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美しく残酷な世界
しおりを挟むその日から俺がマルグリットの代わりに、シャルロッテを守る役になった。マルグリットの為に、マルグリットの望む事をしようと思った。
幼かった俺たちは、マルグリットを失った悲しみを完全に忘れる事はなかった。けれど、それでもいつしか、マルグリットのいない日常を受け入れる事ができた。
シャルロッテは相変わらずの人見知りで、常に俺の影に隠れていた。
今となっては、俺がシャルロッテに恋したきっかけすら思い出せない。
だが、いつも一緒にいた俺達が、年頃になり互いに恋に落ちるのは、必然だったのかもしれない。
俺はマルグリットの事があったから、言葉を出し惜しみするのはやめた。誰かに笑われても、揶揄われても、シャルロッテには常に真っ直ぐな言葉を伝えていた。たまに俺が勝手に一人で怒って、喧嘩になる事もあった。けれど、その日のうちに謝り、仲直りした。
俺が全身を真っ赤にしながらもシャルロッテに告白した日。マルグリットがくすくすと笑っていたような気がした。
『ジーク、それでいいのよ』
マルグリットなら、きっとそう言っただろう。
年頃になったシャルロッテは、誰もが振り返る程に美しく成長した。
俺はシャルロッテを、絶対に誰にも奪われたくないと思う程には、彼女を愛していた。
だから、シャルロッテが俺の告白を受け入れてくれた時には、舞い上がる程に嬉しかった。
俺たちは幸せだった。
シャルロッテはその美しい外見からも、庇護欲を抱かせる性格からも、男達から常に恋情を向けられていた。だから俺はいつも彼女の側にいて牽制し、下心を持つ男達など決して彼女に近寄らせはしなかった。
幼なじみから婚約者となり、そしていつかシャルロッテは俺の妻になると、俺はなんの疑いも持たず信じていた。
幸せな日々は、ある日突然理不尽に奪われると、マルグリットが消えた日に思い知った筈だったのに……。
そして、シャルロッテのデビュタントの日。俺達の幸せな日々は、突如崩壊した。
夜会の会場で、俺は彼女から目を離してしまった。留学先から帰ってきた友人と、つい話し込んでしまったのだ。その時シャルロッテを見ると、彼女も友人といたから問題はないと判断した。たった一言、友達と話し終えれば俺の所に来るように告げておけば良かったのに。
そして気づいた時には、彼女の姿が俺の視界から消えていた。きっと彼女は俺が友人と話していたから、気を使い俺の所に来なかったのだろう。
俺は会場中を見渡したが彼女の姿は無かった。妙に嫌な予感がした。俺は急いで彼女を探した。
かなりの時間探し回った後、三人の男が下卑た笑みを浮かべながら、休憩室から出てきた所にでくわした。
男達は俺を見て一瞬怯えた顔をした。だがその後開き直ったかのように、にやりと笑った。
「俺達はあの女に誘われただけだからな。俺は伯爵家で、もうすぐ侯爵家の一人娘に婿入りする。もし、俺達にあらぬ疑いをかけると言うなら、俺を愛する婚約者の侯爵家も黙ってはいない。下手に騒がない方がいいぞ」
一人の男がそう言い残し、男達は笑いながら去って行った。
背中がぞくりとした。嫌な、とても嫌な感じがした。マルグリットが俺達の前から消えてしまった、あの時のように……。
俺は震える手で、男達が出てきた部屋の扉を開いた。
部屋の中は薄暗く、奥の寝台の上には瞬きすら忘れ、壊れた人形のように涙を流し続けるシャルロッテが、横たわっていた。彼女は薬を盛られ、まともに動く事すらできないようだった。
俺は叫び出しそうな己を必死に抑え込み、彼女の身体を汚している汚らわしいものを拭き取った。なんとかドレスを整え、そして人が殆どいなくなるのを見計らい、彼女を会場から連れ出した。
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