【完結保証】宮廷仕えの聖女の護衛は、王や宰相から追放を言い渡される~聖女の護衛の任は表向きの話。平和のために俺は帝国を黄金時代へと導く~

カレキ

文字の大きさ
3 / 52

第3話 ラッティアの村に立ち寄る

しおりを挟む
アーシス帝国に向かうべく、俺たちはクルザ王国の王都をゆっくりと東進んでいた。
 というのも、俺たちは金こそあまりないが、時間なら少しあった。
 クルザ王国で、孤軍奮闘していたころは睡眠時間は平均4時間程度で、休みなんてものも当然なかった。
 だから、ゆっくりと進んでも罰は当たらないだろうとリスティアと話した結果決まった。

「気持ちいいわねー」

 リスティアが馬車の開いている馬車の窓から顔を出しながら、そう言っていたので、俺は頷く。

「ああ、そうだな。久しぶりにこんなにゆっくりしたよ」

 暖かい日差しと、木の匂いが馬車の中まで入り込んできて気持ちがいい。

「ねえ、たしか、もうしばらく進むとラッティアという村に着くよね」

 リスティアは窓の外の光景を見ていたが、飽きたのか俺を見るとそう言っていた。
 そんなリスティアの表情は、ラッティアに立ち寄りたそうな表情をしていたので、俺は「そうだな。まだ数時間しか経っていないが、立ち寄るか?」と言うと、リスティアは嬉しそうに微笑んだ。

「そうこなくっちゃ! 私もしばらく王都を出ていなかったから、どこか寄りたかったのよ。クルザに帰ってくることも少ないだろうし」

 リスティアはそう言うと矢継ぎ早に、

「ねえ、本当に私が皇帝に仕事を貰えると思う?」

 リスティアは皇帝がまだ悪逆非道だと思っているのか、表情が曇っていた。
 なので、俺はバッグから一枚の魔法写真を取り出す。帝都で撮った集合写真だ。

「ティア、これを見てくれ。この中央に位置するツインテールの子が皇帝だ」

 俺は写真中央で何度も笑顔を繰り返す銀髪ツインテールの女の子を指さす。

「え! 聞いてる話だと、皇帝は頬に切り傷が出ているほどの武闘派だと聞いていたのだけど。それに、女の子?」

 リスティアは驚いていた。

「ああ。その噂は全部クルザのプロパガンダだよ。実際は18歳ほどの少女で、とても優しい。だから、俺たちが帝都で働いたとしてもクルザのような労働環境にはならない。休日は3日あるし、寝る時間だってある。衣食住も用意されていて、まぁ、とにかく困るようなことは何もない。それは俺が保証するよ」

 俺はクルザ国には恩があった。だから王たちに仕えてきたが、自分自身の発言を改めて聞くと、如何に俺の扱いが酷かったか客観的に分かってしまうな。

「そっか...... まぁ、もらえなかったとしたらジークに頼ろうかしら」

 リスティアは俺の顔を覗き込むようにそう言う。

「ああ、もちろんいいぞ」
「なっ! いつもなら、冗談はよせ、なんていうのに、なんで......」

 俯きながら小声でなにかぶつぶつと呟いているティアを、横目に俺は窓の外を見ると、もうすでに馬車はラッティアについていた。

「おい、ティア。ついたぞ!」

 俺は俯いているティアの肩に手を置くと、窓の外を指さす。
 すると、リスティアは俺の指さす方を見る。

「本当ね。でも、こんなに寂れていたかしら」

 リスティアのその言葉は正しく、馬車の窓から見るラッティアの村は暗かった。
 レンガ造りの通りには人が歩いていなく、店の看板でもある魔法掲示板は光っても動いてもいなかった。

「前はこうじゃなかったのか?」
「ええ、前はもっと華やかだったはずなのだけど......」

 俺たちがそんな会話をしながら、窓の外から村の様子を眺めていると一人の老人がこちらに近づいてきていたので、俺たちは馬車から降りた。
 すると、その老人は俺たちに近寄り跪いていた。

「おお、聖女様!! 私はこの村の村長です。 それと、あなたは......従者でしょうか?」
「違います! 彼はジーク。私の、その、親友です!」

 リスティアは被せるようにそう言うと、

「もしかして、帝国と一人で戦い、衰退しかけていた王都を急激に改善し、北の蛮族とも交渉したというあのジーク様ですか?」
「ああ、一応は、そうだな」

 俺は苦笑いをしていただろう。まさか、こんなところでその話を聞くとは思ってもいなかった。

「おお!! そうですか! 聖女様と、ジーク様! ですが、なぜこんなへんぴな地に?」

 男は急激にトーンダウンすると、怯えているような表情を見せた。
 だから、俺は無害だと証明するために笑顔を作る。

「ただ立ち寄っただけさ。だが、なんでこんなにも人がいない?」
「税です、ジーク様。そのためにこの村の主要産業であるクリスタル鉱山に籠りっきりでなければならないのです」

 俺は、なるほどとうなずいた。
 地方の行政を行うのは地方貴族の仕事だ。加えて、王や宰相はどんな内政を行っているのか知ることができる。
 ということは、地方貴族の内政を知りながら無視していたのか、それとも単純に知らなかったのかは知らないが、あの王と宰相が原因だろう。
 地方単位の細かいところに関われない役職だったことが悔しくなる。

「ジーク、それって......」

 リスティアも気づいたのか、険しい表情をしていた。

「ああ、間違いなくあいつらの仕業だろうな。何にも考えていないんだろう」

 俺はそう言うと、カバンの中からクリスタルを取り出し、自らの魔力をクリスタルに分け与え、老人に差し出す。
 せめて、この村だけでも良くするべきだろう。

「ジーク様。どういう事でしょうか?」
「このクリスタルを、魔法掲示板や、それ以外の魔道具につなぐと良い。5年は持つだろう」
「ご、五年ですと!! 普通は1か月持つかどうかというのに。しかし、我々には払う事なんてできません.....」

「その必要はない。受け取ってくれ」

 そう言うと、村長は恐る恐るそれを受け取り、魔法掲示板やそれ以外の魔道具に魔回線と呼ばれる魔法の流れをクリスタルにつなげていた。

 すると、つなげた順から煌びやかな魔法掲示板の光や、エールが入ったジョッキの絵などが動き出す。
 おそらく、この村の生活道具にもクリスタルで拡散した魔力が送られているのだろう。
 つなげた村長の表情はもはやさっきまでの暗い表情ではなかった。

「おおー!! 素晴らしい!! 流石はジーク様! ありがとうございます!!」

 村長はそう言い、その変化に気づいた少数の女性村人と子供たちは、何度も頭を下げていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...