あおとみずいろと、あかいろと

蒼真まこ

文字の大きさ
17 / 70
あおの章 青葉

双子の兄弟

しおりを挟む
「おい、水樹。起きろよ、学校遅刻するぞ」
「うーん、もうちょい……」
「一応起こしたからな、後は知らないぞ」
「ふぇ~い……」
「朝ごはん、食べてけよ。用意してあるから」
「ふぁい」

 具合が悪くて起きれない母さんに代わって、簡単に朝食の準備をするのが日課になりつつあった。
 母さんは一応起きてはくるのだが、真っ青な顔でキッチンに立っていると心配になってしまう。声をかけずにはいられなかった。

「母さん、寝てて。具合が悪いなら僕がやるから。パンとカップスープの素ぐらいなら、自分たちで用意できるし」
「お母さんだもん、朝食ぐらい用意しないと……」
「いいって。無理して倒れられたら、かえって困るし」
「でも……」
「父さんは出張で家にいないし、そういう時ぐらい休めばいいよ」
「ありがとう……青葉は優しい子ね」

 寝室に戻っていく母さんを見送ると、手早く朝食の準備をする。

「『優しい子』か……」

 見ていられなくて、つい自分が動いてしまう。それを「優しい」と言うのだろうか? 僕が優しいかどうかともかく、『ありがとう』と言われるのは悪い気はしなかった。

「えっと、食パンとジャム。あとはカップスープの素とマグカップを用意しておけば、水樹でも自分でやれるよな」

 最初はその程度だった。
 しかし、だんだんとそれだけでは物足りなくなってしまった。料理書を片手にスクランブルエッグや目玉焼きを作るようになり、鍋で沸かしたお湯に、コンソメキューブを溶かした簡単なコンソメスープを作るようになっていった。
 たまには白いご飯も食べたくなると、夜のうちにお米を研いでおいて、朝までに炊けるように炊飯器のタイマーをセットしておく。味噌汁も顆粒ダシを使い、火加減に気を付ければ、簡単なものなら用意できることに気付いた。
 もちろん、最初からすべてうまく出来るようになったわけではなく、スクランブルエッグも目玉焼きも最初は焦げ焦げで、食べれたものではなかった。どうすれば上手にできるか自分で調べたり、学校の家庭科の先生に聞いたりして、だんだんと上手にできるようになった。
 どこか理科の実験のようにも感じる料理は、嫌いではなかった。こだわりすぎなければ、それなりのものは作れるようになる。そこそこのものが作れれば、次はもうちょっと美味しく作りたい。そんな欲求に駆られ、明日はもう少し頑張ろうと思ってしまう。
 こうして僕は、家事が生活の一部になり始めていた。

「いつも悪いなぁ、青葉。本当なら父さんが家事をやるべきなんだけどな」
「いいよ。父さんは仕事があるし、やれることだけ手伝ってくれればいいよ。僕だって、家事を完璧にやってるわけじゃないしさ」
「ありがとうな、青葉。おまえは本当に優しい子だよ。おまえに比べて水樹の奴はまったく……」

 水樹は母さんの具合が悪くなっても、マイペースだった。一応家のことも手伝ってはくれるのだが、適当なのか、元々雑なのか、大雑把すぎて見ていられないのだ。

「ああ、もうこんなに散らかして……。いいよ、後は僕がやるから」
「俺だって手伝おうと思ったんだけど」
「いいよ、気持ちだけでいい」
「ふぅん……」

 ぷいっと顔を背け、どこかに行ってしまう。水樹の気持ちもわからなくはないけど、かえって後片付けが大変になってしまうから嫌なのだ。

 水樹とは中学に入った辺りから、一緒にいることが少なくなった。僕が母さんに代わって家事をするようになったから、というのもあるけど、それだけではないことは僕も水樹もなんとなくわかっていた。

 学校にいると、特に水樹と一緒にいると、よく声をかけられる。

「お、双子だ。どっちが兄貴だ?」
「ねぇねぇ、あの子たち双子だよね、可愛い~」

 小学校より人数が多い中学校であっても、双子はまだ少なく、僕と水樹はどうしても目立ってしまった。目立つというより、物珍しいものを見るような目で、興味津々な顔で寄ってくるのだ。

「ねぇ、二人で並んでよ。さすがは双子、よく似てる~」
「あの双子、顔も結構キレイだし可愛いよね~」

 少しばかり顔立ちが整っていたからか、二年や三年の女子生徒から声をかけられることも多く、それが原因で同学年の男子にからかわれる。動物園のパンダのように、指を指されて噂されるのは嫌でしかなかった。

「青葉、学校では必要なこと以外、俺に声をかけてくるなよ」
「わかった。僕もそうしたいと思っていたところだ」

 水樹のことを嫌いになったわけではなかった。でも水樹と一緒にいると、どうしても目立ってしまう。僕と水樹はお互いを避けるようになった。
 僕は学校での不満を晴らすように家の家事に力を入れ、水樹は学校の、ちょっと悪い友達と遊び歩くようになった。
 「そっくり」と言われ続けた僕と水樹だったが、今や外見だけの話になってしまった。水樹のことは誰より理解していたはずなのに、最近は何を考えているのかわからない。

「水樹とは一番仲が良かったのに、なんでこんなふうになってしまったんだろうな……」

 考えても答えは出なかった。自らをごまかすように、今晩の夕飯を作るのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結

25年目の真実

yuzu
ミステリー
結婚して25年。娘1人、夫婦2人の3人家族で幸せ……の筈だった。 明かされた真実に戸惑いながらも、愛を取り戻す夫婦の話。

【完結】黒の花嫁/白の花嫁

あまぞらりゅう
恋愛
秋葉は「千年に一人」の霊力を持つ少女で、幼い頃に龍神――白龍の花嫁として選ばれていた。 だが、双子の妹の春菜の命を救うために、その霊力を代償として失ってしまう。 しかも、秋葉の力は全て春菜へと移り、花嫁の座まで奪われてしまった。 それ以来、家族から「無能」と蔑まれながらも、秋葉は失われた力を取り戻すために静かに鍛錬を続けていた。 そして五年後、白龍と春菜の婚礼の日。 秋葉はついに霊力が戻らず、一縷の望みも消えてしまった。 絶望の淵に立つ彼女の前に、ひとりの青年が現れる。 「余りもの同士、仲良くやろうや」 彼もまた、龍神――黒龍だった。 ★ザマァは軽めです! ★後半にバトル描写が若干あります! ★他サイト様にも投稿しています!

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

処理中です...