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第三章
星空のダンス
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「お互い忙しい身だから、分担制にしたほうがいいと思うの。それぞれの得意分野で」
「そうですね、僕も賛成です」
仕事で忙しい二人が限られた時間の中で、サプライズパーティー計画を秘密裏に進めていくなら、各自分担して動いたほうが効率が良い。美冬の考えに草太も賛同した。
「本当はふたりで一緒に進めていきたいけれどね」
自ら提案したとはいえ、美冬は草太と二人で行動したいらしい。
「ふたりで行動できる箇所ありますよ。ダンスの練習しないと。僕と美冬さんがペアでダンスを披露して、社長と美代子さんを誘う計画なんですから」
「ダンス……私にできるかしら? 草太くんは踊れるの?」
運動音痴な美冬は不安そうだ。
「僕もあんまり経験ないので、社交ダンス教室で習ってこようと思ってます。友人が紹介してくれたところが、パーティーダンスの基本ステップを教えてくれるそうなので。僕が覚えたことを美冬さんに教えるようにすれば、なんとかなるんじゃないでしょうか? 本格的にダンスをするわけではなく、あくまで家族パーティーですしね」
「そうね。ダンスのほうは草太くんにお任せする。私は父のスケジュールを確認したり、夕子さんと相談して料理や部屋のセッティングなど細々としたことを計画的にできるようにしておくわ。時折進行状況を確認し合いましょう」
「わかりました」
翌日から草太と美冬はまさに怒涛の日々となった。仕事の忙しさに加えてパーティーの準備にダンスの練習。朝から晩まで動き回る日々だ。忙しくてたまらないのに、不思議と苦にはならなかった。
「頑張りましょうね、草太くん」
「はい。頑張りましょう」
ひとつの目的に向かって、二人で相談しながら頑張れることが嬉しかった。お互いの苦手な部分をフォローしながら、手を取り合って努力していけることの素晴らしさ。忙しくとも幸せだった。
(もしかして、結婚ってこういうことなのかな?)
美冬となら生涯共に生きていける。草太は美冬との未来を見据えながら、共に生きていくことの歓びを噛みしめていた。
「美冬さん、足のステップが違います。僕のリードに合わせるようにしてください。無理はしないで」
「わかってる。わかってるけど体がついていかなくて」
「僕に合わせて。はい、ワン・ツー」
「は、はい」
「あっ、イテテ」
「やだ、また草太くんの足踏んじゃった。ごめんね」
「大丈夫です、気にしないで」
ただひとつ問題があった。ダンスの練習である。
草太と美冬で楽しそうにペアダンスを披露して、宗次郎と美代子をダンスに誘うという計画。そのためにはある程度スムーズに踊らなくてはならず、練習は必須だ。しかし、美冬のダンスは一向に上手くならなかった。草太の足を何度も踏み付けたり、転びそうになったり。草太の足も悲鳴をあげており、このままではサプライズパーティーに間に合うかわからなかった。
「ごめんね、ごめんね。草太くん」
「謝らないでください」
半泣きしながら謝る美冬を叱りつける気にはならなかったが、ここまで上達しないと、さすがの草太も焦りを感じ始めていた。
「美冬さん、緊張してますよね? 僕とダンスするの嫌ですか?」
「そんなことない! そんなことないわ。ただ失敗しちゃいけないって思うと、どうしても緊張してしまって。それに」
「それに?」
「このダンスは草太くんと体を寄せ合うでしょ? だからその、ドキドキして
止まらなくなるの。草太くん、意外に逞しいし。やだ、もう私、何言ってるのかしら、本当にごめんなさい!」
真っ赤になった顔を隠す美冬が可愛らしい。しかしドキドキして踊れないのでは問題だ。美冬に意識してもらえるのは嬉しかったが、今はそんなことは言ってる場合ではなかった。美冬の緊張とドキドキを抑えないと、二人のダンスは上手く踊れないのだから。
考えあぐねた草太は、窓から外を眺めた。二人がダンスの練習をできるのは夜だけだ。空には星が美しく瞬いている。草太はひらめくように妙案を思いついた。
