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第三章 父と娘、蓉子の正体
お誘い
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ぬらりひょんは秘かに九桜院家を調べ始めていた。
馴染みの油すましや一つ目小僧、そしておりんらに、情報を可能な範囲で集めさせ、それらを元に慎重に確認していく。
すでにぬらりひょんの頭の中には一つの疑念があったが、調べていくうちに確信へと変わっていく。
「ふーむ。やはりこれは人間の仕業とは思えぬ。われらと同じあやかしの類か……」
あやかしが相手となると、用心深く動く必要があった。どんな力をもつ存在かわからないと、対処できないからだ。大きな力をもつあやかしが相手ならば、やみくもに動いてはかえって状況が悪くなってしまうことを、ぬらりひょんは経験から知っていた。
「なにより、壱郎の安否が気になる……」
九桜院家の当主である壱郎は、いまや行方知れずとなっている。暴漢に襲われたのか、自ら失踪したのか理由はわからない。壱郎の長女である蓉子は、父が無事に帰ってくることを祈りながら気丈に振る舞い、九桜院家を切り盛りしているという。世間は蓉子に同情し、立派な娘だとほめたたえ、縁談が次々と蓉子の元に舞い込んでいるそうだ。この機に乗じて、名門一家をとり込みたいのだろう。
「この蓉子という、さちの姉もよくわからん女だのぅ。生粋のお嬢様だとしても、九桜院家と契約していたわしに挨拶ぐらいあっても良さそうなのに」
ぬらりひょんは少しずつ真相に近づいているように思えていたが、壱郎の安否が気がかりであるため、容易に動くことはできなかった。
腕を組んだぬらりひょんは目をつむり、ひとり考え込む。何か重大なことを見落としている。そんな気がした。
すると、ひたひたと廊下を歩く音が耳に響いてきた。さちの足音だ。おそらくお茶をもってきてくれたのだろう。
「ぬらりひょん様、お茶をお持ちしました」
「さちか、入りなさい」
「はい、失礼致します」
不可思議な悪夢を見て以降、ぼんやりとすることが多かったさちだったが、おりんと話したことで落ち着きつつあった。何を話したのかはわからないが、さちとおりんの絆が深まっているのは悪いことではないように思えた。
「ぬらりひょん様のお好きなほうじ茶です」
「うむ。さち、礼を言うぞ」
「いえ、そんな……」
ぬらりひょんにお茶を出したのに、さちはなぜか、もじもじとしている。何か伝えたいことがあるようだ。
「さち、どうした? 何かわしに言いたいことでもあるのか?」
「ええ、その、あのぅ……」
「ふむ。なんだ、言ってみよ」
「はい、ですから、その……」
何かを伝えたいのはわかるが、さちの言葉は一向に理解できなかった。頬をほんのりと赤く染めながら、もごもごと口を動かし続けるさちは可愛らしかったが、これではらちが明かない。
「さち、わしは怒らないから言ってみよ」
少し強めに言われたさちは、恥ずかしそうにうつむき、ぽつぽつと話し始める。
「あ、あのおりんさんに、自分の力で幸せになるようにって言われまして。それが私に『幸せになれ』と言われたお父様への恩返しになると、私も思ったんです。だからその、私が幸せになるにはどうしたらいいのか、考えたんです」
「ふむ。それは良い傾向だ。それで、さちが幸せになるには何をしたらいいのだ?」
「は、はい。その……ぬら……様と、ふ、ふたりで……」
「ん? わしのことか? わしとふたりで、なんだ?」
「ぬらりひょん様と、ふ、ふたりでおでかけしたいなって……」
「おでかけ……」
さちの顔が一気に真っ赤になっていく。今にも湯気が出てきそうなほどだ。さちが何を伝えたいのか、ようやくわかってきた。
「ふたりでおでかけ、というのは、ようは逢引のことか?」
「あいびきっ!? そ、そんなあからさまな……」
「なんだ、違うのか?」
「ち、ちがいません、その通りなんですけど……そのまんま言うのは少し、はしたない気がして……」
「何もはしたなくないが? さちが気になるなら、『ふたりでおでかけ』で良いがな。では明日にでも行くか?」
「よろしいのですか? おでかけしても」
「かまわんぞ。では明日にな」
さちの顔がぱっと輝いた。
「ありがとうございます、ぬらりひょん様! では下がらせていただきますね」
踊るような足取りで、さちはぬらりひょんの部屋を出ていった。よほど嬉しかったのか、小声で「うふふ、やったぁ♪」という声まで聞こえてくる。まさかぬらりひょんに聞かれているとは思ってないのだろう。
「可愛らしい娘よの、さちは」
自分で幸せになるためには、まずは心から望むことから始めるのが良いと思ったのだろう。おそらくいろんなことを考え続けて、ようやく思いついたのが、「ぬらりひょんとのおでかけ」だったというわけだ。
幸せになるために、もっと多くのことを望んでもよさそうなのに、逢引から始めたいと思うところが、控えめなさちらしい考えだった。
壱郎から預かるだけと思っていた少女が、いまやぬらりひょんにとって失いたくない宝物になりつつあった。しかし大切に思えば思うほど、ぬらりひょんにとってさちが弱点になることを意味している。
「弱みを作りたくないから、人間の嫁をもらわなかったというのにの。さてさて、どうしたものか……」
