28 / 43
未来への招待状
2話
しおりを挟む
やはり自分にはあの店を背負って立つ資格はないのだろうか、そんなふうに思ってもいた。氷川の言うとおり、彼の傍でのみ生きていくことが一番いいのではなかろうか。無論、彼に囲われるような形で養われて過ごすのは、男としては面目のないことである。だが、”仕事”という形ではなくとも、自分にできることが何かあるかも知れない。例えば氷川の為に彼の身の回りの世話をするでもよし、精神的な癒しになるもよし、それはまるで世間で言うところの”嫁”のような立場になるのかも知れないが、それもまたひとつの幸せの形なのかも知れない。
両親の元で暮らすことを許されなかった自分を引き取って育ててくれた香港の黄氏が亡くなった時に、住み慣れた地を離れ、単身でこの日本にやって来た。一目でいいから会いたいと願った父に会うことは叶わず、腹違いの兄である菊造から金を無心され、途方に暮れるようにして入ったホスト業界だ。頼るところのなかった自分をあたたかく受け入れてくれたxuanwuという店が、冰にとっては家のようであり、そこで一緒に働く仲間たちは家族さながらだった。
そんな店を離れるのは、やはり寂しい。できることならずっとここで働いていたい。そんな葛藤の中、冰は代表を辞する考えを、今日この場で氷川に告げる心づもりでいたのだった。
別荘のテラスで少し遅めの昼食を囲む。
竹林に囲まれた萌ゆる緑を縫って、初夏の日射しがキラキラと輝きを見せている。
和やかな会食が済み、食後の珈琲が運ばれてきた時、冰は思い切って話を切り出そうとした――その時だった。
「冰、それに遼二と紫月も聞いてくれ。お前らに大事な話がある」
先に切り出したのは氷川の方だった。
「今回のことは全て俺の甘さが引き起こしたことだ。お前らには本当にすまないことをした」
「龍……そんな……」
冰は無論のこと、遼二と紫月も驚き顔で氷川を見つめた。
「大阪への出張で一晩家を空けるってのに、東京の冰の元に護衛の一人も残さず――、しかも遼二までもを連れて行ったことで隙を作っちまったんだ。完全に俺の手落ちだ」
「……そんな! お前は悪くない……! 元はといえば俺の過去のことで……こうなったわけだし……」
冰はとんでもないといったふうに、氷川の責任を否定した。
「いや――お前のせいじゃねえ。というより、誰が悪いとか悪くないというわけじゃない。とにかく大事に至らなくて良かったが、もしも偶然帝斗が店を訪れてくれていなかったとしたらと思うと、後悔どころではすまされない。そこで、今後の体勢を見直したいと思っている」
氷川はそう前置きをしてから、少々驚くような内容の提案をした。
「先ずは紫月――お前にはホストの職を辞してもらい、この冰の秘書として勤めてもらいたい」
「……! 俺が……代表の秘書を……?」
両親の元で暮らすことを許されなかった自分を引き取って育ててくれた香港の黄氏が亡くなった時に、住み慣れた地を離れ、単身でこの日本にやって来た。一目でいいから会いたいと願った父に会うことは叶わず、腹違いの兄である菊造から金を無心され、途方に暮れるようにして入ったホスト業界だ。頼るところのなかった自分をあたたかく受け入れてくれたxuanwuという店が、冰にとっては家のようであり、そこで一緒に働く仲間たちは家族さながらだった。
そんな店を離れるのは、やはり寂しい。できることならずっとここで働いていたい。そんな葛藤の中、冰は代表を辞する考えを、今日この場で氷川に告げる心づもりでいたのだった。
別荘のテラスで少し遅めの昼食を囲む。
竹林に囲まれた萌ゆる緑を縫って、初夏の日射しがキラキラと輝きを見せている。
和やかな会食が済み、食後の珈琲が運ばれてきた時、冰は思い切って話を切り出そうとした――その時だった。
「冰、それに遼二と紫月も聞いてくれ。お前らに大事な話がある」
先に切り出したのは氷川の方だった。
「今回のことは全て俺の甘さが引き起こしたことだ。お前らには本当にすまないことをした」
「龍……そんな……」
冰は無論のこと、遼二と紫月も驚き顔で氷川を見つめた。
「大阪への出張で一晩家を空けるってのに、東京の冰の元に護衛の一人も残さず――、しかも遼二までもを連れて行ったことで隙を作っちまったんだ。完全に俺の手落ちだ」
「……そんな! お前は悪くない……! 元はといえば俺の過去のことで……こうなったわけだし……」
冰はとんでもないといったふうに、氷川の責任を否定した。
「いや――お前のせいじゃねえ。というより、誰が悪いとか悪くないというわけじゃない。とにかく大事に至らなくて良かったが、もしも偶然帝斗が店を訪れてくれていなかったとしたらと思うと、後悔どころではすまされない。そこで、今後の体勢を見直したいと思っている」
氷川はそう前置きをしてから、少々驚くような内容の提案をした。
「先ずは紫月――お前にはホストの職を辞してもらい、この冰の秘書として勤めてもらいたい」
「……! 俺が……代表の秘書を……?」
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?
monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。
そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。
主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。
※今回の表紙はAI生成です
※小説家になろうにも公開してます
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
青龍将軍の新婚生活
蒼井あざらし
BL
犬猿の仲だった青辰国と涼白国は長年の争いに終止符を打ち、友好を結ぶこととなった。その友好の証として、それぞれの国を代表する二人の将軍――青龍将軍と白虎将軍の婚姻話が持ち上がる。
武勇名高い二人の将軍の婚姻は政略結婚であることが火を見るより明らかで、国民の誰もが「国境沿いで睨み合いをしていた将軍同士の結婚など上手くいくはずがない」と心の中では思っていた。
そんな国民たちの心配と期待を背負い、青辰の青龍将軍・星燐は家族に高らかに宣言し母国を旅立った。
「私は……良き伴侶となり幸せな家庭を築いて参ります!」
幼少期から伴侶となる人に尽くしたいという願望を持っていた星燐の願いは叶うのか。
中華風政略結婚ラブコメ。
※他のサイトにも投稿しています。
《完結》僕が天使になるまで
MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。
それは翔太の未来を守るため――。
料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。
遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。
涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる