
エラルドはそう言うと、今度はショルダーバッグを指さす。
「必殺技って?」
「そりゃーお前......」
「......」
「必殺技は必殺技なんだよ! 簡単に説明したらつまらないだろ?」
エラルドは珍しく挙動不審に目をキョロキョロと左右に動かしていた。
俺はその訳ありの行動に黙って頷く。
「ま、まあ、先を急ごうぜ」
エラルドはそう言って廊下を進む。俺もそれ以上聞く気はなかったので、廊下を進む。
すると、後ろから猛スピードで近づいてくる音が聞こえてくる。
スカルソルジャーとも思ったが、その足音はまるで人間のようで、コツコツと靴が鳴らす独特な音が石材に反響して聞こえてくる。
エラルドもその音を聞いたようで、
「聞こえるか?」
「聞こえる」
俺は剣を抜き構え、エラルドも何やらバッグから取り出してその音の主が姿を現すのを待つ。
音は次第に大きくなっている。そして、それは明らかに靴で走っている音で、「アスク、アスク」と言っているようだ。
俺はそれに恐怖する。エラルドも同様のようで、まるで恐ろしい幽霊が近づくのを待つしかないというような表情をしていた。
「アスク、アスク!」
「......」
「アスクン、アスクン!」
「......」
「アラスくん! アラスくん!」
音の主はそう言うと、姿を現し、俺に抱き着いていた。
「アラスくん! 生きてたー! よかったー!」
ユラは更に意味が分からないことを言い出す。
さらにユラの柔らかいもあたっている。
俺はその意味が分からない現状を何とか打破すべく、ユラの体を引き離す。
「ユラさん? どういうこと?」
俺がそう言うと、ユラは首を振り、
「ユラさんじゃなくて、ユラ!」
「じゃ、じゃあ、ユラ...... これはいったい......」
「アラス君から死の香りがして。それで、私急いできたの!」
「おまえが人のために来るなんて珍しいな」
エラルドは珍種の動物でも見つけたような表情でユラを見ていた。
ユラはエラルドのその発言を無視して、
「間に合ってよかった! でも、アラスくん。たぶんアラスくんに危険が迫っている」
ユラは真剣な表情でそう言っていた。
「話の途中何度も割り込んでわりー。でも、ユラの話はたぶん本当だ」
「そうなの! アラスくん、私を信じて?」
子犬のような目でユラは俺を見ている。
「ユラ。死の香りはどこから発生している」
「たぶん6階層」
「そうか。じゃあ、5階層で引き返そう。幸い、5階層は街だ。6階層にいるリーフェには俺から話す」
エラルドがここまで言うのだ。
俺としてはまだ進みたい気持ちがある。
でも、エラルドやユラは俺の事を本気で心配してくれているのだ。
そんなことがルクランであったか。
おそらくソンネ以外にはいなかっただろう。
俺は素直に頷いた。
辺りは高級な敷物と壁掛けで覆われている。
そう、4階層はかなり特殊な階層で、迷路のように入り組んでいて、さらにかなりの大きさの城なのだ。
広大な2階層の高原や1階層の森林よりは小さいと思いたいけど、この場所はそれに匹敵するほど大きい。
さらには城内ということもあり、恒久エリアと変化エリアとの境目も曖昧だ。
扉を開けた瞬間、そこは危険な変化エリアだったなんてことも俺は経験している。
だからこの4階層で命を落とす生徒なんてのはラリア時代でもよく聞いた話だ。
変化エリアに入った瞬間に4階層では見かけないような強力なレアエネミーとの戦闘に突入する、ということもあるらしい。
だが、俺はラリア時代何度もこの4階層をクリアしているから、5階層へと続くワープポイントの場所も分かっているし、恒久エリアの敵エネミーであるスカルソルジャーは3階層の巨大ラットと比べて狡猾でもないから戦いやすい。
だからワープポイントの部屋まで行くことについては問題はないと思っている。
ただ、そのワープポイントがある部屋が問題だ。その部屋には他の階層の敵とは比較にならないほど強い、敵エネミーがいる。
所謂、ボスキャラだ。
戦闘方法もどこが弱点なのかも把握はしているが、油断はできない。
なにせ俺には副作用と、魔法を知っていても使ったことがないという最大のハンデがある。
さて、どうしようかなんて思う。
そういえば、『エラルドは4階層くらいならひとりで行ける』と言っていた。
戦闘が得意じゃないエラルドがどうやってここを攻略したのか気になる。
「エラルド」
「あ? どうした?」
「前に4階層くらいならって言っていたけど。その、戦闘があまり得意じゃないエラルドがどうやってと思って」
「そういえばアラスから話しかけられたのはこれが初めてだな」
エラルドは無表情でそう言っていた。
やはり戦闘が得意じゃないということをストレートに言ったのはまずかったかもしれない。
俺は恐る恐る頷く。
「4階層だって、他の階層と同じく俺たちだけが攻略しようというわけじゃないだろ?」
だが、エラルドはいつものような爽やかな表情でそう言っていた。
杞憂でよかった。
俺はほっと一息つくと頷く。それが気になったのかエラルドは一瞬怪訝な表情をしていたが、元の表情に戻ると、
「そいつらが部屋に出入りするのを確認すれば、何となく、ここが違うってわかるだろ? そうやって4階層をマッピングしていったってわけだ。あと、間抜けで単独行動をするスカルソルジャーを倒すくらい俺にもできるしな」