ひとりになったぬらりひょんは、再び考え始める。大切な宝を守りぬくためには、何をすべきなのか。優先事項があやかしよりも、さちになっている己に苦笑しながらも、なおも思案するぬらりひょんだった。
馴染みの油すましや一つ目小僧、そしておりんらに、情報を可能な範囲で集めさせ、それらを元に慎重に確認していく。
すでにぬらりひょんの頭の中には一つの疑念があったが、調べていくうちに確信へと変わっていく。
「ふーむ。やはりこれは人間の仕業とは思えぬ。われらと同じあやかしの類か……」
あやかしが相手となると、用心深く動く必要があった。どんな力をもつ存在かわからないと、対処できないからだ。大きな力をもつあやかしが相手ならば、やみくもに動いてはかえって状況が悪くなってしまうことを、ぬらりひょんは経験から知っていた。
「なにより、壱郎の安否が気になる……」
九桜院家の当主である壱郎は、いまや行方知れずとなっている。暴漢に襲われたのか、自ら失踪したのか理由はわからない。壱郎の長女である蓉子は、父が無事に帰ってくることを祈りながら気丈に振る舞い、九桜院家を切り盛りしているという。世間は蓉子に同情し、立派な娘だとほめたたえ、縁談が次々と蓉子の元に舞い込んでいるそうだ。この機に乗じて、名門一家をとり込みたいのだろう。
「この蓉子という、さちの姉もよくわからん女だのぅ。生粋のお嬢様だとしても、九桜院家と契約していたわしに挨拶ぐらいあっても良さそうなのに」
ぬらりひょんは少しずつ真相に近づいているように思えていたが、壱郎の安否が気がかりであるため、容易に動くことはできなかった。
腕を組んだぬらりひょんは目をつむり、ひとり考え込む。何か重大なことを見落としている。そんな気がした。
すると、ひたひたと廊下を歩く音が耳に響いてきた。さちの足音だ。おそらくお茶をもってきてくれたのだろう。
「ぬらりひょん様、お茶をお持ちしました」
「さちか、入りなさい」
「はい、失礼致します」
不可思議な悪夢を見て以降、ぼんやりとすることが多かったさちだったが、おりんと話したことで落ち着きつつあった。何を話したのかはわからないが、さちとおりんの絆が深まっているのは悪いことではないように思えた。
「ぬらりひょん様のお好きなほうじ茶です」
「うむ。さち、礼を言うぞ」
「いえ、そんな……」
ぬらりひょんにお茶を出したのに、さちはなぜか、もじもじとしている。何か伝えたいことがあるようだ。
「さち、どうした? 何かわしに言いたいことでもあるのか?」
「ええ、その、あのぅ……」
「ふむ。なんだ、言ってみよ」
「はい、ですから、その……」
何かを伝えたいのはわかるが、さちの言葉は一向に理解できなかった。頬をほんのりと赤く染めながら、もごもごと口を動かし続けるさちは可愛らしかったが、これではらちが明かない。
「さち、わしは怒らないから言ってみよ」
少し強めに言われたさちは、恥ずかしそうにうつむき、ぽつぽつと話し始める。
「あ、あのおりんさんに、自分の力で幸せになるようにって言われまして。それが私に『幸せになれ』と言われたお父様への恩返しになると、私も思ったんです。だからその、私が幸せになるにはどうしたらいいのか、考えたんです」
「ふむ。それは良い傾向だ。それで、さちが幸せになるには何をしたらいいのだ?」
「は、はい。その……ぬら……様と、ふ、ふたりで……」
「ん? わしのことか? わしとふたりで、なんだ?」
「ぬらりひょん様と、ふ、ふたりでおでかけしたいなって……」
「おでかけ……」
さちの顔が一気に真っ赤になっていく。今にも湯気が出てきそうなほどだ。さちが何を伝えたいのか、ようやくわかってきた。
「ふたりでおでかけ、というのは、ようは逢引のことか?」
「あいびきっ!? そ、そんなあからさまな……」
「なんだ、違うのか?」
「ち、ちがいません、その通りなんですけど……そのまんま言うのは少し、はしたない気がして……」
「何もはしたなくないが? さちが気になるなら、『ふたりでおでかけ』で良いがな。では明日にでも行くか?」
「よろしいのですか? おでかけしても」
「かまわんぞ。では明日にな」
さちの顔がぱっと輝いた。
「ありがとうございます、ぬらりひょん様! では下がらせていただきますね」
踊るような足取りで、さちはぬらりひょんの部屋を出ていった。よほど嬉しかったのか、小声で「うふふ、やったぁ♪」という声まで聞こえてくる。まさかぬらりひょんに聞かれているとは思ってないのだろう。
「可愛らしい娘よの、さちは」
自分で幸せになるためには、まずは心から望むことから始めるのが良いと思ったのだろう。おそらくいろんなことを考え続けて、ようやく思いついたのが、「ぬらりひょんとのおでかけ」だったというわけだ。
幸せになるために、もっと多くのことを望んでもよさそうなのに、逢引から始めたいと思うところが、控えめなさちらしい考えだった。
壱郎から預かるだけと思っていた少女が、いまやぬらりひょんにとって失いたくない宝物になりつつあった。しかし大切に思えば思うほど、ぬらりひょんにとってさちが弱点になることを意味している。
「弱みを作りたくないから、人間の嫁をもらわなかったというのにの。さてさて、どうしたものか……」
ひとりになったぬらりひょんは、再び考え始める。大切な宝を守りぬくためには、何をすべきなのか。優先事項があやかしよりも、さちになっている己に苦笑しながらも、なおも思案するぬらりひょんだった。
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