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「なるほど、震度とかの情報が載ってますね。つまりこの通信障害の原因はやっぱり地震だったというわけですか」

なるほどとうなずきながらも、それはさすがにわかっていたと内心思っている寺山。
地震ならば通信が途絶することなんてざらにある。
程度の差こそあれ今更驚くことではない。
だが岩本はもっと重要なことを口にした。

「ええ、そうです。もちろんこの事態は地震の発生直後に確認されていますので、地震が原因であると推測していろいろ調べていました。そこで問題なのが、今回の地震の異常性です」
「異常性?」
「はい、具体的にはそちらの資料にまとめてありますが、かいつまんで説明します」

岩本は寺山から資料を受け取り、それを読みながら説明を始めた。

「まずさきほどの地震は今日の午前11時47分に発生しました。これはさっき話しましたよね?」
「ええ、聞きましたし、私も実際に揺れを感じました」
「この地震の震度、どのくらいかわかりますか?」
「震度…ですか…」

自ら経験した揺れとはいえ、具体的な震度を意識していなかったため寺山は返答に詰まる。

「3とか4とかじゃないですか?」
「なるほど。一応島根県庁に設置してある地震計の観測結果によると震度は4となっていました。このことから松江においては震度4の地震に見舞われたと考えられます。そしてここからが問題なのですが…」

そういいながら岩本は資料をめくる。
その時の彼のよどんだ口調に寺山は違和感を覚えながらも、しっかりと話を受け止めようとした。
すると彼の口から奇妙なことが伝えられた。

「実は、島根中の多くの場所で同様の観測結果が出ているんです」
「同様の、とはつまりどういうことですか?」
「はい、今現在島根には71か所の地震観測点があるのですが、そのどれもがほとんど同じ結果、震度3から4を観測しているのです」
「え!?それってつまり…」
「はい、文字通り島根中で、ほぼ同じ揺れ方をしているということになります」

島根中でほぼ同じ震度の揺れを観測していたという話、寺山にはにわかに信じられなかった。
さすがに嘘なのではないかと岩本の顔を見るも、うそをついている様子の見られない彼の顔にそれが現実なのだと思い知らされる。

「それじゃあ松江も出雲も、益田も全部震度3とか4ってことですか?」
「この結果を見るとそういうことになりますね」
「地震って普通震源地から離れれば震度は下がるのでは?」
「はい、確かにそうなのですが、今回の場合はそうはなっていません。それどころか震源地の特定すらいまだにできていないのです」
「え!?」

本来地質などに左右されるとはいえ、同心円状に広がりつつ震度が下がる地震。
にもかかわらず島根の端と端、100キロ近く離れている場所でもほとんど震度に変化がないという結果に、違和感を通り越した何かを感じ始める寺山。
知事として地震などの防災についても学んでいたからこそ、より今回の件がただならぬということを理解した。

「一応計器の故障などの可能性も調べてみましたが、どの観測点でも機器は正常なようです。通信が不調な状況にもかかわらず、最優先でわざわざ情報を送ってきてくれたこともあり、その点は信用できます」
「そうですか…」

震度こそそこまでではないものの、島根全体で距離によって減衰しない謎の地震が起き、その直後に通信が途絶。
地震といい、通信障害といい、妙な現象が立て続けに起こると人は自然にそれを疑ってしまう。
それは二人に限らず、多くの職員の間でも同じだった。

「正直情報が少ないのでまだ確定的なことは言えませんが、現在地震と通信障害の双方について関係があるだろうとして調べている最中です。そこでなのですが、ほかの部署とも情報を共有するなどの連携をしたいので、ぜひ寺山知事にそういった権限を認めていただきたいのです」
「わかりました。島根全体で連携できるようにしましょう」
「ありがとうございます」

まだ問題の解決には至っていないものの、部署を越えて連携すればその糸口が見つかると信じる寺山。
災害時に緊急で立ち上げる災害対策本部の設置などの対応を急がねばと考え、引き続き岩本と話を続ける。
だがそんな彼らの話を遮るように、防災危機管理課の扉が開かれた。

「た、大変です!!」

部屋中に響く大声に、一同が注目する。
彼らの視線の先には急いで走ってきたのか、息も絶え絶えな職員の姿があった。
そしてその職員は、荒い呼吸を静めようとしながらゆっくりと口を開く。

「鳥取が…鳥取がなくなりました!!」
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