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第一章 男装陰陽師と鬼の皇帝
二人で内緒の話
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しばらくしてようやく足の痺れがなくなると、星は雷烈の後についていく形で共に歩いていくこととなった。
雷烈の逞しい背中からは、今も鬼の気配を感じる。逃げ出したくなるような恐怖は少なくなっていたが、皇帝を普通の人間だと思い込むことも難しそうだ。
通り過ぎる女官や臣下たちは、雷烈が通るとわかると慌てて端に寄り、膝をついて頭を垂れる。星以外の者にとって雷烈は神のごとく敬われる皇帝なのだ。人ではなく鬼と感じとっている者は、星以外誰もいないようだ。
(陛下は私を客人として気遣ってくださる。お優しい方なのかもしれない。けれど鬼の気配がする方を私まで敬っていいのだろうか……)
考え込みながら皇帝の後ろを歩いていると、雷烈がふいに話しかけてきた。
「天御門 星よ。我が国の太監が失礼なことを申してすまない。あやつは仕事ぶりは真面目なのだが、他の国の人間を見下すところがあるのだ。今後はしっかりと教えるゆえ、許してほしい」
大国の皇帝陛下が臣下の非礼を詫びてくれるとは思わず、星は慌てて首を振る。
「とんでもないことでございます。わたくしこそ庸国の言葉に不慣れで申し訳ござい、ましぇん」
庸国の言葉を聞き取ることはできていても、星にはまだ発音が少し難しいのだ。
「徐々に慣れていくだろうから気にせずともよい。ところでそなたに聞きたいのだが。天御門家は特殊な封印術を得意とする『呪封師』の一族だと聞いたが、その話は真実か?」
「な、なぜ『呪封師』をご存じなのでごじゃい、ますか?」
驚いた星は思わず聞き返してしまった。まさか庸国の皇帝が、呪封師を知っているとは思わなかったのだ。
呪封師と呼ばれる存在は和国の中でも少なく、存在さえ知らない者も多い。数少ない呪封師のほとんどが天御門家の者だ。その存在を公にするのは国のためにも好ましくないとされ、天御門家は表向きは星見やまじないを得意とする陰陽師と名乗っている。ゆえに天御門家が呪封師の一族と知っている人間は、そう多くないはずなのだ。
「申し訳ないが、調べさせてもらった。では天御門 星も呪封師なのか?」
「はい。そうなるかと思いま、しゅ」
「思います? 何やら自信がなさそうな物言いだな」
「申し訳ござい、ましぇん。兄は優秀な呪封師でしたが、わたしはまだ未熟者でして」
「ほほぅ。そなたには兄がいるのか」
「はい、双子の兄がおりました」
「そうか。朕にも兄がいたぞ。優秀な兄上の話を聞かせてくれたら嬉しく思う」
「そ、そうでしゅね……」
双子の兄である優のことを、雷烈に話していいものか悩んでしまう。大国の皇帝とはいえ、鬼の気配がする男に家族のことを話していいのか星にはわからなかったのだ。
無言でうつむいてしまった星を、雷烈はちらりと振り返って確認した。
「事情があるならば、無理に話せとは言わない。だが我が国に招いた以上、そなたには陰陽師として、そして呪封師として働いてもらいたいのだ。そこは受け入れてくれるか?」
「はい。精一杯務めさせていただき、ましゅる」
和国の中でも少ない呪封師という存在を雷烈が知っていたということは、庸国には各国にしっかりとした情報網があるということなのだろう。現在の天御門家がどうなったのか、情報として雷烈は知っているのかもしれない。ならば簡単に話せることではないことも、雷烈は理解しているように思えた。
「呪封師の存在は公になっていないと聞いた。ならば朕の他には呪封師の話は伝えぬほうが良いかと思ってな。そのため、二人だけにさせてもらった」
大国の皇帝であるにもかかわらず、雷烈が従者を連れてこなかったのは、呪封師の話をいたずらに広めないようにしたいという配慮だったようだ。
「お気遣いありがとうございます」
「朕がそなたを我が国に招いたのだから当然のことだ」
