召喚され救世主じゃないと言われたが、復讐の旅でなぜか身体を狙われている

輝石玲

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復讐の旅、開始!

4.ちょっと距離が近すぎるなぁ…?

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 この世界に来て何度目の目覚めだろう。それでも寝た回数に対して日数は経ってないんだよな。


 部屋の光が陽の光じゃなくてランプの灯りになった。ってことは外はもう暗い。夜になったか雨が降ってるんだろうな。
 ゆっくりと体を起こしてベッドの端に座った。目眩めまいも熱っぽさも無い。薬がまだ効いてるのか治ったのか分からないけど、さっきよりは動きやすい。



 そういえば、あの声が良い人…グルーがいない。どっか行ってんのかな。待ってたら戻って来る…よな?あんないい人を疑うなんてしたくは無いが、異世界初心者の俺は常に警戒する必要がある。
 ま、とりあえずこの部屋を見てみるか!



 この部屋はほとんどが木でできている暖かい空気の部屋だ。家具は木と石を組み合わせて作られて、窓は十字になっていて開閉は出来ない。
 ベッドが二つ部屋の奥の左右に置かれていて、その間にテーブルと椅子が置かれている。他にもボードゲームとか歯ブラシが入れられた箱とか、タオルや着替えが入ったタンスが置いてある。木製だからだろうか、全体的にどことなく和を感じる。タンスの中にある着替えも浴衣だし。


 廊下に出るとドアが二つあった。一つは外につながるドアで、もう一つは風呂とトイレに繋がってるドアだ。
 風呂に繋がるドアは最初に脱衣所に入って、そこに浴室に繋がるドアとトイレを仕切るカーテンがある。
 浴室から音がしたから覗いてみると、常に浴槽に新しいお湯が入れられていた。しかも独特のいい匂いがする。もしかして温泉か?大理石で囲われた大きめの浴槽には澄んだお湯が張ってあった。


 一通り見終わって、椅子に座ってグルーを待つことにした。ラッキーなことに時計は元の世界と同じで、今は夜の八時だと分かった。




 ●●●




 それから一時間、グルーが戻ってこない。手で剣を粉砕するような人だ、危ない目に遭ったとは考えにくい。やっぱり俺が騙されてここに置いて行かれたのか?それとも、本当に何かあって………

 やばい、鳥肌が立つ。俺が騙されてる方がまだいいと思うくらいには恐怖を感じる。『帰りを待っても帰ってこない』のは誰だって嫌だ。けど、俺の場合はもっと……

「おや、目が覚めたらようですね。調子はど…ヤト!顔が真っ青じゃないですか!」
「グルー…?」
「どこか調子でも……っ!」

 俺は心配そうに駆け寄って来たグルーを条件反射で抱きしめた。その時の勢いで床に倒れ込み、グルーは分かりやすく驚いている。

「あの…?」
「戻ってこないかと思った……!あんたに何かあったんじゃないかって、どれだけ心配したと…!」

 嫌な記憶がフラッシュバックする。どれだけ待っても帰ってこない感覚は吐き気がするほど苦手だ。
 グルーはしっかりと抱きしめて震える俺の頭を撫でた。その手は冷たくて、それでも触れる感覚が落ち着く。急に抱き付かれて驚いてるだろうに優しい人だな。

「申し訳ありません。書き置きを残そうとは思ったのですが、ヤトはこの世界の文字が読めるか分からなかったので…」
「なら叩き起こしてくれればよかったのに」
「ごめんなさい、配慮が足りませんでしたね。次は気をつけるので、どうか泣き止んでください」
「泣いてはないから!」

 しばらくして落ち着いてから離すと、段々と正気に戻って恥ずかしくなった。俺、なにやってんだ…!

