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歪んだ恋情が誘う罠
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「やっと手に入った……。この時をどんなに待ち望んだことか、あなたには僕のこの気持ちが分かっていただけますか?」
ベッドの上で軽い寝息を立てている男の逞しく張った肩を指でなぞる。糊の効いた真っ白なシャツのボタンをひとつ、ふたつと震える手で外せば、そこには見事なほどの紅椿の紋様が現れた。
「紅椿……? 刺青――か。なんて綺麗な……! まさにあなたにこそ似合いだ」
恐る恐るその素肌をなぞれば、ズクズクと身体の芯が熱を持ち始める。次第に疼き出す陶酔にも似た感覚に、深く息を吸い込んだ。
「待っていたんだ……。あなたとこうする日をずっと。初めてあなたを見た五年前のあの時からずっと――僕はあなたのことだけを考え、あなたのことだけを想って生きてきたんです。鐘崎……いえ、遼二さん……!」
自らもシャツを脱ぎ、床へと放る。ジッパーを下ろし、生まれたままの姿になって逞しい肢体を見下ろせば、ただもうそれだけで自身の雄はこれ以上ないくらいに興奮して天を仰いでいた。
◆ ◆ ◆
彼、鐘崎遼二との出会いは五年前――修業後に勤めた宝飾店がきっかけだった。単なる顧客というよりも、店にとって鐘崎は取引相手と言うべき存在だった。
鐘崎は友人との共同経営で中国の山深い場所に鉱山を所有しているらしく、店ではそこで掘り出した原石の加工から流通までのすべてを請け負っていた。
宝飾店自体が鐘崎の父親の息が掛かった特殊な店だと知ったのは、入社して一年以上が過ぎた頃だったろうか。店舗は銀座の端にあり、規模としてはごく小さなものだった。一般客への販売ももちろんのこと行われていたが、近隣にある同業他社と比べれば足元にも及ばない印象の、本当にこじんまりとした店だった。本社は丸の内にあったが、入社後の一年程は店舗勤めだった為に殆ど顔を出す機会はなかったといえる。
そんなおり、これまで長らく勤めてきた老年の社員が健康を理由に退社することとなった。そこで代わりに抜擢され、店舗勤務から丸の内の本社へと移った際に、自社の本当の顔を知ることとなったのだ。蓋を開けてみれば、業界内ではパッとしない弱小の宝飾店だと思っていたことが、実は隠れ蓑だということに気付かされる羽目となった。
経営者はいわゆる雇われ社長で、その裏には中国南部に鉱山を持つ香港裏社会を仕切るマフィア・周一族と日本の極道といわれている鐘崎組が経営のすべてを仕切っていると知って腰が抜けるほどに驚いたものだ。
当然、それを知った時には退社を考えた。マフィアや極道が関わっている会社など冗談じゃないと怯えもした。そんな考えが一気に吹っ飛んだのは、打ち合わせで度々本社を訪れる鐘崎組の若頭を見た時だ。
それが鐘崎遼二との出会いであった。
ベッドの上で軽い寝息を立てている男の逞しく張った肩を指でなぞる。糊の効いた真っ白なシャツのボタンをひとつ、ふたつと震える手で外せば、そこには見事なほどの紅椿の紋様が現れた。
「紅椿……? 刺青――か。なんて綺麗な……! まさにあなたにこそ似合いだ」
恐る恐るその素肌をなぞれば、ズクズクと身体の芯が熱を持ち始める。次第に疼き出す陶酔にも似た感覚に、深く息を吸い込んだ。
「待っていたんだ……。あなたとこうする日をずっと。初めてあなたを見た五年前のあの時からずっと――僕はあなたのことだけを考え、あなたのことだけを想って生きてきたんです。鐘崎……いえ、遼二さん……!」
自らもシャツを脱ぎ、床へと放る。ジッパーを下ろし、生まれたままの姿になって逞しい肢体を見下ろせば、ただもうそれだけで自身の雄はこれ以上ないくらいに興奮して天を仰いでいた。
◆ ◆ ◆
彼、鐘崎遼二との出会いは五年前――修業後に勤めた宝飾店がきっかけだった。単なる顧客というよりも、店にとって鐘崎は取引相手と言うべき存在だった。
鐘崎は友人との共同経営で中国の山深い場所に鉱山を所有しているらしく、店ではそこで掘り出した原石の加工から流通までのすべてを請け負っていた。
宝飾店自体が鐘崎の父親の息が掛かった特殊な店だと知ったのは、入社して一年以上が過ぎた頃だったろうか。店舗は銀座の端にあり、規模としてはごく小さなものだった。一般客への販売ももちろんのこと行われていたが、近隣にある同業他社と比べれば足元にも及ばない印象の、本当にこじんまりとした店だった。本社は丸の内にあったが、入社後の一年程は店舗勤めだった為に殆ど顔を出す機会はなかったといえる。
そんなおり、これまで長らく勤めてきた老年の社員が健康を理由に退社することとなった。そこで代わりに抜擢され、店舗勤務から丸の内の本社へと移った際に、自社の本当の顔を知ることとなったのだ。蓋を開けてみれば、業界内ではパッとしない弱小の宝飾店だと思っていたことが、実は隠れ蓑だということに気付かされる羽目となった。
経営者はいわゆる雇われ社長で、その裏には中国南部に鉱山を持つ香港裏社会を仕切るマフィア・周一族と日本の極道といわれている鐘崎組が経営のすべてを仕切っていると知って腰が抜けるほどに驚いたものだ。
当然、それを知った時には退社を考えた。マフィアや極道が関わっている会社など冗談じゃないと怯えもした。そんな考えが一気に吹っ飛んだのは、打ち合わせで度々本社を訪れる鐘崎組の若頭を見た時だ。
それが鐘崎遼二との出会いであった。
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