裏極(極道恋事情番外編)

一園木蓮

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今夜の夕飯は……♡

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※周焔&冰の、とある休日の話です。



「冰――今日の夕飯だが、何が食いたい」
 週末、二連休の午後三時――珍しく何処に出掛けるでもなく家でゴロゴロと過ごした周と冰。夕方間近になって周がそんなふうに訊いた。
 平日の食事は真田が一から十まで準備してくれるわけだが、こうした休日などには手を煩わせまいと外食で済ませることも多い。いつもは二人で買い物に出掛けるか鐘崎や紫月が遊びに来ていることも多いので、そのついでにどこかで食べてきたりもするのだが、今日は一日中家を出ずに過ごしていたので周がそんなふうに訊いたわけだ。
「うん、そうだねえ。そろそろ夕方だもんね」
 冰は何にしようかなと考えながらも、ふとこんなことをつぶやいた。
「ねえ白龍。今日はさ、スーパーで食材買ってウチで作らない? 俺、この前紫月さんにすき焼きの作り方教わったんだ」
 比較的簡単に出来て見栄えもする一推し料理だと紫月は言っていた。だから今日は自分が作ってみようと思うのだという。
「すき焼きか。旨そうだな」
 たまには冰の手料理というのもオツだ。二人で食材の買い出しというのも楽しそうだし、何より冰が作ってくれるというなら周にとっても醍醐味だ。
「じゃあちょっくら買い出しに行くとするか」
 汐留のツインタワーの地下にはレストラン街と共にスーパーも入っているのでちょうどいい。
「ここの階下したで買ってもいいが、銀座あたりの百貨店の地下食でも見に行くか?」
 銀座までなら車でもすぐだし、電車でも二駅ほどだ。
「そうだねえ。わざわざ車を出すのも大変だし、停めるところも探さなきゃだから電車で行く?」
「構わんぞ」
 どうせ二人分だ。大した荷物にもならないしということで、電車で行くことに決めた。
「ね、白龍。すき焼き出来たら真田さんもお誘いしてもいい? 作る前だったらお気を遣わせちゃうといけないけど、出来た後でならダイニングに食べに来てもらうだけだしさ」
 真田は休日でも何かにつけて邸の用事をしてくれていることが多い。私用で出掛けることなど滅多にないし、夕飯を一緒にというくらいなら手を煩わせることもないだろうと言う。周にとっては冰がそんなふうに考えてくれることがたいそう嬉しかった。
「ああ、声を掛ければ真田も喜んでくれるだろう」
 周はその気持ちが有り難いといったように、「すまねえな」と瞳を細めながら、冰の頭をクシャクシャっと撫でた。
 ところが――だ。部屋を出ようとしていたところで紫月から電話が入り、これからちょっと寄ってもいいかと言ってきた。
「白龍、紫月さんから! 今、新幹線の中なんだって! 鐘崎さんのお仕事で日帰りで京都に行ってたらしいんだ。今さっき京都駅を出たところだそうだけど、お土産持って寄ってくれるって」
 周はすぐに電話を代わると、
「一之宮か。俺たちも今からちょうど買い物に出るところだったんだ。ちょうどいい、東京駅まで迎えに行くから八重洲の南口で待っとけ」
 そんなわけで急遽電車ではなく車で迎えに行くことになったのだった。
 今日は休日だから運転手の宋も休みだ。言えば宋は喜んで車を出してくれるだろうが、せっかくの休日にそれでは申し訳ないと、周が自ら運転していくことになった。
「わ! やった! 白龍の助手席に乗れるー!」
 冰はワクワク顔で満面の笑みを見せている。
「ねえ白龍、せっかくだから紫月さんたちにも一緒にすき焼き食べてってもらおうよ!」
「そうだな。外食でもいいが、ウチで家庭料理ってのもいいだろう。京都を出たばかりならまだ時間はあるな。あいつらが着くまでに食材の買い出しするにはちょうどいいしな」
 どうせ週末の連休で明日も休みだ。晩御飯が済んだら鐘崎らを家まで送りがてら夜のドライブも悪くない。東京駅の隣には百貨店があるし、そこで買えば時間的にもいいだろう。
「どうせすぐに帰って来るんだ。財布だけ持っていけばいい」
「うん!」
 そんな話をしていたら廊下に出たところで真田とばったり鉢合わせた。
「おや、坊っちゃまと冰さん! お出掛けでございますか?」
「ああ、実は――」
 すき焼きを作って真田を招待しようとしていたところ、紫月らから電話が入り、買い出しがてら迎えに行くことになったと告げる。すると真田はたいそう感激の様子で、だったらダイニングで食器の準備などをしておきましょうと瞳を輝かせた。
 結局真田の手を煩わせることになってしまったわけだが、彼にとっては周と冰が手料理で自分を招待してくれるつもりでいたことを聞いて、それが何より嬉しかったようだ。冰にしても、既に真田は家族同然で、夕飯を一緒にできることなどが楽しくてならないようだ。普段から何かにつけて当たり前のように『真田さんも!』と言う。例えばクライアントから手土産のお菓子を貰ったりした際などにも、それを持ち帰ってダイニングで開けば、必ず真田も交えてティータイムをするのが冰の楽しみでもあるようだ。
 周からすれば夫婦二人水入らずというのももちろんだが、親同然の真田のことを冰がこうして慕ったり気に掛けてくれることに心温まる思いでいるのだった。
「よし、じゃあ今夜は皆んなですき焼き大会だ!」
「わーい! 張り切って作らなきゃ!」
 とはいえ、すき焼きだ。具材を切って鍋に入れるだけだから下味さえ間違えなければ美味しくいただけることだろう。
「お二人共、お気をつけて行ってらっしゃいませ。お帰りになるまでに準備をしてお待ちしておりますぞ!」
 白米も炊いておいてくれるという。真田に見送られて、二人は仲良く車で出掛けて行った。



