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一園木蓮

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2. Nightmare Drop

Nightmare Drop 4話

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 今までは品もあり、博学で紳士的な男という印象が強かったのだが、隠された仮面の下ではこんなことを望んでいたというわけか――波濤は愕然とした。
 それを他所よそに、男から飛び出す台詞はますます際どさを増していく。ふと目をやった視線の先には、女性が使うであろう腰紐のようなものが男の手に握られていて、嫌な予感に心拍数が跳ね上がった。
「これでキミの両手を縛りたい……」
「し、縛るって……」
「それ以上のことはしないと約束するよ……。着物は脱がなくていいから、どこかひとつ……そう、キミが自由を奪われた格好を見ながら抱いてみたいんだよ」
 言うや否や、素早い動作で両腕を取り上げられて、蒼白となった。
「や……ちょっと待ってください……ッ! 俺、こういうマニアックなのは困るっつーか……高瀬さんッ!」
「――そんなことを言える立場かい? 僕が手を引いてしまったら、少なからず成績に響くんじゃないの? それとも僕の買いかぶりかい? 僕はこれでもキミの一番の太客だと自負しているんだけれどね」
「そ……れは、感謝……してます! けど、いきなりこんなの……」
「それに――キミだってそろそろ余裕はないはずさ。そうだろう?」
 首筋を濡れた舌先でなぞられて、快楽とは真逆のゾッとした嫌悪感が背筋を走った。と同時に、割った着物の裾から手を入れられ、硬くなりかけた雄を遠慮なしといった調子で握られて、波濤はギョッとしたように身をよじった。
「ちょっ……待っ……!」
「思った通りさ。もう勃ってるじゃないか……。波濤……ッ、夢だったんだ――キミのことをこうするのを……どんなに望んできたか分かるかい?」
「いや、あの……マジで待って……」
「内緒にしていたけれど、毎晩のようにこういう想像をしながら独りで慰めてきたんだよ、僕は――!」
 ともすれば気が触れてしまっているのではと思うほどに男は欲情し、興奮していた。

 ただ普通に寝るだけならば割り切っていられた――。
 同性相手の枕営業がバレて、周囲に侮蔑されようが構わなかった。正直なところ、女性客を相手にするよりも遙かに高額で男たちは自分を買ってくれるからだ。
 別段、好き好んでやっているわけでは決してなく、では何故にこんな営業を掛けるのかと問われれば、答えは一つだ。
 波濤には金が必要だった。大金を工面せざるを得ない理由があったからだ。

「……頼むから……やめてくれ、こんな……こと……ッ」
「いいよ、波濤。そうやってもっともっと拒めばいい。抵抗するキミを無理矢理奪うのも堪らないよ……! はぁ……ッ、ああ、波濤!」
 逃れようと身をよじったせいで、着物の袷がはだけてズクズクに乱れていく。胸飾りを指の腹でねっとりとなぞられて、身体中に悪寒とも快感ともつかない奇異な感覚が走った。
「ああ……堪らないよ波濤! ここ、感じるだろう? 我慢しないで。キミのいい声をもっと聞きたい……」
「……ッ、高瀬さん! マジで……勘弁してくれっ――!」
「そういう反抗的な顔も堪らないね……! もっと叫んでごらん……もっと、もっとキミの切羽詰まった声を聞かせて欲しい!」
 何をどう言ってもこの男を喜ばせるだけだ。そう悟った波濤は、このゲームに付き合う代わりにせめて腕の拘束を解いて欲しい、そう懇願したが、ついぞ聞き入れられることはなかった。



◇    ◇    ◇



 次の日の夕刻、波濤は重い心のまま、それでも店には何とか顔を出した。
 あの後、抗えないまま高瀬にいいようになぶられながら精根尽き果てるまで激しく抱かれ続けた。『酷いことはしない』という言葉とは裏腹に、破廉恥なことも散々に強要された。高瀬は始終『愛している』とか『好きなんだ』という言葉を連発しながら、夢中になって求め続けたのだ。
 確かに暴力というには及ばないのかも知れないが、それでも騙し討ちのようにしていかがわしい薬を盛られた状態で抱かれるのは、精神的にも身体的にも酷くダメージを与えられたことに違いはなかった。

 鏡を見れば身体のどこかしこに残る赤黒い痕、痕、痕――。中には内出血のように痣になってしまっている箇所も確認できた。
 それらを隠さんと、夏場だというのになるべく露出の少ない服を選んで出勤せざるを得なかった。余計な勘ぐりをされまいと、同僚たちには夏風邪を引いたと嘘をついて明るさを装うのにも、さすがに今日は苦労する。
「夏風邪はバカが引くっていうだろう? ほーんと、俺って格言を体現しちゃってしょうもねえ奴だろー?」
 いつもの軽いノリもジョークも、ようやくと繰り出すのが精一杯だ。
 身体中が重くてダルさが抜けない。本当に熱があるようで、火照るわりには冷や汗をベットリかいてみたり、寒気がしたりで辛かった。
 冷房の効き過ぎている店内に居続けるのさえしんどくて堪らない。常連の女性客から指名が入っても、ほぼヘルプの後輩たちにテーブルを任せなければならないような状態だった。
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