「わ、悪い!忘れてくれ!」
「忘れてくれと言われましても…記憶力には自信がありますので……」
「うぅ……」

 本当にこういう時に俺は弱い。もう十年前のことなのに、大切な家族を失った時の感覚が染み付いて消えない。もう待っても待っても帰ってこないなんてごめんだ……




 なんて弱った姿を見せたからか、俺は今グルーの膝の上に座らされている。しかも後ろからしっかりと抱きしめられていて、距離が近すぎて少し恥ずかしい。

「えぇっと、これはどういう状況…?」
「その、心配かけてしまったらどうすればいいのか分からず…とりあえず側にいれば安心して貰えるかと思ったのですが………ズレてますかね」
「かなりズレてると思う」

 無事で安心したのに『どうしたら安心するだろう』なんて考えてたのかグルー。なんか、そういうとこは不器用で可愛げがある。
 ただ…距離が近いせいで耳打ち状態になってるのはかなり困る。低くて色っぽい声で耳元で喋られると、体がゾクゾクして…変態っぽいかもしれないけど、それだけグルーの声が良すぎるってことだからな!?

「ヤト?どうしました?」
「い、いや、なんでもない」
「『なんでもない』はやめてください。ちゃんと、正直に話してくれませんか…?」

 ひぇっ、だからマジで耳元は…!でもこんなこと言って引かれるのも嫌だし、なんとか誤魔化せる方法は……思い浮かばねぇよ………!

 あ、やべ………

「っその、トイレに行きたいから離してくれないか?」
「あっ、すみませんでした」

 すぐに手を離してくれたから、バレる前にトイレに駆け込んだ。




 ●●●




 気付かれて無いよな?流石に会って間も無いのに、こんなのバレたらどんな顔されるか……。

 つーか、俺も俺だよな。いくらゲイだからってほぼ初対面の人に興奮すんのはおかしいよな。ヤバいなって思ってすぐに離れたから落ち着くまでに時間は掛からないだろうけど、これからあの色香に反応しないように過ごさないといけないのか……。俺が変な気を起こさないか心配だ。




 ●●●




 ほんの数分くらいで落ち着いたから、そのままついでに用を足してから部屋に戻った。ん?なんかいい匂いがするな…。

「あ、夕食の準備がちょうど整いましたよ」
「うわぁ…!」

 俺がトイレに行ってる間に宿の食事が届いたようで、グルーはそれらをテーブルに並べていた。雑穀米に煮魚、ほうれん草のお浸しに味噌汁と和風なメニューだ。この世界にも和の何かがあるんだろうか。そしてこの世界にも米はあるようで安心だ。
 席に着いて次々と口に運んだ。う、うまぁ!空腹がスパイスになってもいるだろうが、普通に料理のレベルが高い。特にメインの煮魚は白身が柔らかくて噛めば噛むほど旨みが出てくる。

「お気に召したようですね」
「あぁ、すげぇ美味い!」

 箸が止まらずあっという間に平らげた。正直足りなく感じるが、そこは我慢だな。
 食器を返却して食休みを取った。空っぽの時間が長かった胃に急に入れたからか少し負担を感じる。ジャンクフードとかだったらもっと胃が痛くなってたかもしれない。和食でよかった。




 休んでる間にふと気になった事をグルーに聞いた。

「なぁ、そういえば伝承ってなんだ?」

 この世界に呼び出された時、俺は『伝承と違う』と言われた。だがそもそも伝承とやらを俺は知らない。

「人間の国で信仰されている救世主が『異世界人』なのですよ。新たな知識をもたらし、不思議な力で国を豊かにする存在です。その異世界人の特徴として挙げられるものが『黒髪』『黒目』の『女性』なのです」

 なるほど。だから俺が男でガッカリされた訳だ。いや納得できるわけ無いだろそんな理由!つかそもそも元の世界には金髪だっているし男もいるっての!なんで異世界人=黒髪黒目の女になるんだよ!

