極道恋浪漫

一園木蓮

文字の大きさ
5 / 159
極道恋浪漫 第一章

しおりを挟む
 それが今から五年程前のことである。イェンは大学を修業後の二十二歳で砦に入り、二年もする頃には父の期待を遥かに上回る統治力を発揮した。それから更に三年、今では九龍城の皇帝と崇められるほどに頭角を表していた。
 地上の世界は父のスェンと長兄のファンが治め、砦は次男坊のイェンが牛耳る。まさに頭領・スェンが脳裏に描いてきた理想の構図が確たる地盤の上に築かれる形となっていったのである。
「ここをお前に任せたのは正解であったな。今では取り立てて争い事もなく、この城内に住む者がまずまずの安泰で暮らせるようになった。お前の才覚だ」
「もったいないお言葉でございます」
 満足げな父に敬意を表しながらイェンは茶を勧めた。
「ところでイェン。実はな、ひとつ頼まれて欲しいことがあるのだ」
「は――。何でございましょう」
ウォンという男を知っているか? 城内のカジノでディーラーをしている老人だ」
「はい、名は存じております。ご高年だそうですが、大層腕の良いと評判でございますな」
「そうだ。彼は私の父の代からディーラーで活躍してくれていてな。この城内に移って来る前は我がファミリーのカジノで多大なる功績を残してくれていた」
 巷では神技と言われるほどの腕前の持ち主だそうだ。イェンウォン老人についての噂は耳にしていた。
「私は直に会って話したことはございませんが、遠目からお顔は存じております。そのウォン氏が何か?」
「うむ。ウォンには息子が一人おるのだが――」
「息子さん――でございますか? 確か噂ではウォン氏は独り者だとか」
「その通りだ。息子というのは実子ではない」
「――では、ご養子でございますか」
「そうだ。ウォンがこの城内へ来る前のことだ。隣家に住んでいた若い夫婦が事故で亡くなったそうでな。夫婦には息子が一人いたのだが、彼らは日本から移住してきたらしく、残された子供には身寄りがなかったそうだ。不憫に思ったウォンがその子を引き取り、育ててきたらしい」
 何とも奇特な話である。
「日本から移住して来たというと、その息子さんも日本人ということでしょうか」
「ああ。名は雪吹冰というらしい」
雪吹冰ふぶき ひょう――。それで年は幾つになるので?」
「十七だ。もっともウォンが引き取った頃はまだ小学校の低学年だったそうだが」
 ということは、ウォン老人が子供の面倒を見るようになってから十年ほどといったところか。
「実はそのウォンの息子がここひと月ほど行方不明になっているらしくてな」
「行方不明?」
 十七といえば反抗期も過ぎつつある頃合いだが、幼くして両親を亡くしたというその環境を考えれば何かと悩みも多いのかも知れない。もしかしたら老人とそりが合わずに喧嘩でもして家出したか、あるいはその先で何かの事件に巻き込まれたとも考えられる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

ふたなり治験棟 企画12月31公開

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

【短編集】こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

月弥総合病院

僕君・御月様
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

処理中です...