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あおの章 青葉
双子の兄弟
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「おい、水樹。起きろよ、学校遅刻するぞ」
「うーん、もうちょい……」
「一応起こしたからな、後は知らないぞ」
「ふぇ~い……」
「朝ごはん、食べてけよ。用意してあるから」
「ふぁい」
具合が悪くて起きれない母さんに代わって、簡単に朝食の準備をするのが日課になりつつあった。
母さんは一応起きてはくるのだが、真っ青な顔でキッチンに立っていると心配になってしまう。声をかけずにはいられなかった。
「母さん、寝てて。具合が悪いなら僕がやるから。パンとカップスープの素ぐらいなら、自分たちで用意できるし」
「お母さんだもん、朝食ぐらい用意しないと……」
「いいって。無理して倒れられたら、かえって困るし」
「でも……」
「父さんは出張で家にいないし、そういう時ぐらい休めばいいよ」
「ありがとう……青葉は優しい子ね」
寝室に戻っていく母さんを見送ると、手早く朝食の準備をする。
「『優しい子』か……」
見ていられなくて、つい自分が動いてしまう。それを「優しい」と言うのだろうか? 僕が優しいかどうかともかく、『ありがとう』と言われるのは悪い気はしなかった。
「えっと、食パンとジャム。あとはカップスープの素とマグカップを用意しておけば、水樹でも自分でやれるよな」
最初はその程度だった。
しかし、だんだんとそれだけでは物足りなくなってしまった。料理書を片手にスクランブルエッグや目玉焼きを作るようになり、鍋で沸かしたお湯に、コンソメキューブを溶かした簡単なコンソメスープを作るようになっていった。
たまには白いご飯も食べたくなると、夜のうちにお米を研いでおいて、朝までに炊けるように炊飯器のタイマーをセットしておく。味噌汁も顆粒ダシを使い、火加減に気を付ければ、簡単なものなら用意できることに気付いた。
もちろん、最初からすべてうまく出来るようになったわけではなく、スクランブルエッグも目玉焼きも最初は焦げ焦げで、食べれたものではなかった。どうすれば上手にできるか自分で調べたり、学校の家庭科の先生に聞いたりして、だんだんと上手にできるようになった。
どこか理科の実験のようにも感じる料理は、嫌いではなかった。こだわりすぎなければ、それなりのものは作れるようになる。そこそこのものが作れれば、次はもうちょっと美味しく作りたい。そんな欲求に駆られ、明日はもう少し頑張ろうと思ってしまう。
こうして僕は、家事が生活の一部になり始めていた。
「いつも悪いなぁ、青葉。本当なら父さんが家事をやるべきなんだけどな」
「いいよ。父さんは仕事があるし、やれることだけ手伝ってくれればいいよ。僕だって、家事を完璧にやってるわけじゃないしさ」
「ありがとうな、青葉。おまえは本当に優しい子だよ。おまえに比べて水樹の奴はまったく……」
水樹は母さんの具合が悪くなっても、マイペースだった。一応家のことも手伝ってはくれるのだが、適当なのか、元々雑なのか、大雑把すぎて見ていられないのだ。
「ああ、もうこんなに散らかして……。いいよ、後は僕がやるから」
「俺だって手伝おうと思ったんだけど」
「いいよ、気持ちだけでいい」
「ふぅん……」
ぷいっと顔を背け、どこかに行ってしまう。水樹の気持ちもわからなくはないけど、かえって後片付けが大変になってしまうから嫌なのだ。
水樹とは中学に入った辺りから、一緒にいることが少なくなった。僕が母さんに代わって家事をするようになったから、というのもあるけど、それだけではないことは僕も水樹もなんとなくわかっていた。
学校にいると、特に水樹と一緒にいると、よく声をかけられる。
「お、双子だ。どっちが兄貴だ?」
「ねぇねぇ、あの子たち双子だよね、可愛い~」
小学校より人数が多い中学校であっても、双子はまだ少なく、僕と水樹はどうしても目立ってしまった。目立つというより、物珍しいものを見るような目で、興味津々な顔で寄ってくるのだ。
「ねぇ、二人で並んでよ。さすがは双子、よく似てる~」
「あの双子、顔も結構キレイだし可愛いよね~」
少しばかり顔立ちが整っていたからか、二年や三年の女子生徒から声をかけられることも多く、それが原因で同学年の男子にからかわれる。動物園のパンダのように、指を指されて噂されるのは嫌でしかなかった。
「青葉、学校では必要なこと以外、俺に声をかけてくるなよ」
「わかった。僕もそうしたいと思っていたところだ」
水樹のことを嫌いになったわけではなかった。でも水樹と一緒にいると、どうしても目立ってしまう。僕と水樹はお互いを避けるようになった。
僕は学校での不満を晴らすように家の家事に力を入れ、水樹は学校の、ちょっと悪い友達と遊び歩くようになった。
「そっくり」と言われ続けた僕と水樹だったが、今や外見だけの話になってしまった。水樹のことは誰より理解していたはずなのに、最近は何を考えているのかわからない。
「水樹とは一番仲が良かったのに、なんでこんなふうになってしまったんだろうな……」