「美冬さん、少し外に出ませんか?」
「外? 夜なのよ?」
「夜だからですよ。今日は星がキレイです。星空の下で練習しませんか? 星空のダンスです」
美冬の顔が輝くのを見逃さなかった。美冬は少女趣味なところがある。その部分を満たしてあげれば、緊張も少し解れる気がしたのだ。
二人は手を取り合って美冬の離れ家を出ると、庭園に出た。美代子の好きな薔薇が植えてある庭園は、夜も芳しい薫りを放っている。空には星が瞬き、抜群の
ロケーション。そこはまさに星空のダンスホールだった。
「美冬さん、ここで練習しましょう。うまく踊ろうって考えないでください。
夜の星が僕らを見守ってくれます。きっと大丈夫」
草太が美冬をダンスへと誘うと、美冬はうっとりとした顔で草太と手を絡めあった。
「じゃあ、行きますよ。はい、ワンツー」
美冬の足が驚くほど軽い。草太のリードに合わせて足を動かしてくれる。これまでとは比べものにならないほどスムーズな動きだった。
「美冬さん、踊れてますよ! すごく上手です」
「草太くんのリードが上手いからよ」
「美冬さんの体の緊張がなくなってるんです」
「草太くんの言う通り、星が守ってくれるんだわ。私にはどうにもできなかった体のこわばりや邪よこしまな思いが、星空に溶けて消えていく気がするの。なんてロマンチック!」
美冬は軽やかにステップを踏み、草太のリードに合わせて踊る。とても楽しそうだ。
(良かった、美冬さんが楽しんでくれてる。これならきっと大丈夫だ)
美冬が楽しんでくれれば、体の緊張もほぐれる。星空のダンスは草太が思った以上の効果を発揮してくれたようだ。
「草太くん、私今晩のこと忘れない」
美冬が踊りながら呟いた。
「今晩? ダンスのことですか?」
「星空のダンス、一生忘れないと思う。草太くんは私に沢山の思い出と幸せをくれるの。私、幸せだわ。草太くんが側にいてくれるだけで嬉しかったけど、今はこうして二人で出来ることが何より嬉しいの」
「それは僕も同じです、美冬さんも僕に沢山の思い出と幸せをくれるんです。中にはとんでもない思い出もありますけどね」
「あら、とんでもない思い出って何かしら」
「とぼける気ですか? 意外に小悪魔だなぁ」
二人は楽しそうに笑いながら踊った。空に輝く星に見守れながら、草太と美冬はどこまでも舞い続けるのだった。
「そうですね、僕も賛成です」
仕事で忙しい二人が限られた時間の中で、サプライズパーティー計画を秘密裏に進めていくなら、各自分担して動いたほうが効率が良い。美冬の考えに草太も賛同した。
「本当はふたりで一緒に進めていきたいけれどね」
自ら提案したとはいえ、美冬は草太と二人で行動したいらしい。
「ふたりで行動できる箇所ありますよ。ダンスの練習しないと。僕と美冬さんがペアでダンスを披露して、社長と美代子さんを誘う計画なんですから」
「ダンス……私にできるかしら? 草太くんは踊れるの?」
運動音痴な美冬は不安そうだ。
「僕もあんまり経験ないので、社交ダンス教室で習ってこようと思ってます。友人が紹介してくれたところが、パーティーダンスの基本ステップを教えてくれるそうなので。僕が覚えたことを美冬さんに教えるようにすれば、なんとかなるんじゃないでしょうか? 本格的にダンスをするわけではなく、あくまで家族パーティーですしね」
「そうね。ダンスのほうは草太くんにお任せする。私は父のスケジュールを確認したり、夕子さんと相談して料理や部屋のセッティングなど細々としたことを計画的にできるようにしておくわ。時折進行状況を確認し合いましょう」
「わかりました」
翌日から草太と美冬はまさに怒涛の日々となった。仕事の忙しさに加えてパーティーの準備にダンスの練習。朝から晩まで動き回る日々だ。忙しくてたまらないのに、不思議と苦にはならなかった。
「頑張りましょうね、草太くん」
「はい。頑張りましょう」
ひとつの目的に向かって、二人で相談しながら頑張れることが嬉しかった。お互いの苦手な部分をフォローしながら、手を取り合って努力していけることの素晴らしさ。忙しくとも幸せだった。
(もしかして、結婚ってこういうことなのかな?)
