club-xuanwu

一園木蓮

文字の大きさ
15 / 60
2. Nightmare Drop

Nightmare Drop 6話

しおりを挟む
*源氏名:波濤(本名:雪吹冰)に関する調査報告書*

 調書によれば、波濤は国内でも有数の財閥系企業である平井家の当主、平井剛造ひらい ごうぞう氏の次男として生まれる――とあった。以下が大まかな報告である。

 雪吹冰は平井剛造が社の拡張事業で香港滞在中に見初めた日本人女性、雪吹冴絵ふぶき さえとの間に生まれた妾腹の子。
 当時、剛造には妻と二歳になる男児があったが、本妻とは家同士の政略結婚だった為に冴絵と恋に落ちたと思われる。その後、冰を身籠もった冴絵を連れて帰国するも、本妻の逆鱗に触れ、冴絵は心身を疲労。冰を生むと間もなくして他界した。
 剛造は冰を手元に置いて育てようとしたが、周囲の猛反対に合い、致し方なく香港の知人であるウォン氏に預けた。名字も”平井”を名乗ることは許されず、母方の”雪吹”とされた。
 黄氏は香港の裏社会に顔がきく人物で、当時はカジノを経営。身寄りを亡くした冰が一人で生きていけるようにと、ディーラーの技を仕込みながら大切に育ててくれたようである。
 黄氏が老衰で亡くなる際に聞かされた実の父親・平井剛造に一目会いたいと願った冰は、単身で日本へ帰国。だが、腹違いの兄である平井菊造ひらいきくぞうによって、その願いを阻まれる。
 ちょうどその頃、菊造は財閥の跡継ぎ候補から外されるという苦難に直面していた。素行、学業共にあまり褒められたところがなく、株主や役員たちによってそう決議されたようだが、そのことで妾腹の冰に財閥を乗っ取られるのではと危惧するようになる。
 以来、冰に逆恨みをした菊造は、母親と自分から父を奪った慰謝料と称して、冰に多額の現金を要求するようになる。
 冰は菊造の要求を真に受けて、二年前から毎月二百万円もの金を彼の口座に振り込んでいて、ホストになったのも金に都合をつける為と思われる。
 現在、冰はホストクラブxuanwuにてナンバーワンホストを務めるが、通常の稼ぎでは足らず、男性客を相手に色を売っているようである。菊造による現金の要求は日増しに増額されているのも事実である。
 以上――

 かいつまんで大体このような内容が記されていた。
「ふぅ……。波濤がこんな難儀なものを背負っていただなんてね。何とかしてあげたいのは山々だが――」
 帝斗はシガーを灰皿に揉み消すと、またひとたび重い溜め息をついた。
「財閥のトップ――、妾――、妾腹の子――、そして肉親からの恐喝と金の無心か。僕が冰にしてやれることがあるとしても、おそらくは彼の心の痛みまでを包み込んでやることはできないだろうかね。僕では何かと力不足か――」
 だが、このまま見て見ぬふりを続けるわけにもいかない。そもそも帝斗が今回、興信所に頼んでまで波濤のことを調べたのには、彼の様子がおかしいことをひどく危惧していたからである。
 表面は常に明るく、就業態度も真面目で、後輩にも好かれるとてもいい人柄の波濤である。だが、彼が明るさを装う裏で、何やら苦悩を抱えているように思えてならなかったのだ。
 波濤の心の揺れをいち早く読み取った帝斗は、一先ず彼の生い立ちから、何故この店のホストになったのかなどについて、密かに調べてみることにしたのだった。

「――この件、ヤツに賭けてみるか。僕ではできないことでも、あいつならばきっと……」

 手元の携帯電話のアドレス帳を見つめながら、帝斗はそう独りごちる。画面に映し出されたのは一人の男の名。帝斗にとって幼馴染みであり、人生の中でも数少ない”本物の親友”と呼べる男の名だった。

-FIN-

次エピソード3『Halloween Night』です。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話

降魔 鬼灯
BL
 ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。  両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。  しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。  コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。  

交際0日婚の溺愛事情

江多之折(エタノール)
BL
死にたくはない。でも、生きたくもない。ふらふらと彷徨う根無し草は、世界の怖さを知っている。救いの手は、選ばれた者にだけ差し伸べられることも知っている。 だから緩やかに終わりを探して生きていた。 ──たった数回の鬼ごっこを経験するまでは。 誠実すぎて怖い人は、4回目の顔合わせで僕の夫となる。 そんな怖がりな男と誠実な男の、結婚生活の始まり。 ■現実だけど現実じゃない、そんな気持ちで読んでください。 ■家庭に関してトラウマを抱えている方は読まない方が良いと思います。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

【完結】言えない言葉

未希かずは(Miki)
BL
 双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。  同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。  ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。  兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。  すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。 第1回青春BLカップ参加作品です。 1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。 2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)

処理中です...