club-xuanwu

一園木蓮

文字の大きさ
41 / 60
7. Double Blizzard

Double Blizzard 5話

しおりを挟む
 一方、車中ではオーナー帝斗が運転手に行き先を告げていた。どうやら波濤を連れ去ったらしい黒のワゴン車は、五キロ程先を走行中のようである。
「この分だとすぐに追い付けるな。念の為、お前さんが手配した他の車も二、三台こちらへ合流してもらっておくかい?」
「ああ、そうだな」
 帝斗の手際の良さに感謝はすれども、今の龍にとって思うところはそこではない。何故、波濤の居場所と行動を探るようなGPS機能付きの名刺入れなどを贈ったのか――理由が知りたいところである。いや、実際こうして役立っているのだから、結果的には有り難い以外の何ものでもないわけだが、拉致されるだなどということは本来稀な出来事といえる。何事もない平常時の――普段の彼の――行動を監視するようなことを何故帝斗がしていたのかが気になるところだった。
 しかめられた眉が崩れない表情の龍を横目に、帝斗はクスッと微笑むと、その理由を打ち明けた。
「波濤については気になることがあってね、お前さんを店に呼ぶ少し前からのことさ」

 波濤を指名する客は、その殆どが太客といわれる――いわば上客と呼ばれる客たちの中でも男性客がやたらと目立つことに違和感を覚え始めたのは半年ばかり前の頃だったろうか。
 人当たりも良く、抜群に整った容姿からしても女性客に引き手数多であろうはずの彼に、何故にこうも男性客ばかりが付くのかを不思議に思ったことから、波濤について密かに調べるべく気に掛けるようになっていった。
 その結果、波濤の出勤前の同伴には女性客がほぼ百パーセントを占める反面、終業後のアフターには男性客が八割方という、何とも奇妙な行動が浮かび上がってきたのだ。これは何か余程の理由があると踏み、興信所に波濤の身辺調査を依頼したのだった。

 その結果、波濤の生い立ちからホストになった理由を始め、彼が腹違いの兄である平井菊造から多額の現金を要求されている事実などが明らかとなったわけだ。帝斗はそれらの話をかいつまんで龍に話し聞かせた。
「僕がお前さんにホスト業を体験してみないかと誘ったのは、実はこれが理由なのさ。お前さんと波濤が同僚として親しくなれれば、彼のいい相談相手になってもらえるかと思ったからなんだ」
 帝斗の思惑がそんなところにあったというのも意外だが、それよりも何よりも、初めて聞く波濤の境遇に龍はひどく驚かされてしまった。
 彼とはもう幾度も身体を重ね合った深い仲だ。今では心も身体も惹かれ合っている恋人同士であると自負もしている。それなのに、波濤が抱えているそんな重荷に気付きさえしなかったことが悔やまれてならない。波濤自身からそういったことで困っているなどと打ち明けられたことも無論なかった。
 だが今にして思えば、波濤の常に他人に対して笑顔を崩さない明るさの違和感はこのことが理由だったのだろうかと思い知らされる気がしていた。それは初めて彼を見た時から気に掛かっていたことでもあった。

 波濤と出会った時の印象は、先ず何を置いてもその飛び抜けた容姿に目を引かれたということだ。そして、それが明らかな興味へと変わるのに左程時間は掛からなかった。
 無意識の内に視線が彼を追っていることを自覚し始めると、モヤモヤとしたその気持ちを払拭したくて自ら彼を家へと誘い、その夜の内に彼をこの手に抱いたのだ。と同時に彼の常時明るい性質や振る舞いが痛々しいくらい虚偽のようにも思えて、ひどく気に掛かってならなくなった。
 出会って間もなく自宅へと誘い、身体の関係を迫るなど、今から考えれば少々強引だったと思えなくもない。だが、それほどまでに興味を惹かれる相手に会ったのも初めてで、そういった意味でも波濤との出会いは運命的だったと言える気がしていた。その証拠に、惹かれ合い、心身共に求め合うようになり、今では彼なしの生活など考えられないくらいである。きっと彼よりも自分が彼を想う気持ちの方が強いのだろうことも自覚している。
 つくづく時間ではない――やはり”運命”なのだろうと思えていた。その出会いのきっかけを作ってくれたのがこの帝斗なのだから、これはもう恩という他ないだろう。
「つまり、お前は俺と波濤を引き合わせる為に俺を店に呼んだってわけか?」
「まあ、率直に言うとそういうことになるね」
 悪気のないその返答に、龍は一瞬苦虫を潰したかのような、何とも言い難い表情で帝斗を見つめてしまった。彼の含みのある笑顔はまるで全てお見通しだと言わんばかりでもある。

「お前――どこまで知っていやがる?」

 ふい、と龍は訊いた。すると帝斗はまたしても悪戯そうな、人の悪い笑みを浮かべながら飄々と訊き返してきた。
「どこまでだって?」
「だから……俺とあいつの関係についてだ」
 どこまでをどう把握していやがるんだ――そう訊きたげな視線が暗い車中で射るようだ。帝斗はクスッと鼻を鳴らしてみせた。
「お前さんたちが互いに愛し合っている仲だ――ってことかい?」

――やはり気付いていたわけか。
 だが、龍にとって訊きたかったのは”そこ”ではなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話

降魔 鬼灯
BL
 ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。  両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。  しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。  コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。  

交際0日婚の溺愛事情

江多之折(エタノール)
BL
死にたくはない。でも、生きたくもない。ふらふらと彷徨う根無し草は、世界の怖さを知っている。救いの手は、選ばれた者にだけ差し伸べられることも知っている。 だから緩やかに終わりを探して生きていた。 ──たった数回の鬼ごっこを経験するまでは。 誠実すぎて怖い人は、4回目の顔合わせで僕の夫となる。 そんな怖がりな男と誠実な男の、結婚生活の始まり。 ■現実だけど現実じゃない、そんな気持ちで読んでください。 ■家庭に関してトラウマを抱えている方は読まない方が良いと思います。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

【完結】言えない言葉

未希かずは(Miki)
BL
 双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。  同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。  ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。  兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。  すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。 第1回青春BLカップ参加作品です。 1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。 2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)

処理中です...