◇    ◇    ◇



 デパ地下の生鮮食料品売り場は賑やかな人出でごった返していたが、そんな中夫婦で買い出しもまた楽しいものだ。
「春菊でしょ、ネギと白滝に焼き豆腐。あとは何だっけ……」
「冰、こいつも入れるんじゃねえか?」
 野菜売り場で周が足をとめてエノキを指差す。
「あ、そうだね! エノキも入れなきゃ! お野菜買ってってサラダも作ろう!」
「あとは肉だな」
「うん! それから卵も買わなきゃー」
 レジを済ませ、周がおおよそ似合わないスーパーの袋を両手に抱えて冰の後をついて歩く。冰も一緒に持つと言ったが、それよりも会計をさせたり買う物を選ばせる方が何かとスムーズなのだ。
「悪いね、白龍にばっかり持ってもらっちゃって」
「構わん。それよりこれで買い忘れはねえか、奥さん?」
 ニヒルな笑みと共にサラリとそんなことを言われて瞬時に頬が染まる。
「う、うん……多分大丈夫。美味しそうなお肉もたくさんありがとね、白龍!」
 えへへと気恥ずかしそうに鼻の頭を掻く。
「――そろそろカネたちが着く頃じゃねえか?」
「あ! ホントだ! もうこんな時間! 新幹線、品川を出たみたい!」
 スマートフォンで列車の進行具合を確かめては大きな瞳をクリクリとさせている。
「急がなきゃ!」
 保冷バックに詰められた肉を受け取り二人で駅へと早足する。
 待ち合わせの南口に着くと、ちょうど人混みの中から紫月らが笑顔で手を振ってこちらへと向かって来るのが見えた。
「紫月さーん! 鐘崎さんも! お帰りなさい。お疲れ様です!」
「冰君! たーだいまぁ! お迎えありがとなぁ!」
 紫月と冰が手を取り合ってはしゃぐ傍らで、
「おい――すげえ荷物だな」
 鐘崎が周の両手いっぱいの袋を見ながら目を丸くしている。
「今日はこれから冰がすき焼きを作るって張り切ってるんだ。おめえらと一緒に食いたいと言ってな」
「マジか! すき焼き! やったな、遼!」
「ああ。すまねえな氷川」
 鐘崎も紫月も大喜びだ。
「この前、紫月さんに作り方教わったじゃないですか。だから今日はそれにしたいって言ってたところへちょうどタイミング良く紫月さんからのお電話受け取って!」
「そっかぁ! サンキュなぁ冰君! んじゃ俺も手伝っちゃる!」
「わぁ! 嬉しいけどお疲れのところすみませんー!」
「ううん全然! 俺なんか新幹線ン中で寝てただけだしさぁ!」
 鐘崎が周の荷物を半分引き受けてくれると共に、冰が手にしていた保冷バックを周が持ってやる。嫁たち二人は京土産の菓子袋を手に早速おしゃべりに花を咲かせている。亭主たちはそんな二人を見守るように後ろをついて歩きながら荷物持ちだ。
 幸せあふれる日常のひと時に、周と鐘崎はチラリと視線を合わせながらクスっと笑む。
 今宵は楽しいすき焼き大会になりそうだ。花曇りの中、宵闇が降り出した初夏の街並みを楽しげに歩く四人であった。

今夜の夕飯は……♡ - FIN -
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