 とか不満を垂れ流したところでどうなる訳でもないから飲み込んだ。っていうか、それなら俺、黒髪しか合って無いじゃねぇかよ。よく間違えられるが俺の瞳は青紫だ。遺伝かなんかだとは思うが黒じゃ無い。

「はー、くっだらねぇ……。勝手に呼び出しておいて『例外』は認めねぇってすぐ落とすか?普通。向こうには家族だって残ってんのに」

 不器用でぼんやりした弟と、俺の影響か喧嘩っ早い下の弟と、男手一人で三人の息子を育てた父親。
 歳の近い弟の光流みつるは精神的に脆い部分があって自傷癖がある。母親も友人も亡くして俺までいなくなったら、何をするか分かったもんじゃ無い。
 歳の離れた弟の光成こうせいは…手の付けられない厄介なやつだ。普段はただ活発で健康的な少年だが、ストレスが一定以上に行くと暴れ出して手に負えない。
 生真面目で家族への情が深い父さんは一人でなんでもしようとする。ただでさえ育ち盛りの息子を三人も育ててんのに、仕事だけじゃなくて家事まで自分でしようとするから俺が家の仕事はぶん取ってやってた。

 ……本当に不安要素しかない家族だな、おい!俺無しで本当に大丈夫なのか!?

「帰りたい…ですよね。ですが……」
「どうせ帰れねぇんだろ。分かってる」

 帰れるなら『伝承と違う』時点で強制送還されてんだろ。わざわざ捕まえて奴隷にする必要も無い。…いや、あの王なら帰せても俺を奴隷にするか。うぅっ、鳥肌が…。

「本当に申し訳ありません。貴方が元の世界に帰るには、向こうから貴方を召喚する必要があるのです。ですが異世界に魔法は無いと聞きました。恐らく召喚する方法も……」
「無いだろうな」

 机に肘を付きため息を吐いた。大切な家族とは会えなくなり、高い学費を払ってもらって通った高校は卒業もできない。そんなの受け入れられるかよ。俺は…ただのお荷物としてアイツらの記憶に残るのか?
 せめて、親孝行くらいさせてくれよ………

 グルーは席を立つと俺の方に来て正面から優しく俺を抱きしめた。

「その、申し訳ありません。召喚を止められる程近くにいながら止めなかった私にも非があるのは分かっています。本当に、申し訳な……」
「グルーは悪く無い。全部、悪いのはあの王だろ……?」

 あぁ、クソッ…ダメだ、堪えていたものが込み上げてくる。

「……そう、ですね。ヤト、今くらいは泣いてもいいんですよ」
「…っ!っは、悪いな…こんな、情け無い………」

 俺からもグルーを抱きしめて、そのまま肩で泣いた。大切な家族に二度と会えない。十年前に母さんと兄を失った時と同じような喪失感が押し寄せた。
 そうだ、今度はアイツらが残される側になったんだ。二度と会えないならアイツらにとって俺は死んだのと同じだ。俺が、家族を残して逝く側になったんだ……

「はっ、ゔぅっ……、ごめん、っごめん…なさい………!」

 家族を失ったことが、俺に取っての何よりの苦痛だ。何の恩も返せず、ただの穀潰しのように去っていく不孝具合には嫌気がする。俺は、アイツらのために何か出来ただろうか………




 ●●●




 数分泣いて少しスッキリした。ダメだな、グルーに甘えっぱなしになってる。

「悪い、服を濡らしたな」
「服くらい多少濡れてもいいんですよ。それより貴方が苦痛を耐える方が良くないでしょう?」
「優しいな。でももう大丈夫だ。俺だってもう大人なんだから自力で出来ることはやって行くさ」
「……大人?」

 一応十八にはなってるしな。あ、この世界の成人ってもっと上だったりするか?

「ヤト、貴方いくつです?」
「十八だが…」
「ちょうど成人の年齢ですか…。すみません、てっきり十六程かと思っていました」

 もしかしてそれで距離が近かったのか?…いや、だとしても完全に子供扱いしすぎじゃなかったか?

「とりあえず入浴しましょうか。あぁ、ヤトは一応病人で怪我人ですから、今日は一緒に入ってください」
「えっ…?」

 まさかこの人、デフォでこの距離感なのか……!?
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