召喚され救世主じゃないと言われたが、復讐の旅でなぜか身体を狙われている

輝石玲

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復讐の旅、開始!

33.心臓が止まるほどの…

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 手を怪我した三日後、言われた通りに図書館の管理人室に行った。どうやら傷の経過観察をするらしい。包帯を外してテープをそっと剥がす。そっと消毒をしてモノクル越しに傷を観察すると、首を傾げていた。

「おかしいですな……。傷が、たったの三日で完治している……?」

 …………え?
 え、完治?結構深くまで切れてたよな?爺さんの処置がどんなものかハッキリ見てたわけじゃ無いからわかんないけど、魔法でも使ってたのか?
 向こうの世界で同じような怪我をした時は一週間で抜糸して、もう一週間で消えた。なのに今は…三日で傷跡ごと消えている。残っているのは塗った糸だけだ。

「これは…一度糸を外しましょう。その後にもう一度診てみます」


 またベッドで横になって部分麻酔を打たれた。そして糸を全て外すと、糸が通ってたところから血が滲んでる以外に傷は無かった。
 一度消毒をして手の平全体を覆うことのできる絆創膏みたいなのを貼ると、指先から細い注射を打たれた。この薬で早く麻酔が切れるらしい。



 麻酔が切れるまで約二十分その間に爺さんに身体検査をされた。眼球と舌を診られ、脈を計り血液検査のための採血もされた。触診で上裸になり首と心臓付近、ヘソの辺りを軽く押されたり、髪の毛や爪や唾液まで採取された。
 もしかしてこの爺さん、普通に医者なんじゃないか?応急処置というなの縫合手術やら麻酔注射やらやってるし、絶対に素人では無い。だとしたらなんで図書館の管理人とかやってるのか謎だが。



 麻酔が切れた頃、爺さんの指示に従って軽く右手を握った。それから少しずつ力を入れて強く握りしめても痛みは全く無い。
 絆創膏を外すと、どこに傷があったのか分からないくらいには綺麗に消え去っていた。縫合の跡すらもう無い。

「なんと、こんなことが……」
「ヤト、お前人間じゃ無いとは聞いてたがコレは凄すぎだろ……」
「ま、待ってくだされ!今、人間では無いと!?」

 まぁ、魔法無しでこの回復力なら俺の人間じゃない『何か』が強くなってるんだろうな。たぶん、神器を一つ解放したから……。なら次を、二つ目を解放したら?今度はその場で傷が消えるのか?なら全てを解放したらどうなるんだ………?

 マズい、怖い。何で怖いか分からないけど、正直なところ魔王の姿のグルーに会った時の比じゃないくらい怖い。何かが………俺の、中の……………




 俺ノ中 ノ何カ ヲ思 イ  出 シ  ソ ウ   デ




「…………!……ト…!…い…、おい!ヤト!」
「 ッ ! 」

 はっ……い、今、俺、どうなってたんだ?記憶…じゃない、何かの感覚?が、体内を過ぎ去って行ったような………ぁ、はッ……気持ち……悪い……………

「ヤト!」

 意識を失いそうになり倒れかけた俺をなんとか支えてくれたヴィンス。頭が痛い、気持ち悪い、でも、今は…『今だけ』は眠りたくない。一人で、悪夢きおくを見たくない。

「……大丈夫だ。ただ…慣れないことに疲れた。部屋に戻って少し休みたい」

 ふらふらの体を何とか動かして借りてる部屋に戻った。



 部屋に入ってドアを閉めてすぐ、俺は力が抜けてその場で倒れてしまった。






 ーーーーーヴィンスーーーーー




 部屋に戻ってすぐ倒れたヤトをベッドまで運んだ。顔色が悪すぎるが…怪我は治ってんのに何が原因だ?ベッドに運んだら運んだでオレの服を掴んで離さねぇし…今は離れないようにした方がいいか?

 とりあえず掴まれて離れられなさそうだし一緒にベッドに入った。
 ……が、隣で横になった瞬間にめっちゃ近くまで来て胸元で蹲った。震えてるしうなされてる、本当に死ぬんじゃねぇかってくらい弱ってる。まさか……傷が治ったから、か?


 コイツが何者なのか本人ですら知らねぇみたいだし、こんな時の対処だって分かりゃしない。
 何も出来ないことを歯痒く感じていると、部屋に誰かが入ってきた。…グルージアか。何日も来なかったってのに何をしに来たんだか。
 オレは身動きが取れないからこのまま要件を聞くことにした。ベッドのすぐ近くまで来たグルージアは、いつもより気配が薄かった。意気消沈してるみてぇな、覇気なんぞ無い弱々しい気配だ。

「ヤトが襲われたと聞いた」
「もう傷は完治してるぜ。ったく…テメェは遅すぎんだよ」

 魔王の姿だってのに今は恐怖より怒りが勝つ。
 ヤトを守るように抱き寄せると、グルージアは何も言わずに部屋を出た。本当にアイツの考えが読めねぇ。



 夕方近くになってようやくヤトの震えが消えた。その代わりとでも言うように体温が下がって死体みたいに冷たくなった。


 死体………?

 いや、まさか…だよな?呼吸はしてる。心臓は………止まってる。


 な、なんだよコレ。息してんのに心臓止まってる?しかも体は冷たくて、どれだけ揺すっても起きやしない。生きてはいるんだよな?でも心臓止まったら死ぬんじゃねぇのか?

 えぇっと……こういう時は年長者に頼れ、だ!図書館のジジイに診てもらうしか思いつかねぇ!


 ヤトの冷たい体をタオルでグルグル巻いて横抱きで抱えて図書館の管理人室まで走った。

「管理人のジジイ!助けてくれ!」
「図書館ではお静かに…っと、いかがされました?」
「コイツが…息してんのに心臓が止まった!」

 ジジイは驚くとすぐにヤトをベッドに寝かせ、上に乗って胸の辺りを両手で押し始めた。なんだっけ、えーっと、アレだ!心臓マッサージだ!
 それで本当に心臓が動くのかイマイチ信じられねぇが、何も出来ないオレは待つしか無い。

 二十分くらい経った頃、ヤトから唸り声が小さく聞こえた。も、戻ったか…?ジジイも一度止めて心臓を確認したが、苦い顔をしている。そしてベッドから降りると急に魔法石で湯を沸かし始めた。

「お、おい、ヤトは……」
「まだ心臓は止まっておりますが……どうやら、これ以上は無駄なようですな」
「は!?」

 そ、それって、もうコイツは助からないってこと…………


「んっ………ん?あれ、ここで寝てたか………?」

「………へぁ?」


 あ、あれ、起きたな…。全然普通に起きた、な………?え、待ってどういうことだ?

「おはようございます、ヤト様」
「お、おはよう…ございます………?爺さん、俺、ここで寝てたか?」
「いえ、様子がおかしかったので、ヴィンセント陛下が貴方を連れてきたのですぞ」

 そう言ってヤトの額に湯で濡らしたタオルを乗せたジジイ。あったかいタオルでヤトは気持ち良さそうだ。

 えっと…結局心臓はどうなったんだ?
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