8 / 23
めでたきこと
しおりを挟む
※エピソード「紅椿白椿」に関する番外読み切りです。
それは紫月に白椿の彫り物を入れることが決まった頃のことだ。鐘崎組・長の僚一がふとこんなことを口走った。
「――そういやウチの組紋ってのはまだ無かったな」
「組紋――?」
若頭であり息子でもある鐘崎が不思議顔で父親を見つめる。
「ああ。組を象徴する印のことだ」
事務所には鐘崎家の家紋が飾ってあったものの、組としての紋というのはこれまで特に決めてはいなかったのだ。
「これを機に組紋をこさえるのも悪くねえ。どうだ、お前たちの紅白椿を模って何か作るか」
「親父――」
鐘崎にとっては光栄も光栄、身に有り余る申し出だ。
「けど――いいのか? 俺ァまだ組を背負うだけの魂も備わっちゃいねえ……。親父の気持ちは有り難えが」
「なに、形から入るってのも時にゃ大事だぞ」
目に見える形にすることでより一層覚悟も備わるものだと言って不敵に笑う。結局、僚一の独断で紅白椿を模った組の紋章が作られることに決まったのである。
紋様自体は二人の刺青と同じに図柄を元に僚一と源次郎で決めてくれることとなり、馴染みの職人に頼んで組事務所へと掲げる看板も彫ってもらうことになった。
(組紋か――。こいつぁ……親父の気持ちに恥じねえように、俺もより一層覚悟をもって歩いていかにゃならんな)
鐘崎は早速に紫月の実家を訪れると、そのことを打ち明けた。
当の紫月は彫り物の下彫が始まったところで、その肩には一見痛々しい痕がついていたが、これも亭主と対の覚悟を背負っていく為に避けては通れない貴重な道筋だと言って、清々しい表情を見せてくれる。鐘崎は誠、自分がいかに素晴らしい人々の中で生かされているのかということに感動し、ますます気持ちと覚悟を新たにするのだった。
「なあ紫月――おめえの彫り物が完成したら組員たちにも披露目をせにゃならんだろう? その席で皆に俺たち二人の感謝の気持ちとして何か記念になる物を贈りたいと思うんだが――」
せっかく父の僚一が組紋などという有り余る光栄を授けてくれるということだし、その記念の品にも組紋の入った何かを贈りたいと思うのだと言った。
「そっか――。そうだな、実は俺も披露目の宴の引き出物として皆に配る物を何にすべーと思っててさ。お前に相談しようとしてたトコだったんだ」
紫月もまた記念の品について考えてくれていたようである。
「やっぱさ、飾っておく物もいいけど、普段使いできるモンもいいんじゃねえかって思ってさ」
「普段使いか――。そういや氷川と冰が付けているスマフォのストラップは粋だったな。あれは組紐だろう? うちの組は邸の作りからして純和風だし、俺たちも組紐を使った何かがいいんじゃねえか?」
「お! いいね! 何がいいべ?」
普段使いできるものといったら、やはり持ち歩ける小物類だろうか。しばし夫婦で頭を捻らせていたところへ、彫りを担当してくれている綾乃木が小さな盆を手にやって来た。
「おや、遼二坊。いらしてたんですね。これは失礼」
夫婦水入らずのところをお邪魔するよと言って、綾乃木は手にしていた盆を紫月へと差し出した。
「寝る前にこれを飲んでおいてもらおうと思ってな。化膿止めだ」
「綾さん。うん、さんきゅー!」
盆を受け取って処方された薬を飲み込む。綾乃木が出て行った後で、紫月はふと思い立ったようにして瞳を見開いた。
「遼! これだよ、コレ! 薬入れ――なんて良くね? ほら、時代劇とかに出てくるアレ! 何つったっけ? この紋所がーってヤツ」
「薬入れか。――するってーと、印籠か!」
それならば粋だし紅白椿の組紋も見事に映えるだろう。
「いいな! 素晴らしい案だ! それにしよう」
別段、薬を入れずとも鍵などでもいいし、ただの飾りとして持ち歩いてもらうでもいい。記念品としてもこれ以上ない嫁さんのアイディアに、鐘崎は大喜びしたのだった。
「房の部分は組紐で作ってもらおう。早速デザインのサンプルをもらってくるぜ」
