20 / 70
あおの章 青葉
再会とカレー
しおりを挟む
花村桃子と次に再会したのは、スーパーだった。
スーパーのかごを持ち、慣れない手つきで商品を手にしては、首を傾げ何事か悩んでいる。おそらく何を選んだらいいのか、わからないのだろう。
声をかけるべきかどうか悩んだが、結論を出す前に、僕に気付いた花村が先に声をかけてきた。
「あっ、芹沢青葉くんだ! ね、聞いてもいい?」
昔からの友人のように、気さくに声をかけてくる。不思議と嫌な気はしなかった。
それにしても僕が誰なのかあっさり気付いたということは、僕と水樹を本当に見分けられるということなのだろうか? あてずっぽうではなく。
「この間もそうだけど、よく僕が青葉だって気付いたね。大概まちがわれるのに」
僕の問いに一瞬きょとんとした顔を見せた花村だったが、すぐに人懐っこい笑顔に戻った。
「この間のは勘だよ。今回は状況から判断した」
「状況?」
「クラスの子から聞いたんだ。芹沢兄弟のお兄ちゃんは、家の事情で家事を担ってるって。となると、スーパーで買い物をするのは、高い確率で芹沢青葉くんってことになる」
「なるほど」
どうやら勘がするどく、頭の回転もいいほうらしい。見た目は軽いタイプに見えるのに、意外と細かなところまで考える人間らしい。
「それよりさ、教えてよ。今晩はカレーを作りたいんだけど、ルーはどれを買ったらいいの? この間買ったルーは、水っぽくなっちゃって美味しくなかったの」
「ちゃんと分量は守った?」
「分量? そんなもん適当。お鍋いっぱいに水を入れたよ」
前言撤回だ。細かいところまで気付くタイプではなく、少々おおざっぱな人間のようだ。
「料理に慣れてないなら、始めはきちんと軽量したほうがいいよ。適当は失敗を招きやすい」
花村は目を丸くして、僕の言葉を聞いている。どうやら人の意見はちゃんと聞くようだ。
「そうなんだ。すごいねぇ、青葉くん。噂には聞いてたけど、本当にしっかり者なんだ」
子供のような笑顔だった。お世辞ではないことが伝わってくる。
「ひとつお願いしてもいいかな? カレーの材料、一緒に選んでもらってもいい?」
「いいよ」
「ありがと、助かる!」
満面の笑みで喜んでるところを見ると、本当に困っていたようだ。音楽室で助けてもらった恩とあるし、得意な料理で手助けになるなら、できることはしてやりたいと思った。
おそらく僕と同じように、何かしら家庭の事情があるように感じられた。あえて何か聞くつもりはないが、なんとかして料理をしなければならない理由があるのだろう。
「カレーは何人分作るの?」
「えっとね、二人分かな。明日も食べれるといいけど、さすがに二日続けてカレーだと、大人は嫌かな?」
「じゃあ、翌日はカレーうどんか、カレードリアにしたら? どっちも意外と簡単だよ」
「本当? 教えて、教えて!」
「冷凍のうどんを買って常備しておくと、いろいろと使えて便利だよ」
「そういう情報助かる! なら冷凍のうどんも買って、明日はカレーうどんにする!」
まるで主婦の会話のようだったが、まさか同級生とスーパーで料理の話をすることになるとは思わなかった。くるくると表情を変えながら、楽しそうに話す花村と会話するのは僕も楽しかった。
「青葉くんって気さくだし親切だよね。なんか女子たちは誤解してるみたいだけど」
「『女嫌いの芹沢青葉』だろ?」
「あれ、知ってるの?」
「噂はなんとなく聞こえてる。おまけに『男のほうがいいらしい』という噂もくっついてるみたいだね。おかげで男子からもどことなく距離をおかれてるよ」
「アハハ! なにそれ、みんなウワサを信じすぎでしょ」
「学生はそんなもんだろ。あれこれ説明するのも面倒だから、あえて傍観してるけど」
「ふぅん。青葉くんは大人なんだ」
「そんなことないけど、今はそれどころじゃないって感じかな」
「ああ、それわかる。私もいろいろウワサされてるみたいだけど、正直かまってる余裕ないんだよね。引っ越してきたばかりで私もお父さんも必死だから」
「そうか、大変だな」
「お互いにね」
花村も僕の家庭の事情は、なんとなく知っているのだろう。お互いにあえて詮索することもなく、それぞれの検討を祈りたい気持ちになる。
「いろいろと教えてくれて助かったよ。ありがとう、青葉くん」
「この前音楽室で助けてもらったからね。このぐらいならいつでも教えるよ」
「ありがとう!」
スーパーの出入り口で別れを告げ、カレーの材料を重そうに運ぶ花村桃子を見送った。
久しぶりに同級生と話をした気がする。案外楽しかったな。友だちというよりは、同士って感じだけど。
「さてと。僕も急いで帰らないと」
花村に今度会ったら、カレー以外の簡単な料理を教えてあげようかな、と思いつつ帰路についた。
スーパーのかごを持ち、慣れない手つきで商品を手にしては、首を傾げ何事か悩んでいる。おそらく何を選んだらいいのか、わからないのだろう。
声をかけるべきかどうか悩んだが、結論を出す前に、僕に気付いた花村が先に声をかけてきた。
