追放されたが、記憶を取り戻した俺は剣と魔法で仲間と共に腐った主義を壊す

カレキ

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第八話 死の香り

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 エラルドが『巨大ラット避け』をくれたおかげで、3階層で巨大ラットの餌食になることもなく、幸運にも別なエネミーにも出会うこともなく、俺たちは無事に4階層に到達した。

 辺りは高級な敷物と壁掛けで覆われている。
 そう、4階層はかなり特殊な階層で、迷路のように入り組んでいて、さらにかなりの大きさの城なのだ。

 広大な2階層の高原や1階層の森林よりは小さいと思いたいけど、この場所はそれに匹敵するほど大きい。
 さらには城内ということもあり、恒久エリアと変化エリアとの境目も曖昧だ。
 扉を開けた瞬間、そこは危険な変化エリアだったなんてことも俺は経験している。

 だからこの4階層で命を落とす生徒なんてのはラリア時代でもよく聞いた話だ。
 変化エリアに入った瞬間に4階層では見かけないような強力なレアエネミーとの戦闘に突入する、ということもあるらしい。

 だが、俺はラリア時代何度もこの4階層をクリアしているから、5階層へと続くワープポイントの場所も分かっているし、恒久エリアの敵エネミーであるスカルソルジャーは3階層の巨大ラットと比べて狡猾でもないから戦いやすい。

 だからワープポイントの部屋まで行くことについては問題はないと思っている。
 ただ、そのワープポイントがある部屋が問題だ。その部屋には他の階層の敵とは比較にならないほど強い、敵エネミーがいる。

 所謂、ボスキャラだ。

 戦闘方法もどこが弱点なのかも把握はしているが、油断はできない。
 なにせ俺には副作用と、魔法を知っていても使ったことがないという最大のハンデがある。

 さて、どうしようかなんて思う。

 そういえば、『エラルドは4階層くらいならひとりで行ける』と言っていた。
 戦闘が得意じゃないエラルドがどうやってここを攻略したのか気になる。

「エラルド」
「あ? どうした?」
「前に4階層くらいならって言っていたけど。その、戦闘があまり得意じゃないエラルドがどうやってと思って」
「そういえばアラスから話しかけられたのはこれが初めてだな」

 エラルドは無表情でそう言っていた。
 やはり戦闘が得意じゃないということをストレートに言ったのはまずかったかもしれない。

 俺は恐る恐る頷く。

「4階層だって、他の階層と同じく俺たちだけが攻略しようというわけじゃないだろ?」

 だが、エラルドはいつものような爽やかな表情でそう言っていた。
 杞憂でよかった。
 俺はほっと一息つくと頷く。それが気になったのかエラルドは一瞬怪訝な表情をしていたが、元の表情に戻ると、

「そいつらが部屋に出入りするのを確認すれば、何となく、ここが違うってわかるだろ? そうやって4階層をマッピングしていったってわけだ。あと、間抜けで単独行動をするスカルソルジャーを倒すくらい俺にもできるしな」

 エラルドは自分の頭を指さしていた。
 俺は『なるほど』と感心する。

 俺は剣や魔法といった単純な強さだけを求め続けていて、別な視点から見ると違った方法でクリアすることもできるのだ。

「それに、俺だって必殺技の一つや二つくらいあるんだぜ?」

 エラルドはそう言うと、今度はショルダーバッグを指さす。

「必殺技って?」
「そりゃーお前......」
「......」
「必殺技は必殺技なんだよ! 簡単に説明したらつまらないだろ?」

 エラルドは珍しく挙動不審に目をキョロキョロと左右に動かしていた。

 俺はその訳ありの行動に黙って頷く。

「ま、まあ、先を急ごうぜ」

 エラルドはそう言って廊下を進む。俺もそれ以上聞く気はなかったので、廊下を進む。

 すると、後ろから猛スピードで近づいてくる音が聞こえてくる。
 スカルソルジャーとも思ったが、その足音はまるで人間のようで、コツコツと靴が鳴らす独特な音が石材に反響して聞こえてくる。

 エラルドもその音を聞いたようで、

「聞こえるか?」
「聞こえる」

 俺は剣を抜き構え、エラルドも何やらバッグから取り出してその音の主が姿を現すのを待つ。

 音は次第に大きくなっている。そして、それは明らかに靴で走っている音で、「アスク、アスク」と言っているようだ。

 俺はそれに恐怖する。エラルドも同様のようで、まるで恐ろしい幽霊が近づくのを待つしかないというような表情をしていた。

「アスク、アスク!」
「......」
「アスクン、アスクン!」
「......」
「アラスくん! アラスくん!」

 音の主はそう言うと、姿を現し、俺に抱き着いていた。

「アラスくん! 生きてたー! よかったー!」

 ユラは更に意味が分からないことを言い出す。
 さらにユラの柔らかいもあたっている。

 俺はその意味が分からない現状を何とか打破すべく、ユラの体を引き離す。

「ユラさん? どういうこと?」

 俺がそう言うと、ユラは首を振り、

「ユラさんじゃなくて、ユラ!」
「じゃ、じゃあ、ユラ...... これはいったい......」

「アラス君から死の香りがして。それで、私急いできたの!」
「おまえが人のために来るなんて珍しいな」

 エラルドは珍種の動物でも見つけたような表情でユラを見ていた。
 ユラはエラルドのその発言を無視して、

「間に合ってよかった! でも、アラスくん。たぶんアラスくんに危険が迫っている」

 ユラは真剣な表情でそう言っていた。

「話の途中何度も割り込んでわりー。でも、ユラの話はたぶん本当だ」
「そうなの! アラスくん、私を信じて?」

 子犬のような目でユラは俺を見ている。

「ユラ。死の香りはどこから発生している」
「たぶん6階層」
「そうか。じゃあ、5階層で引き返そう。幸い、5階層は街だ。6階層にいるリーフェには俺から話す」

エラルドがここまで言うのだ。
俺としてはまだ進みたい気持ちがある。

でも、エラルドやユラは俺の事を本気で心配してくれているのだ。

そんなことがルクランであったか。
おそらくソンネ以外にはいなかっただろう。

俺は素直に頷いた。
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