エラルドは自分の頭を指さしていた。
俺は『なるほど』と感心する。
俺は剣や魔法といった単純な強さだけを求め続けていて、別な視点から見ると違った方法でクリアすることもできるのだ。
「それに、俺だって必殺技の一つや二つくらいあるんだぜ?」
エラルドはそう言うと、今度はショルダーバッグを指さす。
「必殺技って?」
「そりゃーお前......」
「......」
「必殺技は必殺技なんだよ! 簡単に説明したらつまらないだろ?」
エラルドは珍しく挙動不審に目をキョロキョロと左右に動かしていた。
俺はその訳ありの行動に黙って頷く。
「ま、まあ、先を急ごうぜ」
エラルドはそう言って廊下を進む。俺もそれ以上聞く気はなかったので、廊下を進む。
すると、後ろから猛スピードで近づいてくる音が聞こえてくる。
スカルソルジャーとも思ったが、その足音はまるで人間のようで、コツコツと靴が鳴らす独特な音が石材に反響して聞こえてくる。
エラルドもその音を聞いたようで、
「聞こえるか?」
「聞こえる」
俺は剣を抜き構え、エラルドも何やらバッグから取り出してその音の主が姿を現すのを待つ。
音は次第に大きくなっている。そして、それは明らかに靴で走っている音で、「アスク、アスク」と言っているようだ。
俺はそれに恐怖する。エラルドも同様のようで、まるで恐ろしい幽霊が近づくのを待つしかないというような表情をしていた。
「アスク、アスク!」
「......」
「アスクン、アスクン!」
「......」
「アラスくん! アラスくん!」
音の主はそう言うと、姿を現し、俺に抱き着いていた。
「アラスくん! 生きてたー! よかったー!」
ユラは更に意味が分からないことを言い出す。
さらにユラの柔らかいもあたっている。
俺はその意味が分からない現状を何とか打破すべく、ユラの体を引き離す。
「ユラさん? どういうこと?」
俺がそう言うと、ユラは首を振り、
「ユラさんじゃなくて、ユラ!」
「じゃ、じゃあ、ユラ...... これはいったい......」
「アラス君から死の香りがして。それで、私急いできたの!」
「おまえが人のために来るなんて珍しいな」
エラルドは珍種の動物でも見つけたような表情でユラを見ていた。
ユラはエラルドのその発言を無視して、
「間に合ってよかった! でも、アラスくん。たぶんアラスくんに危険が迫っている」
ユラは真剣な表情でそう言っていた。
「話の途中何度も割り込んでわりー。でも、ユラの話はたぶん本当だ」
「そうなの! アラスくん、私を信じて?」
子犬のような目でユラは俺を見ている。
「ユラ。死の香りはどこから発生している」
「たぶん6階層」
「そうか。じゃあ、5階層で引き返そう。幸い、5階層は街だ。6階層にいるリーフェには俺から話す」
エラルドがここまで言うのだ。
俺としてはまだ進みたい気持ちがある。
でも、エラルドやユラは俺の事を本気で心配してくれているのだ。
そんなことがルクランであったか。
おそらくソンネ以外にはいなかっただろう。
俺は素直に頷いた。
2
あなたにおすすめの小説
S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました
白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。
そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。
王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。
しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。
突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。
スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。
王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。
そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。
Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。
スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが――
なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。
スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。
スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。
この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる