ぬらりひょんのぼんくら嫁〜虐げられし少女はハイカラ料理で福をよぶ〜

蒼真まこ

文字の大きさ
34 / 44
第三章 父と娘、蓉子の正体

デート

しおりを挟む
「おりんさん、着物はこんな感じでいいですか? 髪型はこれで合ってますか? ねぇねぇ、おりんさん!」
「ああ、もう! それで十分だってさっきから言ってるだろ。何回言わせるんだい」
「だって、不安で……」
「不安なのはわかるけどさ、顔や髪をいつまでもいじくり回していたら、どんどん変になるよ」
「変? やっぱり変なんですね!? やだ、やだ、どうしよう……」
「って、なんでそこで泣きべそ顔になるんだい! あんたはもうっ」

 ぬらりひょんとの初めてのおでかけデートは、近くで行われる夜祭よまつりに行くこととなった。
 夜の闇はあやかしを守ってくれるため、人間に正体を悟られにくいという。
 子どもらしい遊びをなにひとつ経験したことがないさちに、祭りというものを見せてやりたいと、ぬらりひょんは考えてくれたようだ。
 しかし祭りともなれば、多くの人が集まるため、ぬらりひょんの横にいても恥ずかしくない姿でありたいとさちは思った。そのためには、「おめかし」をしなくては……と思ったのだが、さちは女性らしい服装やお化粧をまるで知らない。一度だけおりんにしてもらった「おめかし」を、見よう見まねでやってみたら、一つ目小僧に「ひぃ、化け物!」と言われる姿になってしまい、やむなくおりんに助けを求めた、というわけである。

「しっかし、変われば変わるもんだねぇ。うまい料理が作れればそれでいいと、服装には無頓着だったさちが、今や必死できれいになろうとしてるんだから」
「だって、ぬらりひょん様に恥をかかせるわけにはいきませんから……」
「そうだねぇ。でもさ、いい傾向だよ。男のためにきれいになろうとする女は可愛いし、それに楽しいだろ?」

 おめかしが楽しいかどうかはわからなかったが、おりんの助言でどんどん変わっていく自分を見るのは不思議な気持ちだった。

「楽しいって言うんでしょうか、胸の奥のほうがこう、『わくわく、どきどき』してます……」
「わくわく、どきどき? あははっ、さちは面白いことを言うねぇ。でもそれでいいんだよ」
「そうなんですか?」
「そうだよ。幸せってのは、楽しいことや嬉しいこと、そして大切なものがたくさんあるってことだからねぇ」

 おりんの言う通り、今のさちには嬉しいことも楽しいことも、大切なものもある。九桜院家で過ごしていた時は、蓉子と会う時だけが楽しみだったというのに。

「ともかく、あんたはまだ若いんだから、いろんなことを経験するといいよ。失敗も経験の内だしね。料理も最初からうまく作れるわけじゃないだろ? それと同じさ」
「それ、すごくわかりやすいです。私も洋食を教えてもらったとき、最初は失敗しましたし。そこからどうしたら上手に作れるようになるの? って、すごーく考えました!」

 料理のことを持ち出されると、途端に元気になるさちだった。

「ほらほら、その笑顔だよ。見た目も大事だけど、まずはにっこり笑うこと。それを忘れなさんな」

 おりんの優しい気遣いに、さちの胸はいっぱいになる。

「ありがとうござます、おりんさん」
「いいって、気にしなさんな。さぁ、さぁ、そろそろおでかけの時刻だろ?」
「あっ、そうですね。では、ぬらりひょん様のところへ……」

 そこでさちの動きがぴたりと止まる。

「ん? どうしたんだい、さち」
「わたし、変じゃないですか? おりんさん」
「あ~もうっっ! ふりだしに戻ってるじゃないかっ」
「だって……」

 何度も確認させられ、とうとう我慢の限界となったおりんに、強引にぬらりひょんの部屋に押し込まれる形で、さちとぬらりひょんはふたりきりとなった。

「ああ、さち。よく似合っておるぞ」
「あ、ありがとうございます……」
「うむ。かわゆい、かわゆい」

 幼子をあやすような口調だったが、ほめられた経験が少ないさちには、天にも昇る心地だ。
 目線をあげ、ちろりとぬらりひょんを見ると、美丈夫な姿でさちを見下ろしている。人間ともあやかしとも思えない浅黒い肌が、夜の灯りの中で怪しくきらめいていた。

(ぬらりひょん様、すてき……)

 しばし見惚れていると、ぬらりひょんと視線が合った。見つめ合う形となり、さちの胸の鼓動が早くなっていく。ぬらりひょんの瞳は人間より色素がやや薄く、肌の色もあいまって異邦人のような風情だ。

(このお姿もすてきだけど、大きくてつるりとした頭のときも良いわ。とても、かわゆいもの)

 ぬらりひょんがどんな姿であっても、さちはうっとりと見つめるのだろう。
 一方、見つめられることに慣れていないぬらりひょんは、さちの熱い視線に困ったように視線をそらす。

「さち、そう見つめるな。こそばゆくなるぞ」

 ぬらりひょんの頬はほんのりと赤い。片手で顔を隠そうとするが、ぬらりひょんを凝視しているさちの目をごまかすことはできない。

(ぬらりひょん様、照れてらっしゃるの? なんだかお可愛いわ)

 これまで一度も見たことのないぬらりひょんの姿に顔が緩んでくるのを感じ、さちも慌てて顔を隠そうとする。

「さち、何をにやけておる。さてはおぬし、わしを笑ろうたな?」
「そんな、ぬらりひょん様を笑うだなんて。ただその、お可愛いなって」
「わ、わしが可愛い? さち、それはないぞ!」
「だって本当にかわゆくて……うふふふ」

 焦るぬらりひょんの様子に、さちは我慢できなくなり、とうとう笑い始めてしまった。

「さち~、小生意気になりおってからに。こうしてくれる!」
「きゃっ」

 ぬらりひょんはさちの頭に頭に手を伸ばし、わしゃわしゃと撫でくり回す。怒っているかのような口調だが、笑顔を見せているところを見ると、本気ではないようだ。

「ぬ、ぬらりひょん様。髪が乱れてしまいます」
「わしを笑ろうた罰じゃ。ざまあみろじゃ!」
「ぬらりひょん様、今度はお子様みたい……」
「なんじゃと?」
「いえ、何でもありません!」

 おめかしをしたさちとぬらりひょんは、時間を忘れてじゃれ合う。

(ぬらりひょん様とこんなふうにお話しできるなんて。なんだか夢を見てるみたい)

 ぬらりひょんとの距離がまた少し縮まった気がする。それがうれしくて、さちは無邪気に笑い続ける。さちの笑顔に、ぬらりひょんも楽しそうだ。

「おお、いかん、いかん。今晩の目的を忘れるところだったわ」

 ようやく目的を思い出したぬらりひょんは、さちの小さな手をつかみ取った。

「では参ろう、さち」
「は、はい」

 魅惑的な微笑みを向けられたうえに手まで握られ、さちの心はときめきと喜びではち切れそうだ。

(わたし、ぬらりひょん様と手を繋いでる。少し前はただ恥ずかしいだけだったのに、今は嬉しくてどうにかなりそう)

 ぬらりひょんとの幸福な時間に酔いしれながら、この喜びがいつまでも続くように、と願うさちだった。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜

鳴猫ツミキ
キャラ文芸
【完結】【第一章までで一区切り】時は大正。天羽家に生まれた桜子は、特異な体質から、家族に虐げられた生活を送っていた。すると女学院から帰ったある日、見合いをするよう命じられる。相手は冷酷だと評判の帝国陸軍あやかし対策部隊の四峰礼人だった。※和風シンデレラ風のお話です。恋愛要素が多いですが、あやかし要素が主体です。第9回キャラ文芸大賞に応募しているので、応援して頂けましたら嬉しいです。【第一章で一区切りで単体で読めますので、そこまででもご覧頂けると嬉しいです】。

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く 

液体猫
キャラ文芸
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞受賞しました(^_^)/  香を操り、死者の想いを知る一族がいる。そう囁かれたのは、ずっと昔の話だった。今ではその一族の生き残りすら見ず、誰もが彼ら、彼女たちの存在を忘れてしまっていた。  ある日のこと、一人の侍女が急死した。原因は不明で、解決されないまま月日が流れていき……  その事件を解決するために一人の青年が動き出す。その過程で出会った少女──香 麗然《コウ レイラン》──は、忘れ去られた一族の者だったと知った。  香 麗然《コウ レイラン》が後宮に現れた瞬間、事態は動いていく。  彼女は香りに秘められた事件を解決。ついでに、ぶっきらぼうな青年兵、幼い妃など。数多の人々を無自覚に誑かしていった。  テンパると田舎娘丸出しになる香 麗然《コウ レイラン》と謎だらけの青年兵がダッグを組み、数々の事件に挑んでいく。  後宮の闇、そして人々の想いを描く、後宮恋愛ミステリーです。  シリアス成分が少し多めとなっています。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

人間嫌いの狐王に、契約妻として嫁いだら溺愛が止まりません

由香
ファンタジー
人間嫌いで知られる狐族の王・玄耀に、“契約上の妻”として嫁いだ少女・紗夜。 「感情は不要。契約が終われば離縁だ」 そう告げられたはずなのに、共に暮らすうち、冷酷な王は彼女だけに甘さを隠さなくなっていく。 やがて結ばれる“番”の契約、そして王妃宣言――。 契約結婚から始まる、人外王の溺愛が止まらない和風あやかし恋愛譚。

処理中です...