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歪んだ恋情が誘う罠
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「なあ、戸江田さん。正直に聞かせてよ。あんた、遼二のことが好きなんだろ?」
「…………いえ」
「別に怒っちゃいねえ。人を好きになるってのは自然な感情だ。それをとやかく言おうとは思わねえさ。ただ――あんたのやり方には賛成できねえわな。こんなふうに汚え手を使って陥れるほど好きで好きで堪んねえなら、その気持ちを素直にぶつけりゃいいじゃねえか。そうすりゃ遼も俺も真正面から向き合うさ」
「向き……合うだって? じゃあ、あんたは……僕が鐘崎さんに好きですって打ち明けたら身を引いてくれるってわけですかッ!? あの人を僕に譲ってくれるって言うんですかッ!? そんなわけないでしょう! 自分はあの人に愛されてるからって……勝ち誇ったようなこと言わないでくださいよ! あの人に出会ってから……何年もの間、僕がどんなに苦しい思いでいたかなんて……あんたなんかに分かるわけない!」
開き直ったように戸江田は絶叫し、ボロボロと涙した。つまり、想いは本物だったというわけだろう。
「勝ち誇る気なんてねえさ。それにな、あんたが遼を好きだから――そうですか、はい、じゃあどうぞって素直に譲る気もねえ」
ほら、やっぱり――! 所詮は綺麗事ばかりだろう――と、戸江田は涙目で紫月を睨みつけた。
「だが、あんたが心から打ち明けてくれた気持ちなら、それを蔑んだり笑ったりはしねえ。だからといってあんたの気持ちを受け入れるってこととは違うけどな。想ってくれる気持ちを真摯に受け止めて、けど俺たちにはあんた以外に真剣に想う相手がいるんだってことを伝える。気持ちを受け入れて恋人や夫婦にはなれないが、これからもいいダチでいることはできねえだろうかって、そう伝える。あんたに納得してもらえるまで一生懸命伝える。そんでもって、いつかあんたにも心から想い合える相手と巡り会うことを願う。向き合うってのはそういう意味だ。何でもかんでもあんたの望み通りにするっていう意味じゃねえ。できることとできないこと、てめえの″ここ″にあるそのまんまの偽りねえ気持ちで真剣に向き合うってことだ」
トン――と自らの心臓を指差しながら紫月は大きく澄んだ瞳で戸江田を見つめた。
「そうすりゃあんたは必ず解ってくれる。俺はそう信じるよ」
その瞳が真っ直ぐ過ぎるほど真っ直ぐで、澄み切った視線は確かに彼の心にあるそのままの――嘘偽りのない正直な気持ちなのだろう。それが理解できたからなのか、戸江田の双眸からは大粒の涙が滝のようにこぼれて落ちた。
最初から分かっていたことだ。鐘崎の伴侶だというこの男は、一目で敵わないと思えるほどに綺麗だった。羨ましいを通り越して妬ましい、憎らしいほどに男前で美しかった。だがまさか――心根までもがその美貌に釣り合うほど美しいとは思わなかった。
生まれ持っただけで何の努力も苦労も必要とせず、整いすぎているといえるその容姿を鼻に掛け、高飛車で、自分よりも劣る人間すべてを小馬鹿にするような輩と思い込んで疑わなかった。そんなヤツからあの鐘崎をもぎ取ってやりたいとも思っていた。例えどんなに汚い手を使っても、この美しい男の鼻っ柱をへし折ってやれれば勝ちだとも思っていた。
「そんなことを考えていた時点で……僕はあなたの足元にも及ばない……クズだったんですね。あんたが……もっと嫌なヤツだったら良かったの……に……」
言葉にならないまま泣き崩れる戸江田を、しばし黙って見つめながら、紫月はそっと手を伸ばして差し出した。
「…………いえ」
「別に怒っちゃいねえ。人を好きになるってのは自然な感情だ。それをとやかく言おうとは思わねえさ。ただ――あんたのやり方には賛成できねえわな。こんなふうに汚え手を使って陥れるほど好きで好きで堪んねえなら、その気持ちを素直にぶつけりゃいいじゃねえか。そうすりゃ遼も俺も真正面から向き合うさ」
「向き……合うだって? じゃあ、あんたは……僕が鐘崎さんに好きですって打ち明けたら身を引いてくれるってわけですかッ!? あの人を僕に譲ってくれるって言うんですかッ!? そんなわけないでしょう! 自分はあの人に愛されてるからって……勝ち誇ったようなこと言わないでくださいよ! あの人に出会ってから……何年もの間、僕がどんなに苦しい思いでいたかなんて……あんたなんかに分かるわけない!」
開き直ったように戸江田は絶叫し、ボロボロと涙した。つまり、想いは本物だったというわけだろう。
「勝ち誇る気なんてねえさ。それにな、あんたが遼を好きだから――そうですか、はい、じゃあどうぞって素直に譲る気もねえ」
ほら、やっぱり――! 所詮は綺麗事ばかりだろう――と、戸江田は涙目で紫月を睨みつけた。
「だが、あんたが心から打ち明けてくれた気持ちなら、それを蔑んだり笑ったりはしねえ。だからといってあんたの気持ちを受け入れるってこととは違うけどな。想ってくれる気持ちを真摯に受け止めて、けど俺たちにはあんた以外に真剣に想う相手がいるんだってことを伝える。気持ちを受け入れて恋人や夫婦にはなれないが、これからもいいダチでいることはできねえだろうかって、そう伝える。あんたに納得してもらえるまで一生懸命伝える。そんでもって、いつかあんたにも心から想い合える相手と巡り会うことを願う。向き合うってのはそういう意味だ。何でもかんでもあんたの望み通りにするっていう意味じゃねえ。できることとできないこと、てめえの″ここ″にあるそのまんまの偽りねえ気持ちで真剣に向き合うってことだ」
トン――と自らの心臓を指差しながら紫月は大きく澄んだ瞳で戸江田を見つめた。
「そうすりゃあんたは必ず解ってくれる。俺はそう信じるよ」
その瞳が真っ直ぐ過ぎるほど真っ直ぐで、澄み切った視線は確かに彼の心にあるそのままの――嘘偽りのない正直な気持ちなのだろう。それが理解できたからなのか、戸江田の双眸からは大粒の涙が滝のようにこぼれて落ちた。
最初から分かっていたことだ。鐘崎の伴侶だというこの男は、一目で敵わないと思えるほどに綺麗だった。羨ましいを通り越して妬ましい、憎らしいほどに男前で美しかった。だがまさか――心根までもがその美貌に釣り合うほど美しいとは思わなかった。
生まれ持っただけで何の努力も苦労も必要とせず、整いすぎているといえるその容姿を鼻に掛け、高飛車で、自分よりも劣る人間すべてを小馬鹿にするような輩と思い込んで疑わなかった。そんなヤツからあの鐘崎をもぎ取ってやりたいとも思っていた。例えどんなに汚い手を使っても、この美しい男の鼻っ柱をへし折ってやれれば勝ちだとも思っていた。
「そんなことを考えていた時点で……僕はあなたの足元にも及ばない……クズだったんですね。あんたが……もっと嫌なヤツだったら良かったの……に……」
言葉にならないまま泣き崩れる戸江田を、しばし黙って見つめながら、紫月はそっと手を伸ばして差し出した。
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