紫月は彫り物の最中だから、鐘崎が馴染みの店に行ってサンプルのカタログをもらってくることになった。
「こいつぁ――ますます精進しねえとな」
二人の父親たちや綾乃木、それに源次郎以下組員たちに友の周と冰。その他、普段世話になっている皆の顔を思い浮かべながら、幸せな想像と共にこれからの覚悟を新たにする――そんな鐘崎と紫月の二人であった。
めでたきこと - FIN -
それは紫月に白椿の彫り物を入れることが決まった頃のことだ。鐘崎組・長の僚一がふとこんなことを口走った。
「――そういやウチの組紋ってのはまだ無かったな」
「組紋――?」
若頭であり息子でもある鐘崎が不思議顔で父親を見つめる。
「ああ。組を象徴する印のことだ」
事務所には鐘崎家の家紋が飾ってあったものの、組としての紋というのはこれまで特に決めてはいなかったのだ。
「これを機に組紋をこさえるのも悪くねえ。どうだ、お前たちの紅白椿を模って何か作るか」
「親父――」
鐘崎にとっては光栄も光栄、身に有り余る申し出だ。
「けど――いいのか? 俺ァまだ組を背負うだけの魂も備わっちゃいねえ……。親父の気持ちは有り難えが」
「なに、形から入るってのも時にゃ大事だぞ」
目に見える形にすることでより一層覚悟も備わるものだと言って不敵に笑う。結局、僚一の独断で紅白椿を模った組の紋章が作られることに決まったのである。
紋様自体は二人の刺青と同じに図柄を元に僚一と源次郎で決めてくれることとなり、馴染みの職人に頼んで組事務所へと掲げる看板も彫ってもらうことになった。
(組紋か――。こいつぁ……親父の気持ちに恥じねえように、俺もより一層覚悟をもって歩いていかにゃならんな)
鐘崎は早速に紫月の実家を訪れると、そのことを打ち明けた。
当の紫月は彫り物の下彫が始まったところで、その肩には一見痛々しい痕がついていたが、これも亭主と対の覚悟を背負っていく為に避けては通れない貴重な道筋だと言って、清々しい表情を見せてくれる。鐘崎は誠、自分がいかに素晴らしい人々の中で生かされているのかということに感動し、ますます気持ちと覚悟を新たにするのだった。
「なあ紫月――おめえの彫り物が完成したら組員たちにも披露目をせにゃならんだろう? その席で皆に俺たち二人の感謝の気持ちとして何か記念になる物を贈りたいと思うんだが――」
せっかく父の僚一が組紋などという有り余る光栄を授けてくれるということだし、その記念の品にも組紋の入った何かを贈りたいと思うのだと言った。
「そっか――。そうだな、実は俺も披露目の宴の引き出物として皆に配る物を何にすべーと思っててさ。お前に相談しようとしてたトコだったんだ」
紫月もまた記念の品について考えてくれていたようである。
「やっぱさ、飾っておく物もいいけど、普段使いできるモンもいいんじゃねえかって思ってさ」
「普段使いか――。そういや氷川と冰が付けているスマフォのストラップは粋だったな。あれは組紐だろう? うちの組は邸の作りからして純和風だし、俺たちも組紐を使った何かがいいんじゃねえか?」
「お! いいね! 何がいいべ?」
普段使いできるものといったら、やはり持ち歩ける小物類だろうか。しばし夫婦で頭を捻らせていたところへ、彫りを担当してくれている綾乃木が小さな盆を手にやって来た。
「おや、遼二坊。いらしてたんですね。これは失礼」
夫婦水入らずのところをお邪魔するよと言って、綾乃木は手にしていた盆を紫月へと差し出した。
「寝る前にこれを飲んでおいてもらおうと思ってな。化膿止めだ」
「綾さん。うん、さんきゅー!」
盆を受け取って処方された薬を飲み込む。綾乃木が出て行った後で、紫月はふと思い立ったようにして瞳を見開いた。
「遼! これだよ、コレ! 薬入れ――なんて良くね? ほら、時代劇とかに出てくるアレ! 何つったっけ? この紋所がーってヤツ」
「薬入れか。――するってーと、印籠か!」
それならば粋だし紅白椿の組紋も見事に映えるだろう。
「いいな! 素晴らしい案だ! それにしよう」