考えても答えは出なかった。自らをごまかすように、今晩の夕飯を作るのだった。
「うーん、もうちょい……」
「一応起こしたからな、後は知らないぞ」
「ふぇ~い……」
「朝ごはん、食べてけよ。用意してあるから」
「ふぁい」
具合が悪くて起きれない母さんに代わって、簡単に朝食の準備をするのが日課になりつつあった。
母さんは一応起きてはくるのだが、真っ青な顔でキッチンに立っていると心配になってしまう。声をかけずにはいられなかった。
「母さん、寝てて。具合が悪いなら僕がやるから。パンとカップスープの素ぐらいなら、自分たちで用意できるし」
「お母さんだもん、朝食ぐらい用意しないと……」
「いいって。無理して倒れられたら、かえって困るし」
「でも……」
「父さんは出張で家にいないし、そういう時ぐらい休めばいいよ」
「ありがとう……青葉は優しい子ね」
寝室に戻っていく母さんを見送ると、手早く朝食の準備をする。
「『優しい子』か……」
見ていられなくて、つい自分が動いてしまう。それを「優しい」と言うのだろうか? 僕が優しいかどうかともかく、『ありがとう』と言われるのは悪い気はしなかった。
「えっと、食パンとジャム。あとはカップスープの素とマグカップを用意しておけば、水樹でも自分でやれるよな」
最初はその程度だった。
しかし、だんだんとそれだけでは物足りなくなってしまった。料理書を片手にスクランブルエッグや目玉焼きを作るようになり、鍋で沸かしたお湯に、コンソメキューブを溶かした簡単なコンソメスープを作るようになっていった。
たまには白いご飯も食べたくなると、夜のうちにお米を研いでおいて、朝までに炊けるように炊飯器のタイマーをセットしておく。味噌汁も顆粒ダシを使い、火加減に気を付ければ、簡単なものなら用意できることに気付いた。
もちろん、最初からすべてうまく出来るようになったわけではなく、スクランブルエッグも目玉焼きも最初は焦げ焦げで、食べれたものではなかった。どうすれば上手にできるか自分で調べたり、学校の家庭科の先生に聞いたりして、だんだんと上手にできるようになった。
どこか理科の実験のようにも感じる料理は、嫌いではなかった。こだわりすぎなければ、それなりのものは作れるようになる。そこそこのものが作れれば、次はもうちょっと美味しく作りたい。そんな欲求に駆られ、明日はもう少し頑張ろうと思ってしまう。
こうして僕は、家事が生活の一部になり始めていた。
「いつも悪いなぁ、青葉。本当なら父さんが家事をやるべきなんだけどな」
「いいよ。父さんは仕事があるし、やれることだけ手伝ってくれればいいよ。僕だって、家事を完璧にやってるわけじゃないしさ」
「ありがとうな、青葉。おまえは本当に優しい子だよ。おまえに比べて水樹の奴はまったく……」
水樹は母さんの具合が悪くなっても、マイペースだった。一応家のことも手伝ってはくれるのだが、適当なのか、元々雑なのか、大雑把すぎて見ていられないのだ。
「ああ、もうこんなに散らかして……。いいよ、後は僕がやるから」
「俺だって手伝おうと思ったんだけど」
「いいよ、気持ちだけでいい」
「ふぅん……」
ぷいっと顔を背け、どこかに行ってしまう。水樹の気持ちもわからなくはないけど、かえって後片付けが大変になってしまうから嫌なのだ。
水樹とは中学に入った辺りから、一緒にいることが少なくなった。僕が母さんに代わって家事をするようになったから、というのもあるけど、それだけではないことは僕も水樹もなんとなくわかっていた。
学校にいると、特に水樹と一緒にいると、よく声をかけられる。
「お、双子だ。どっちが兄貴だ?」
「ねぇねぇ、あの子たち双子だよね、可愛い~」
小学校より人数が多い中学校であっても、双子はまだ少なく、僕と水樹はどうしても目立ってしまった。目立つというより、物珍しいものを見るような目で、興味津々な顔で寄ってくるのだ。
「ねぇ、二人で並んでよ。さすがは双子、よく似てる~」
「あの双子、顔も結構キレイだし可愛いよね~」
少しばかり顔立ちが整っていたからか、二年や三年の女子生徒から声をかけられることも多く、それが原因で同学年の男子にからかわれる。動物園のパンダのように、指を指されて噂されるのは嫌でしかなかった。
「青葉、学校では必要なこと以外、俺に声をかけてくるなよ」
「わかった。僕もそうしたいと思っていたところだ」
水樹のことを嫌いになったわけではなかった。でも水樹と一緒にいると、どうしても目立ってしまう。僕と水樹はお互いを避けるようになった。
僕は学校での不満を晴らすように家の家事に力を入れ、水樹は学校の、ちょっと悪い友達と遊び歩くようになった。
「そっくり」と言われ続けた僕と水樹だったが、今や外見だけの話になってしまった。水樹のことは誰より理解していたはずなのに、最近は何を考えているのかわからない。
「水樹とは一番仲が良かったのに、なんでこんなふうになってしまったんだろうな……」
考えても答えは出なかった。自らをごまかすように、今晩の夕飯を作るのだった。
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