召喚され救世主じゃないと言われたが、復讐の旅でなぜか身体を狙われている

輝石玲

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復讐の旅、開始!

3.名前も知らないのに色々しすぎ

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 真っ暗な視界の中、額にひんやりとした何かが触れたのを感じた。

「んっ………」

 ゆっくりと目を開けると、額から大きな手が離れるのが見えた。指先まで綺麗な骨張った手だ。綺麗な手だな…。

「おはようございます、調子はどうですか?」

 あ、声の良い人だ。そうだ、なんでか異世界に召喚された挙句に牢にぶち込まれて奴隷にされそうになったのをこの人が助けてくれて、俺を召喚した王に復讐することになって、怪我したせいで熱が出て……
 ここってどっかの家か宿?木と石で造られた部屋と家具はちゃんと綺麗にされている。

「ここは……?」
「山奥にある温泉宿です」

 温泉宿なんて随分と良いとこに来たんだな。でも、この人の着てる服もシンプルだけど質素じゃ無い、どこか高級感のあるものだ。この世界に化学繊維なんて無いだろうし、随分としっかりした物じゃないか?
 もしかして、結構なボンボン?兵士ってやっぱり高収入なのか?

 とりあえず、ちゃんと休めたからか熱っぽさも体の痛みも無い。倒れるほどならただ休んだだけですぐ良くなるとも思えないし、薬かなんか飲ませてくれたのかもしれない。とにかく、助けられたみたいだな。



 そっと体を起こして、ベッドの端に座った。声のいい人はベッドの横で跪き、下から俺の顔を覗き込んでいる。……流石に凝視されるのは恥ずかしいんだけどな。
 まぁでも見るからに心配そうだし、とりあえずお礼くらいは言わないとな。

「もう大丈夫だ、ありがとう。……あ」

 やっべ、明らかに歳上の人にタメで話しちゃった。いくら気が抜けてたとは言え歳上でしかも助けてくれた人にタメ口は失礼か?

「どうしました?」
「あ、いや…うっかり砕けた話し方をしたな、って…」

 敬語は苦手なんだよなぁ。意図的に礼儀正しくしようとすると言葉がおかしくなる。わざわざ敬語使って煽り散らかすのは得意なんだけどな。誰かをバカにする時くらいしか敬語を使わなかった幼少期を恨む。

「話しやすい言葉使いでいいですよ」
「え?そう?よかったー…」

 結構気さくな人で良かったー、なんて思いながら速攻で砕けると、声の良い人は口を押さえて笑い始めた。え、なんかおかしかった!?

「ふ、ふふっ……、素直で正直な人ですね…」
「そんな笑うか…?」
「あぁ、すみません。けっして馬鹿にしてる訳では無いのですが…随分と可愛らしい人だな、と思いまして」
「かっ…!?」

 可愛いなんて初めて言われたぞ!?うっわ、なんだこれ、恥ずかしい…!
 初めて言われた言葉の恥ずかしさのあまり、顔が一気に熱を持った。絶対顔赤くなってるって…!
 って、あれ?流石に熱くなりすぎ?



 途端にクラっとして座ったまま倒れそうになった。のを、声の良い人が間一髪で支えてくれた。反射神経もいいんだな、この人。

「おっと、熱は治ってないんですから落ち着いて休んでいてください」
「え、治ってないのか?」
「解熱剤で一時的に体温を下げてるだけですよ」

 そうだったのか。なんて話しながらサラッと俺をベッドに寝かせる声の良い人。いや紳士がすぎる。気付けば横になって毛布もしっかりと掛けられてるし、なんだったらすぐに水を持ってきてくれた。俺、喉乾いたって言ってないのになんで分かるんだ?
 ……とか驚いてたけど、流石にそこまで完璧な訳では無かった。ただ俺に薬を飲ませようとしただけらしい。それでも薬を用意してくれただけでも優しい人だな。

「自分で飲めますか?」
「あぁ、ありが……」

 ………ん?自分で…って、嘘だろ!?そういえば俺、この人にく、口移しで薬飲まされてたよな…!?えっ、あっ、ま、じか……

「ん?どうしました?」
「い、いや、何でもない、何にもない……!」
「……隠さないでください。飲めない薬があるのですか?それとも私が何か気に触ることをしてしまったでしょうか…」

 うわぁ…!そんな申し訳無さそうにされるとなんか、よく分かんないけど困る!
 嫌なことをされたとは思ってないし、助けられてることは分かってる。でも、でも…!

「ふぁ、ファーストキス、が……」
「…もしかして、私が森で薬を飲ませた時ですか?」

 いや!この人は悪くない!決して悪いわけじゃないし、俺も嫌だったわけじゃない!…のもどうなんだかなぁ……!ただ、こういう経験が全く無かったから変に意識するんだけど…か、顔が見れない……!

「申し訳ありませんでした。その、そんなに気にするとは…貴方がそこまでおとm…ウブな方だと知らずに無礼なことをしてしまいましたね」

 ちょっ、今『おとめ』って言いかけただろ!ちょっと耐性が無いだけでそんな言うことあるか!?確かに本の中でしか知らない世界だけども!
 これでも読書くらいはするから無知なわけじゃない。恋愛小説とか官能小説くらいはよく読むから知識はある。
 ただ、誰かと付き合ったり、身体の関係どころかキスさえ自分とは関係のない話だと思ってたから、未だに実感が湧かないんだよな…。しかも、舌を喉の方まで入れられて…って、思い出すだけで恥ずかしくなるんだが!?

「その、もうしないので、とりあえず薬を飲んで休んでください」
「わ、分かった……」

 薬を飲むために体を起こして水を入れたコップを受け取ろうとした。
 が、変な緊張のせいでコップを膝に落としてしまった。げっ、俺の服がびちゃびちゃだ。まぁ焦げてボロボロだから汚れたところで問題は無いんだが、でも体調悪い時に濡れた服はマズい。

「あっ、悪い…」
「いえ、どの道着替えなければでしたから、今のうちに着替えてしまいましょう」

 水を汲み直し、今度こそ薬を飲んだ。その間に服を用意してもらったけど、いつの間にか俺の着替えを買っていたらしい。本当に会ったばっかで俺に金を使いすぎじゃないか?



 用意された服は俺が元々着てたものに似てる白いワイシャツと黒いスラックス。すぐに着替えたけど、生地の感じは前のと結構似ているものだ。やっぱりいいものを買ったんじゃ…。

「お気に召しませんでしたか?」
「いや、高そうな服だなぁって」
「そうでしょうか?」

 まぁ、この人がいいならいっか。



 って、結局ずっと名前知らないんだけど。俺も名乗ってないけど、ずっと頭の中で『声の良い人』って呼ぶの正直面倒くさい。

 けど…しまったな。薬が効いてきたのか眠くなってきた。自己紹介は無理でも、せめて名前くらいは……

「……俺、夜人ヤト。名前、教えて…」
「私はグルーと申します。よろしくお願いします、ヤト」
「あぁ、よろしく…、グルー………」

 そのまま眠気に耐えきれず眠った。
 でも、名前は知れた。『グルー』それがこの人の名前。次に目が覚めたら、この世界のこともグルーのことももっと教えてもらおう。だから、今はとりあえずしっかり休んで体調を戻そう。
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