「あっ、芹沢青葉くんだ! ね、聞いてもいい?」
昔からの友人のように、気さくに声をかけてくる。不思議と嫌な気はしなかった。
それにしても僕が誰なのかあっさり気付いたということは、僕と水樹を本当に見分けられるということなのだろうか? あてずっぽうではなく。
「この間もそうだけど、よく僕が青葉だって気付いたね。大概まちがわれるのに」
僕の問いに一瞬きょとんとした顔を見せた花村だったが、すぐに人懐っこい笑顔に戻った。
「この間のは勘だよ。今回は状況から判断した」
「状況?」
「クラスの子から聞いたんだ。芹沢兄弟のお兄ちゃんは、家の事情で家事を担ってるって。となると、スーパーで買い物をするのは、高い確率で芹沢青葉くんってことになる」
「なるほど」
どうやら勘がするどく、頭の回転もいいほうらしい。見た目は軽いタイプに見えるのに、意外と細かなところまで考える人間らしい。
「それよりさ、教えてよ。今晩はカレーを作りたいんだけど、ルーはどれを買ったらいいの? この間買ったルーは、水っぽくなっちゃって美味しくなかったの」
「ちゃんと分量は守った?」
「分量? そんなもん適当。お鍋いっぱいに水を入れたよ」
前言撤回だ。細かいところまで気付くタイプではなく、少々おおざっぱな人間のようだ。
「料理に慣れてないなら、始めはきちんと軽量したほうがいいよ。適当は失敗を招きやすい」
花村は目を丸くして、僕の言葉を聞いている。どうやら人の意見はちゃんと聞くようだ。
「そうなんだ。すごいねぇ、青葉くん。噂には聞いてたけど、本当にしっかり者なんだ」
子供のような笑顔だった。お世辞ではないことが伝わってくる。
「ひとつお願いしてもいいかな? カレーの材料、一緒に選んでもらってもいい?」
「いいよ」
「ありがと、助かる!」
満面の笑みで喜んでるところを見ると、本当に困っていたようだ。音楽室で助けてもらった恩とあるし、得意な料理で手助けになるなら、できることはしてやりたいと思った。
おそらく僕と同じように、何かしら家庭の事情があるように感じられた。あえて何か聞くつもりはないが、なんとかして料理をしなければならない理由があるのだろう。
「カレーは何人分作るの?」
「えっとね、二人分かな。明日も食べれるといいけど、さすがに二日続けてカレーだと、大人は嫌かな?」
「じゃあ、翌日はカレーうどんか、カレードリアにしたら? どっちも意外と簡単だよ」
「本当? 教えて、教えて!」
「冷凍のうどんを買って常備しておくと、いろいろと使えて便利だよ」
「そういう情報助かる! なら冷凍のうどんも買って、明日はカレーうどんにする!」
まるで主婦の会話のようだったが、まさか同級生とスーパーで料理の話をすることになるとは思わなかった。くるくると表情を変えながら、楽しそうに話す花村と会話するのは僕も楽しかった。
「青葉くんって気さくだし親切だよね。なんか女子たちは誤解してるみたいだけど」
「『女嫌いの芹沢青葉』だろ?」
「あれ、知ってるの?」
「噂はなんとなく聞こえてる。おまけに『男のほうがいいらしい』という噂もくっついてるみたいだね。おかげで男子からもどことなく距離をおかれてるよ」
「アハハ! なにそれ、みんなウワサを信じすぎでしょ」
「学生はそんなもんだろ。あれこれ説明するのも面倒だから、あえて傍観してるけど」
「ふぅん。青葉くんは大人なんだ」
「そんなことないけど、今はそれどころじゃないって感じかな」
「ああ、それわかる。私もいろいろウワサされてるみたいだけど、正直かまってる余裕ないんだよね。引っ越してきたばかりで私もお父さんも必死だから」
「そうか、大変だな」
「お互いにね」
花村も僕の家庭の事情は、なんとなく知っているのだろう。お互いにあえて詮索することもなく、それぞれの検討を祈りたい気持ちになる。
「いろいろと教えてくれて助かったよ。ありがとう、青葉くん」
「この前音楽室で助けてもらったからね。このぐらいならいつでも教えるよ」
「ありがとう!」
スーパーの出入り口で別れを告げ、カレーの材料を重そうに運ぶ花村桃子を見送った。
久しぶりに同級生と話をした気がする。案外楽しかったな。友だちというよりは、同士って感じだけど。
「さてと。僕も急いで帰らないと」
花村に今度会ったら、カレー以外の簡単な料理を教えてあげようかな、と思いつつ帰路についた。
0
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
私は私で幸せになりますので
あんど もあ
ファンタジー
子爵家令嬢オーレリーの両親は、六歳年下の可憐で病弱なクラリスにかかりっきりだった。
ある日、クラリスが「オーレリーが池に落ちる夢を見た」と予言をした。
それから三年。今日オーレリーは、クラリスの予言に従い、北の果ての領地に住む伯爵令息と結婚する。
最後にオーレリーが皆に告げた真実とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる