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告げられないほどに深い愛(極道若頭編)
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「ま、確かにてめえは立派だと思うぜ。俺なんぞ、金銭面では未だ親父におんぶに抱っこだからな」
「謙遜するな。海外へ出る機会が多い親父さんの留守をしっかり守ってるじゃねえか」
「――内輪で褒め合ってりゃ世話ねえな」
鐘崎はまたしても苦笑してみせた。
「じゃあ、そろそろ行く。もう師走だ、暮れるのも早い」
壁一面がパノラマのガラス窓の下に、チラホラとし出した街の灯を見下ろしながら、鐘崎は腰掛けていたソファから立ち上がった。
「そう急ぐこともねえだろ。メシでも食ってきゃいいじゃねえか」
「いや――有り難えが、これからちょっと寄ろうと思ってな。例のラウンジが混み合う前に買い物を済ませにゃならん」
それを聞いて、周はフッと口角を上げた。
「一之宮の好物のケーキか? なんだ、これからヤツの所へ寄ろうってわけか」
「――まあな。ここまで出てきたってのに、手ぶらで帰るんじゃ後で恨まれそうだからな」
紫月の大好物であるホテルラウンジのケーキ屋は、周の社屋のすぐ近くなのだ。何だかんだと理由をつけては、結局好いた相手に会いに行こうとしている友の姿を微笑ましく思う周だった。
「また寄らしてもらう。てめえもあんまり無理すんなよ?」
さりげなく気遣いの言葉も忘れない、そんな鐘崎の後ろ姿を見送りながら、やれやれと溜め息が漏れてしまう。
「……ふう。何かよっぽど突飛なアクシデントでも起きねえ限り、壁は破れねえってところか」
独りごちたその傍らでは、秘書であり側近でもある李が茶器を片付けながら相槌を返した。
「鐘崎様と一之宮様のことでございますか?」
「ああ。まったく――どうしてああも意気地がねえのか。他人事ながら焦れて仕方ねえ」
李とは物心ついた時からの付き合いで、彼の方が歳も少々上である。子供の時分からずっと側で周を見てきた彼は、経営の要のことはむろん、たわいもない愚痴や雑談にも付き合ってくれるのだ。
「鐘崎様にとっては――ただの色恋ではないのでしょう」
「それだけ真剣だってことか? そりゃまあ、あれだけ一途に想ってりゃ、そうなのかも知れねえが」
「――少々大袈裟な言い方かも知れませんが、全身全霊、命をかけた恋とでもいうのでしょうか。失くしてしまわれるのを恐れていらっしゃるのかも知れませんね。お心を打ち明けて、万が一現在の関係が壊れてしまうくらいなら、いっそこのままでいいと――そうお思いなのかも知れません」
「まあ、分からねえでもねえがな。だが、そんな弱気にならずとも、傍目から見りゃあいつらは完全に相思相愛と思えるんだがな」
「互いが良ければそれでいいというだけでは括れないのかも知れません。一之宮様にしても、周囲のことや鐘崎様の組でのお立場や面子に重きを置きすぎて、無意識の内にご自身の想いを抑えてしまわれているようにもお見受けできますが――」
「てめえの幸せよりカネの立場が大事ってか? 一之宮もああ見えて健気なところもあるからな。だからこそカネの野郎がビシッと決めてやらにゃいかんと思っちまうんだが。何をグズグズやってやがるのか……」
「良く言えば慎重であられる。悪く言えば必要以上に臆病になっていらっしゃる。老板のおっしゃる通り、意気地がない――と言えなくもない――といったところなのでしょう」
いずれにせよ、ご本人たちが迷いながら手探りででも一歩一歩距離を縮めていくなり壁を乗り越えていくしかないのではと言って、李は微笑んだ。
「老板の焦れるお気持ちも分かりますが、まあ時期がくるまでお側で見守って差し上げればよろしいかと」
「――ったく、世話の焼ける奴らだぜ」