美冬となら生涯共に生きていける。草太は美冬との未来を見据えながら、共に生きていくことの歓びを噛みしめていた。
「美冬さん、足のステップが違います。僕のリードに合わせるようにしてください。無理はしないで」
「わかってる。わかってるけど体がついていかなくて」
「僕に合わせて。はい、ワン・ツー」
「は、はい」
「あっ、イテテ」
「やだ、また草太くんの足踏んじゃった。ごめんね」
「大丈夫です、気にしないで」
ただひとつ問題があった。ダンスの練習である。
草太と美冬で楽しそうにペアダンスを披露して、宗次郎と美代子をダンスに誘うという計画。そのためにはある程度スムーズに踊らなくてはならず、練習は必須だ。しかし、美冬のダンスは一向に上手くならなかった。草太の足を何度も踏み付けたり、転びそうになったり。草太の足も悲鳴をあげており、このままではサプライズパーティーに間に合うかわからなかった。
「ごめんね、ごめんね。草太くん」
「謝らないでください」
半泣きしながら謝る美冬を叱りつける気にはならなかったが、ここまで上達しないと、さすがの草太も焦りを感じ始めていた。
「美冬さん、緊張してますよね? 僕とダンスするの嫌ですか?」
「そんなことない! そんなことないわ。ただ失敗しちゃいけないって思うと、どうしても緊張してしまって。それに」
「それに?」
「このダンスは草太くんと体を寄せ合うでしょ? だからその、ドキドキして
止まらなくなるの。草太くん、意外に逞しいし。やだ、もう私、何言ってるのかしら、本当にごめんなさい!」
真っ赤になった顔を隠す美冬が可愛らしい。しかしドキドキして踊れないのでは問題だ。美冬に意識してもらえるのは嬉しかったが、今はそんなことは言ってる場合ではなかった。美冬の緊張とドキドキを抑えないと、二人のダンスは上手く踊れないのだから。
考えあぐねた草太は、窓から外を眺めた。二人がダンスの練習をできるのは夜だけだ。空には星が美しく瞬いている。草太はひらめくように妙案を思いついた。
「美冬さん、少し外に出ませんか?」
「外? 夜なのよ?」
「夜だからですよ。今日は星がキレイです。星空の下で練習しませんか? 星空のダンスです」
美冬の顔が輝くのを見逃さなかった。美冬は少女趣味なところがある。その部分を満たしてあげれば、緊張も少し解れる気がしたのだ。
二人は手を取り合って美冬の離れ家を出ると、庭園に出た。美代子の好きな薔薇が植えてある庭園は、夜も芳しい薫りを放っている。空には星が瞬き、抜群の
ロケーション。そこはまさに星空のダンスホールだった。
「美冬さん、ここで練習しましょう。うまく踊ろうって考えないでください。
夜の星が僕らを見守ってくれます。きっと大丈夫」
草太が美冬をダンスへと誘うと、美冬はうっとりとした顔で草太と手を絡めあった。
「じゃあ、行きますよ。はい、ワンツー」
美冬の足が驚くほど軽い。草太のリードに合わせて足を動かしてくれる。これまでとは比べものにならないほどスムーズな動きだった。
「美冬さん、踊れてますよ! すごく上手です」
「草太くんのリードが上手いからよ」
「美冬さんの体の緊張がなくなってるんです」
「草太くんの言う通り、星が守ってくれるんだわ。私にはどうにもできなかった体のこわばりや邪よこしまな思いが、星空に溶けて消えていく気がするの。なんてロマンチック!」
美冬は軽やかにステップを踏み、草太のリードに合わせて踊る。とても楽しそうだ。
(良かった、美冬さんが楽しんでくれてる。これならきっと大丈夫だ)
美冬が楽しんでくれれば、体の緊張もほぐれる。星空のダンスは草太が思った以上の効果を発揮してくれたようだ。
「草太くん、私今晩のこと忘れない」
美冬が踊りながら呟いた。
「今晩? ダンスのことですか?」
「星空のダンス、一生忘れないと思う。草太くんは私に沢山の思い出と幸せをくれるの。私、幸せだわ。草太くんが側にいてくれるだけで嬉しかったけど、今はこうして二人で出来ることが何より嬉しいの」
「それは僕も同じです、美冬さんも僕に沢山の思い出と幸せをくれるんです。中にはとんでもない思い出もありますけどね」
「あら、とんでもない思い出って何かしら」
「とぼける気ですか? 意外に小悪魔だなぁ」
二人は楽しそうに笑いながら踊った。空に輝く星に見守れながら、草太と美冬はどこまでも舞い続けるのだった。
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