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告げられないほどに深い愛(極道若頭編)
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すっかりと宵闇が降りきった年の瀬の夜、鐘崎は土産のケーキを手に一之宮道場の紫月の元へと顔を出した。
「ほら、お前の好きなやつだ」
ケーキの箱を手渡すと、紫月は嬉しそうに早速それを開いて瞳を輝かせた。
「氷川ンところに行ってきたのか?」
「仕事がてらな。お前にもよろしく――とよ」
「ふぅん? わ! 俺ン大好物の生チョコケーキじゃん! クルミが入ってて超美味いんだ、これ」
手際よくコーヒーメーカーをセットしながら、紫月はご機嫌な様子だ。
「てめえは? 何にする?」
「俺はいい。コーヒーだけもらおう」
「相変わらず甘いのは苦手かよー。こんなに美味えのに」
人生損してるぜとばかりに笑う。無邪気な笑顔が愛しくて、鐘崎は普段は鋭い眼光を思いきりゆるめるのだった。
「数日後にはクリスマスだからな。今日はそれだけしか買ってこなかったぞ?」
「それだけって……六個もありゃ充分だって!」
鐘崎が甘党の紫月の為に、毎年欠かさず立派なクリスマスケーキを予約してくれるのは恒例となっている。
「今年も頼んでくれてるのか? いつも悪ィじゃん」
「俺にとっても楽しみのひとつだ。気にするな。今年はバニラと苺とカカオの三段重ねってのにしたぞ?」
「マジ!? すげえ……!」
「俺も時間が取れそうなんでな。たまには一緒に外食でもとも思ったが、お前ンところは毎年親父さんと綾乃木さんと家でやるのが決まってるからな」
だからケーキだけでも贈らせてくれという鐘崎の心遣いを紫月も心底有り難く思っていた。いつも仕事で忙しい彼は、毎年ケーキだけを若い衆に届けさせて顔を見せることはなかったのだが、今年は時間が取れるという。紫月にとってはそれもまた嬉しいことだった。実のところ、ケーキ以上に楽しみだと思えるのだが、それは胸の内にだけしまっておくことにする。
黙っていると頬の熱を悟られそうで、紫月は視線を泳がせながら別の話題を探した。
「そ、それより……聞いたぜ。てめ、また見合いの話断ったんだってな?」
早速にも貰ったケーキをペロリと平らげながら、わざと平静を装ってつぶやいた。
「……ったく、耳が早えな。今さっき氷川からも冷やかされてきたところだ」
平然と言ってのける鐘崎はまるで他人事を語る口ぶりである。
「俺もついさっき綾さんから聞いたばっかしだけどよ。今年に入ってから五回も見合い話があったってけど……マジかよ?」
「さあ、どうだったか。いちいち数えちゃいねえよ」
「は、言ってくれるねぇ。大層おモテになって結構なことだ」
呆れ気味に肩をすくめてみせた紫月を横目に、鐘崎はジロりと鋭い視線をくれた。
「結構なもんか。俺にとっちゃとんだ災難だ」
「災難だー? 相変わらず口が悪ィんだからよー」
「本当のことを言ったまでだ。見合いなんていったところで、単に組同士の繋がりを持ちてえってだけの話だからな。面倒が増えるだけでいいことなんぞこれっぽっちもありゃしねえよ」
「ンなの、会ってみなけりゃ分からねえじゃん? 見合い写真も見ねえ内から速攻断るって……そりゃあんまりだろうが。案外会えば気に入る女と出会えるかも知れねえぜ?」
ツラツラと言われて、鐘崎はまたしても機嫌の悪そうに眉根を寄せてみせた。
「ほら、お前の好きなやつだ」
ケーキの箱を手渡すと、紫月は嬉しそうに早速それを開いて瞳を輝かせた。
「氷川ンところに行ってきたのか?」
「仕事がてらな。お前にもよろしく――とよ」
「ふぅん? わ! 俺ン大好物の生チョコケーキじゃん! クルミが入ってて超美味いんだ、これ」
手際よくコーヒーメーカーをセットしながら、紫月はご機嫌な様子だ。
「てめえは? 何にする?」
「俺はいい。コーヒーだけもらおう」
「相変わらず甘いのは苦手かよー。こんなに美味えのに」
人生損してるぜとばかりに笑う。無邪気な笑顔が愛しくて、鐘崎は普段は鋭い眼光を思いきりゆるめるのだった。
「数日後にはクリスマスだからな。今日はそれだけしか買ってこなかったぞ?」
「それだけって……六個もありゃ充分だって!」
鐘崎が甘党の紫月の為に、毎年欠かさず立派なクリスマスケーキを予約してくれるのは恒例となっている。
「今年も頼んでくれてるのか? いつも悪ィじゃん」
「俺にとっても楽しみのひとつだ。気にするな。今年はバニラと苺とカカオの三段重ねってのにしたぞ?」
「マジ!? すげえ……!」
「俺も時間が取れそうなんでな。たまには一緒に外食でもとも思ったが、お前ンところは毎年親父さんと綾乃木さんと家でやるのが決まってるからな」
だからケーキだけでも贈らせてくれという鐘崎の心遣いを紫月も心底有り難く思っていた。いつも仕事で忙しい彼は、毎年ケーキだけを若い衆に届けさせて顔を見せることはなかったのだが、今年は時間が取れるという。紫月にとってはそれもまた嬉しいことだった。実のところ、ケーキ以上に楽しみだと思えるのだが、それは胸の内にだけしまっておくことにする。
黙っていると頬の熱を悟られそうで、紫月は視線を泳がせながら別の話題を探した。
「そ、それより……聞いたぜ。てめ、また見合いの話断ったんだってな?」
早速にも貰ったケーキをペロリと平らげながら、わざと平静を装ってつぶやいた。
「……ったく、耳が早えな。今さっき氷川からも冷やかされてきたところだ」
平然と言ってのける鐘崎はまるで他人事を語る口ぶりである。
「俺もついさっき綾さんから聞いたばっかしだけどよ。今年に入ってから五回も見合い話があったってけど……マジかよ?」
「さあ、どうだったか。いちいち数えちゃいねえよ」
「は、言ってくれるねぇ。大層おモテになって結構なことだ」
呆れ気味に肩をすくめてみせた紫月を横目に、鐘崎はジロりと鋭い視線をくれた。
「結構なもんか。俺にとっちゃとんだ災難だ」
「災難だー? 相変わらず口が悪ィんだからよー」
「本当のことを言ったまでだ。見合いなんていったところで、単に組同士の繋がりを持ちてえってだけの話だからな。面倒が増えるだけでいいことなんぞこれっぽっちもありゃしねえよ」
「ンなの、会ってみなけりゃ分からねえじゃん? 見合い写真も見ねえ内から速攻断るって……そりゃあんまりだろうが。案外会えば気に入る女と出会えるかも知れねえぜ?」
ツラツラと言われて、鐘崎はまたしても機嫌の悪そうに眉根を寄せてみせた。
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