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episode1

私の秘密

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 夜の月はやさしく、私を溶かす。溶けた身体は熱い心を秘めたまま、黒く小さな獣の姿へと──。


 私、時村まゆの御先祖は魔女だったらしい。
 冗談だと思う? 私も初めはそう思ったから否定はしないけど。だってヨーロッパならともかく、東洋の、しかも島国の日本で魔女だなんて、何かの冗談と思われても仕方ないと思うから。
 けれど今は、本当のことだと思ってる。

 だって私には、誰にもいえない秘密があるのだから―。


 夜は私にとって、自由と冒険の時間だ。窓を開けると夜空には、月が怪しいほど美しい輝きを放っている。おでかけには絶好の夜だ。

 私は首につけた黒いチョーカーに触れる。チョーカーの真ん中にはラピスラズリのような、ブルー系の貴石がついている。本物の貴石なのか、イミテーションなのかはわからないけど、ちょっと不思議な力をもってるの。これが私の秘密。
 チョーカーの石に触りながら目をつむる。石に触れた手が熱を帯び、ゆっくりと体全体に伝わっていく。その温もりは心地良く、私の体と心を少しずつ溶かしていく。この温もりに身を任せてしまいたい……。もう何度も経験してるけど、この瞬間はちょっと気持ちいい。

 これが変身の合図。溶けた心と体は青い石と共に、ブルーの閃光を放ち始める。それは全身へひろがっていき、私の体を包み込む。青い光は私の体を心地良くほぐし、変幻させていく。体と手足が縮まり、黒い毛に覆われていく。私の体はどんどん変わる。最初はすごく怖かったけど、今もうこの瞬間がすごく楽しい。

 光が消え去ると、私は黒い猫へと変身していた。これが私の秘密。チョーカーは私の変身アイテム。

 最初は「なんで魔法少女じゃないの? 変身っていったら魔法少女でしょ? 魔女っこでしょ?」って思ったけどね。でも誰かを救ったり、ほうきに乗ってひとりで働いたり、ましてや戦ったりするのなんてごめんだもの。猫のほうがずっと気楽。猫の姿で真夜中の散歩をするのが、親を亡くしてひとりぼっちになった私の唯一の楽しみなのだ。
 
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