別段、薬を入れずとも鍵などでもいいし、ただの飾りとして持ち歩いてもらうでもいい。記念品としてもこれ以上ない嫁さんのアイディアに、鐘崎は大喜びしたのだった。
「房の部分は組紐で作ってもらおう。早速デザインのサンプルをもらってくるぜ」
紫月は彫り物の最中だから、鐘崎が馴染みの店に行ってサンプルのカタログをもらってくることになった。
「こいつぁ――ますます精進しねえとな」
二人の父親たちや綾乃木、それに源次郎以下組員たちに友の周と冰。その他、普段世話になっている皆の顔を思い浮かべながら、幸せな想像と共にこれからの覚悟を新たにする――そんな鐘崎と紫月の二人であった。
めでたきこと - FIN -
14
あなたにおすすめの小説
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
最強βの俺が偽装Ωになったら、フェロモン無効なのに狂犬王子に求愛されました~前世武道家なので物理で分からせます~
水凪しおん
BL
前世は日本の武道家、今世は平民β(ベータ)のルッツ。
「Ωだって強い」ことを証明するため、性別を偽り「Ω」として騎士団へ入団した彼は、その卓越した身体能力と前世の武術で周囲を圧倒する。
しかし、その強さと堂々とした態度が仇となり、最強のα(アルファ)である第一王子・イグニスの目に止まってしまった!
「お前こそ俺の運命の番だ」
βだからフェロモンなんて効かないのに、なぜかイグニスの熱烈な求愛(物理)攻撃を受ける日々に突入!?
勘違いから始まる、武闘派β×最強王子のドタバタ王宮BLファンタジー!
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
【8話完結】帰ってきた勇者様が褒美に私を所望している件について。
キノア9g
BL
異世界召喚されたのは、
ブラック企業で心身ボロボロになった陰キャ勇者。
国王が用意した褒美は、金、地位、そして姫との結婚――
だが、彼が望んだのは「何の能力もない第三王子」だった。
顔だけ王子と蔑まれ、周囲から期待されなかったリュシアン。
過労で倒れた勇者に、ただ優しく手を伸ばしただけの彼は、
気づかぬうちに勇者の心を奪っていた。
「それでも俺は、あなたがいいんです」
だけど――勇者は彼を「姫」だと誤解していた。
切なさとすれ違い、
それでも惹かれ合う二人の、
優しくて不器用な恋の物語。
全8話。
婚約破棄された令息の華麗なる逆転劇 ~偽りの番に捨てられたΩは、氷血公爵に愛される~
なの
BL
希少な治癒能力と、大地に生命を呼び戻す「恵みの魔法」を持つ公爵家のΩ令息、エリアス・フォン・ラティス。
傾きかけた家を救うため、彼は大国アルビオンの第二王子、ジークフリート殿下(α)との「政略的な番契約」を受け入れた。
家のため、領民のため、そして――
少しでも自分を必要としてくれる人がいるのなら、それでいいと信じて。
だが、運命の番だと信じていた相手は、彼の想いを最初から踏みにじっていた。
「Ωの魔力さえ手に入れば、あんな奴はもう要らない」
その冷たい声が、彼の世界を壊した。
すべてを失い、偽りの罪を着せられ追放されたエリアスがたどり着いたのは、隣国ルミナスの地。
そこで出会ったのは、「氷血公爵」と呼ばれる孤高のα、アレクシス・ヴァン・レイヴンだった。
人を寄せつけないほど冷ややかな瞳の奥に、誰よりも深い孤独を抱えた男。
アレクシスは、心に傷を抱えながらも懸命に生きようとするエリアスに惹かれ、次第にその凍てついた心を溶かしていく。
失われた誇りを取り戻すため、そして真実の愛を掴むため。
今、令息の華麗なる逆転劇が始まる。
血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】
まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる