追放されたが、記憶を取り戻した俺は剣と魔法で仲間と共に腐った主義を壊す

カレキ

文字の大きさ
18 / 31

第十八話 物語は動き始める

しおりを挟む
 リーフェを探しにガリアの街に繰り出すと、リーフェはすぐに見つかった。
 朝食を急いで食べた甲斐があったらしい、リーフェは街の大通り、行きかう人々が大勢いてもすぐに分かった。
 リーフェの珍しい銀髪姿を見れば一目でわかる。分かるのだが、今日のリーフェはどこか様子が違った。
 ルンルンとまるでスキップしそうな勢いで歩いていたリーフェは、なんとケーキ屋さんに入っていたのだ。
 驚きを隠せない俺たち一堂にボケっとした顔をしただろう。だけど、見失うわけにはいかないのでばれないように外から見守る。

「おい、あいつケーキ屋に入ったぞ!」
「それに、今日は特別な日なのかな? ツインテールなんて!」

 エラルドは驚天動地と言わんばかりの表情をしていた。
 ユラはわくわくしている。
 街灯にあるベンチからケーキ屋を一人は気味悪く、一人はワクワクしてみているので、周囲の視線が痛い。

 なので、俺はこの二人から少し遠ざかり、確かに、と思う。
 いつもはストレートヘアーなリーフェだけど、今日はツインテール。しかも、ルンルン気分で甘い物を食べに来ているのだ。
 ユラが言うように、リーフェにとってラリアの男は特別な人なのかもしれない。

「ああー!! リーフェちゃんの表情!」
「おいおい! 嘘だろ! あいつ、どこか具合が悪いんじゃないのか......」

 そんな二人の声に俺も目を凝らしてリーフェを見る。するとリーフェはチョコケーキを一口食べると、体を左右に振りながら嬉しそうに微笑んでいる。
 また一口食べる。するとやはり体を横に振り、微笑んでいる。

 あれ、リーフェってこういうキャラだっけ?
『甘いもの? そんなの食べないわよ』そんなことを言いそうだと思っていたのに、リーフェはとても女の子らしかった。

「あー、クソ。なんか俺、見てはいけない物を見ている気がするぜ。リーフェのあられもない姿を見ているような、そんな感じだ」

 エラルドは何故か頭を抱えていた。

「表現は置いておいて、俺もエラルドに同意だよ。リーフェは知られたくないだろうし」
「そういうことじゃねえ! 俺は...... 俺はあいつに男でいてほしかったんだ!」
「意味が分からないんだけど」
「そうだよ! リーフェちゃんは女の子です! それを男なんて!」
「あいつには、あいつには強いままでいてほしかった...... なぜ女になるんだリーフェ!!」

 エラルドはそう言うと再び頭を抱えている。
 どうやらエラルドはリーフェに対して変な幻想を抱いているようだ。
 ちょっと引いてしまう

「でも、例のラリア人は現れないね」

 頭を抱えているエラルドは無視して、俺はそう言う。

「アラスくん! 女の子は秘密があるものなんです! きっとこれはリーフェちゃんの息抜きです」

 ユラの言い方はまるで自分も秘密があるというような言い方だった。
 まぁ、確かにって思う。俺だって異性に知られたくないことくらいある。
 でも、甘いものを隠す必要は全くないんじゃないか、と同時に思う。
 女の子は難しい。

「そういうものかな?」
「そういうもの!」



 結局そのケーキ屋にラリアの人間は現れなかった。
 あと、ユラの推測は正しかった。リーフェはケーキ屋を出ると、パン屋、別なケーキ屋、ドーナツ屋と甘い店を次々に訪れては体を左右に揺らし、楽しんでいるようだった。

 そんな俺たちはぬいぐるみ屋から出てくるリーフェを再び尾行する。

「またぬいぐるみか?」

 エラルドは嘆息していた。どうやらエラルドは本気でリーフェを男と思いたいらしい。

「正午を少し回ったところだから、昼ご飯じゃないかな?」
「そうだといいんだけどよ。もしそうだとしたら俺たちも何かたべようぜ」
「賛成! もちろん、エラルドの奢りだよね?」
「おいおい、なんでユラは俺にだけ風当たりが強いんだよ! あと、奢らないぞ?」
「ダンジョンで私だけに戦闘させてたんだから、奢ってもいいんじゃ?」

 ユラはにやりと笑いそう言う。エラルドは「くっ!!」と言うと俺を見ていた。
 そんな可哀想なエラルドだったけど、俺は助け船を出す気はなかった。エラルドの目は実際、なにもしてないと言っているようなものだったから。