小柄な星を見下ろし、優しく微笑む雷烈からは今も鬼の気配がする。気遣いのできる優しい皇帝であると思うだけに、複雑な気持ちで雷烈の後ろを歩く星だった。
雷烈の逞しい背中からは、今も鬼の気配を感じる。逃げ出したくなるような恐怖は少なくなっていたが、皇帝を普通の人間だと思い込むことも難しそうだ。
通り過ぎる女官や臣下たちは、雷烈が通るとわかると慌てて端に寄り、膝をついて頭を垂れる。星以外の者にとって雷烈は神のごとく敬われる皇帝なのだ。人ではなく鬼と感じとっている者は、星以外誰もいないようだ。
(陛下は私を客人として気遣ってくださる。お優しい方なのかもしれない。けれど鬼の気配がする方を私まで敬っていいのだろうか……)
考え込みながら皇帝の後ろを歩いていると、雷烈がふいに話しかけてきた。
「天御門 星よ。我が国の太監が失礼なことを申してすまない。あやつは仕事ぶりは真面目なのだが、他の国の人間を見下すところがあるのだ。今後はしっかりと教えるゆえ、許してほしい」
大国の皇帝陛下が臣下の非礼を詫びてくれるとは思わず、星は慌てて首を振る。
「とんでもないことでございます。わたくしこそ庸国の言葉に不慣れで申し訳ござい、ましぇん」
庸国の言葉を聞き取ることはできていても、星にはまだ発音が少し難しいのだ。
「徐々に慣れていくだろうから気にせずともよい。ところでそなたに聞きたいのだが。天御門家は特殊な封印術を得意とする『呪封師』の一族だと聞いたが、その話は真実か?」
「な、なぜ『呪封師』をご存じなのでごじゃい、ますか?」
驚いた星は思わず聞き返してしまった。まさか庸国の皇帝が、呪封師を知っているとは思わなかったのだ。
呪封師と呼ばれる存在は和国の中でも少なく、存在さえ知らない者も多い。数少ない呪封師のほとんどが天御門家の者だ。その存在を公にするのは国のためにも好ましくないとされ、天御門家は表向きは星見やまじないを得意とする陰陽師と名乗っている。ゆえに天御門家が呪封師の一族と知っている人間は、そう多くないはずなのだ。
「申し訳ないが、調べさせてもらった。では天御門 星も呪封師なのか?」
「はい。そうなるかと思いま、しゅ」
「思います? 何やら自信がなさそうな物言いだな」
「申し訳ござい、ましぇん。兄は優秀な呪封師でしたが、わたしはまだ未熟者でして」
「ほほぅ。そなたには兄がいるのか」
「はい、双子の兄がおりました」
「そうか。朕にも兄がいたぞ。優秀な兄上の話を聞かせてくれたら嬉しく思う」
「そ、そうでしゅね……」
双子の兄である優のことを、雷烈に話していいものか悩んでしまう。大国の皇帝とはいえ、鬼の気配がする男に家族のことを話していいのか星にはわからなかったのだ。
無言でうつむいてしまった星を、雷烈はちらりと振り返って確認した。
「事情があるならば、無理に話せとは言わない。だが我が国に招いた以上、そなたには陰陽師として、そして呪封師として働いてもらいたいのだ。そこは受け入れてくれるか?」
「はい。精一杯務めさせていただき、ましゅる」
和国の中でも少ない呪封師という存在を雷烈が知っていたということは、庸国には各国にしっかりとした情報網があるということなのだろう。現在の天御門家がどうなったのか、情報として雷烈は知っているのかもしれない。ならば簡単に話せることではないことも、雷烈は理解しているように思えた。
「呪封師の存在は公になっていないと聞いた。ならば朕の他には呪封師の話は伝えぬほうが良いかと思ってな。そのため、二人だけにさせてもらった」
大国の皇帝であるにもかかわらず、雷烈が従者を連れてこなかったのは、呪封師の話をいたずらに広めないようにしたいという配慮だったようだ。
「お気遣いありがとうございます」
「朕がそなたを我が国に招いたのだから当然のことだ」
小柄な星を見下ろし、優しく微笑む雷烈からは今も鬼の気配がする。気遣いのできる優しい皇帝であると思うだけに、複雑な気持ちで雷烈の後ろを歩く星だった。
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