苦笑する周であったが、まさかその二年の後、自らも同じように恋に慎重な自身を自覚することになろうとは、この時は想像すらできなかったのである。
◇ ◇ ◇
「謙遜するな。海外へ出る機会が多い親父さんの留守をしっかり守ってるじゃねえか」
「――内輪で褒め合ってりゃ世話ねえな」
鐘崎はまたしても苦笑してみせた。
「じゃあ、そろそろ行く。もう師走だ、暮れるのも早い」
壁一面がパノラマのガラス窓の下に、チラホラとし出した街の灯を見下ろしながら、鐘崎は腰掛けていたソファから立ち上がった。
「そう急ぐこともねえだろ。メシでも食ってきゃいいじゃねえか」
「いや――有り難えが、これからちょっと寄ろうと思ってな。例のラウンジが混み合う前に買い物を済ませにゃならん」
それを聞いて、周はフッと口角を上げた。
「一之宮の好物のケーキか? なんだ、これからヤツの所へ寄ろうってわけか」
「――まあな。ここまで出てきたってのに、手ぶらで帰るんじゃ後で恨まれそうだからな」
紫月の大好物であるホテルラウンジのケーキ屋は、周の社屋のすぐ近くなのだ。何だかんだと理由をつけては、結局好いた相手に会いに行こうとしている友の姿を微笑ましく思う周だった。
「また寄らしてもらう。てめえもあんまり無理すんなよ?」
さりげなく気遣いの言葉も忘れない、そんな鐘崎の後ろ姿を見送りながら、やれやれと溜め息が漏れてしまう。
「……ふう。何かよっぽど突飛なアクシデントでも起きねえ限り、壁は破れねえってところか」
独りごちたその傍らでは、秘書であり側近でもある李が茶器を片付けながら相槌を返した。
「鐘崎様と一之宮様のことでございますか?」
「ああ。まったく――どうしてああも意気地がねえのか。他人事ながら焦れて仕方ねえ」
李とは物心ついた時からの付き合いで、彼の方が歳も少々上である。子供の時分からずっと側で周を見てきた彼は、経営の要のことはむろん、たわいもない愚痴や雑談にも付き合ってくれるのだ。
「鐘崎様にとっては――ただの色恋ではないのでしょう」
「それだけ真剣だってことか? そりゃまあ、あれだけ一途に想ってりゃ、そうなのかも知れねえが」
「――少々大袈裟な言い方かも知れませんが、全身全霊、命をかけた恋とでもいうのでしょうか。失くしてしまわれるのを恐れていらっしゃるのかも知れませんね。お心を打ち明けて、万が一現在の関係が壊れてしまうくらいなら、いっそこのままでいいと――そうお思いなのかも知れません」
「まあ、分からねえでもねえがな。だが、そんな弱気にならずとも、傍目から見りゃあいつらは完全に相思相愛と思えるんだがな」
「互いが良ければそれでいいというだけでは括れないのかも知れません。一之宮様にしても、周囲のことや鐘崎様の組でのお立場や面子に重きを置きすぎて、無意識の内にご自身の想いを抑えてしまわれているようにもお見受けできますが――」
「てめえの幸せよりカネの立場が大事ってか? 一之宮もああ見えて健気なところもあるからな。だからこそカネの野郎がビシッと決めてやらにゃいかんと思っちまうんだが。何をグズグズやってやがるのか……」
「良く言えば慎重であられる。悪く言えば必要以上に臆病になっていらっしゃる。老板のおっしゃる通り、意気地がない――と言えなくもない――といったところなのでしょう」
いずれにせよ、ご本人たちが迷いながら手探りででも一歩一歩距離を縮めていくなり壁を乗り越えていくしかないのではと言って、李は微笑んだ。
「老板の焦れるお気持ちも分かりますが、まあ時期がくるまでお側で見守って差し上げればよろしいかと」
「――ったく、世話の焼ける奴らだぜ」
苦笑する周であったが、まさかその二年の後、自らも同じように恋に慎重な自身を自覚することになろうとは、この時は想像すらできなかったのである。
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