「まぁ、エラルドが何もやってないんじゃ仕方がないよね」
「いや! 戦うのは怖くてよ!」
「そのための訓練だった!」

 エラルドはぐぬぬと言うと、諦めたのか頷いていた。

「わかった!――」
「アラスくん! リーフェちゃん入ったよ」

 リーフェは高級そうなレストランへと入っていく。そして一人の男が座っている席の向かいに座った。

「あれは......」
「アラスくん?」

 俺はリーフェの目の前にいる人物を知っていた。ラリア王室を古くから支えてきたライズ家。
 その現当主である、ビスマルク・ライズ。

「あの男はビスマルク。ラリアの貴族だ」
「なっ!」
「ということはやっぱり......」
「その可能性が高い。だから急ごう!」
「おう!」
「うん!」

 俺たちはリーフェに気づかれないように、深々と帽子をかぶったまま店内に入る。
 そして店員に無茶を言い、リーフェ達の会話が聞こえるけどバレにくい、そんな席を案内してもらう。
 その間、リーフェ達の近くを通ったが、リーフェは緊張しているのかビスマルクに敵意丸出しな様子で睨んでいたため、気づくことはなかった。

「あんなに敵意丸出しなリーフェ初めて見たぜ」
「バレなくてよかったです......」

 俺たちは席に着くなり、適当に料理を頼むと小声で会話をしていた。

「それに、もうすでに5分経つというのに両者だんまりだ」

 そう、もうすでに5分経つというのに二人は口を開かなかった。
 リーフェはビスマルクを睨みつけたままで、ビスマルクはそんなリーフェの表情を見て楽しんでいるのかニヤリとしていた。
 そのあまりにもピリついた空気は2席離れているというのに十分伝わってくる。
 さらに店内は高級店と言うこともあり、静かだ。それが逆に二人を引き立てている。

 そんな二人を固唾を呑んで見ていると、ついに均衡は破れた。
 ビスマルクはにやりとした表情を保ったまま口を開いたのだ。

「やあ、1週間ぶりだね。会えてうれしいよリーフェ」
「そんな思ってもないことを口にしないで」

 リーフェは更にきつく睨んでいる。

「そんなこと言うな。私たちは家族じゃないか!」
「あんた! 私の両親を殺したくせに!!」

 リーフェはテーブルをドンと叩くと、勢いよく立ち上がる。

「よしなさいリーフェ。リーフェがいくらそう叫ぼうと、誰も信じてはくれない。それとも今ここで私と戦うかい?」

 そう言われたリーフェは下唇を歯で噛みしめていた、血が出るまでに。
 そして、俺は気づいてしまった。リーフェとビスマルクとの関係に。
 ライズ家の当主と妻は4年前に不慮の事故で亡くなったのは、ラリアの農民でも有名な話だ。
 なにせライズ家は農民にも町人にも優しく、皆に慕われていたからだ。
 だから俺もその知らせを聞いた時は、酷く悲しんだことを覚えている。

 そして、今ここにいるのがその犯人と言う事だ。
 一農民だった俺でさえ、この話を聞いて殺意が芽生えるのだ。
 リーフェはどれだけ過酷な人生をこいつのせいで歩んできたんだろうと考えると、いたたまれない。

「わざわざ私を挑発するってことは何かあんたにとっていい知らせがあったからでしょ。さっさと用件を述べて」
「君の下唇を噛んで悔しそうにしている表情はいつ見ても堪らないよ。すごく興奮する」
「くっ!!」
「そうそう。その表情だ」
「いいから早く述べなさいよ」

 するとライズは嘆息する。

「娘であるなら父親との交流は当然のことだろう? 全く......」
「まぁ、いい。私がお願いしたいのは、ラリアとガリアの交流試合でのことだよ。ああ、交流試合が行われる予定なんだ。それで、1年生代表として私たちはアラスくんのいるパーティーを指名した。するとどうだ、パーティーメンバーには都合がよくリーフェがいるんだ。だからリーフェ、お前はこれを使え。魔道具だ。私たちの家宝だよ。そうすれば、ガリアの平民共は降参するしかあるまい」

 ライズはまるでゴミを見るような目でリーフェを見ていた。
 俺は今すぐにでも駆け付けて、この男を殴りたい衝動に駆られる。でも、そうすればこの先の計画があるとして、台無しになる。だから、俺は深く深呼吸する。
 エラルドとユラも同じようで、今にも血管から血が吹き出そうだった。

「なんて卑怯な連中なのかしら。そして、私に拒否権はない」

「その通り。いい子だね、リーフェ。拒否したら君の大事な物はすべて奪う。そして、リーフェもどうなるか分かっているね?」

 リーフェは手を力強く握り、ライズをきつく睨んでいた。
 やはりリーフェはなにか弱みを握られているようだ。

「分かっているわ。命令には従う。そうするしかないでしょ、このクズ!」
「おっと! 口には気を付けたまえ。これでも親子なんだから」
「私はそう思ったことはないわ」
「ふむ。反抗期と言うのは大変だね。まぁ、父はラリアに帰るよ。ここは平民臭くて堪らないからね」

 ライズはそう言い、鼻をつまむと手で仰ぐと、笑いながら席を立っていた。
 残されたリーフェは悔しそうに下唇を歯で噛んだまま俯いていたが、やがて店を出た。
 
 俺はそんなリーフェの後姿を見て、なんだかやるせない思いになった。
 今すぐにでも俺たちで何とかする、そう言いたい。でもできない、そんな感情がぐるぐるするのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

処理中です...