16 / 25
16
しおりを挟む
「これは…どうなっているんだ!?」
誰かが思わずつぶやいた。
県境を挟んで隔絶された世界。
それまで続いていた何もかも、その先にはなかった。
あたかも最初から何もなかったかのように道路は寸断され跡形もない。
瓦礫も、割れたアスファルトすら存在しない。
先ほど土砂崩れによって破壊されたと聞いていた寺山達だったが、とてもそうは思えなかった。
土砂が流れ込んだような跡も見られないし、それによって木がなぎ倒された様子もない。
生い茂る木々はしっかりと根を地面に張って、あたかも最初からそこにあったかのようにふるまっていた。
地を這う草と空を覆う木の葉の間を抜けて、遠くからは聞いたこともない動物の鳴き声が響いてくる。
つい昨日までそこにあった風景の変わりように誰も理解が追い付かない。
「これはいったい何が起こってるんですか?」
寺山が田中にそう聞いた。
だが彼の頭の中にも同じ問いが浮かぶ。
そして少しの沈黙が流れたのち田中は口を開いた。
「…わかりません。いえ、一応土砂災害だということなのですが…。こんなものは見たことありません」
「そう、ですよね…」
一目見るだけでわかる、土砂災害とは無縁ののどかな森。
どう考えてもそんなものが原因なわけがなかった。
だがそうだとしたらなぜこのようなことが起こっているのか、だれも説明がつかない。
それはここでずっと作業している自衛官たちも同じだった。
実際に現場に来てみてようやく、最初に田中にあったとき言い淀んでいた理由がわかった寺山。
形容しがたい惨状、それこそ天変地異というべきであろう事象に遭遇し思わず動揺を隠せない。
いくら災害の多い日本とは言えこのような例は過去に見たことがなかった寺山は、田中に現在の状況を尋ねた。
「地震発生直後からこの場に駆けつけたと聞きましたが、現在どこまで調査が進んでいるんですか?」
「えー、そうですね…。まずこのような事態が発生したのは今日の昼前に発生した地震直後と考えています。車で近くを通行していた目撃者が、地震発生とほぼ同時にあたり一面が霧で覆われたという証言をしているそうです」
「霧?」
「霧…と聞いています。何人か目撃した人がいたようですが、突如として霧、もしくは砂嵐のようなものが発生したとのことです」
霧、という言葉に少し引っかかる寺山。
島根は海と山に挟まれた地形をしているため、秋から冬にかけてたびたび霧が発生する。
だがそれは多くが夜間から早朝にかけてであり、晴天の真昼間になるころにはたいてい晴れている。
ましてや今日は霧になるなどの予報はまったくない。
そんな中でいきなり霧が発生するというのはありえない状況だった。
「土砂災害、というのであれば、流れ込んだ土砂のせいで視界が奪われるということもあり得そうですが、砂嵐というのはそういうことですか?」
「ええ、おそらくそうだと思います。私たちもそう思っているのですが…」
「…土砂災害には見えない、のではないですか?」
「…ええ、まあ、そうですね…」
寺山は皆がうすうす感じているであろうことを問う。
地震によって土砂崩れが起きたとしか考えられないような大規模な地形の変化にもかかわらず、とても土砂が流れたとは思えないような森林がそこにはあった。
本当に土砂災害が原因なのか。
寺山には、この誰も説明のつかない事態のとりあえずの解釈として土砂災害を持ち出しているようにしか思えなかった。
誰かが思わずつぶやいた。
県境を挟んで隔絶された世界。
それまで続いていた何もかも、その先にはなかった。
あたかも最初から何もなかったかのように道路は寸断され跡形もない。
瓦礫も、割れたアスファルトすら存在しない。
先ほど土砂崩れによって破壊されたと聞いていた寺山達だったが、とてもそうは思えなかった。
土砂が流れ込んだような跡も見られないし、それによって木がなぎ倒された様子もない。
生い茂る木々はしっかりと根を地面に張って、あたかも最初からそこにあったかのようにふるまっていた。
地を這う草と空を覆う木の葉の間を抜けて、遠くからは聞いたこともない動物の鳴き声が響いてくる。
つい昨日までそこにあった風景の変わりように誰も理解が追い付かない。
「これはいったい何が起こってるんですか?」
寺山が田中にそう聞いた。
だが彼の頭の中にも同じ問いが浮かぶ。
そして少しの沈黙が流れたのち田中は口を開いた。
「…わかりません。いえ、一応土砂災害だということなのですが…。こんなものは見たことありません」
「そう、ですよね…」
一目見るだけでわかる、土砂災害とは無縁ののどかな森。
どう考えてもそんなものが原因なわけがなかった。
だがそうだとしたらなぜこのようなことが起こっているのか、だれも説明がつかない。
それはここでずっと作業している自衛官たちも同じだった。
実際に現場に来てみてようやく、最初に田中にあったとき言い淀んでいた理由がわかった寺山。
形容しがたい惨状、それこそ天変地異というべきであろう事象に遭遇し思わず動揺を隠せない。
いくら災害の多い日本とは言えこのような例は過去に見たことがなかった寺山は、田中に現在の状況を尋ねた。
「地震発生直後からこの場に駆けつけたと聞きましたが、現在どこまで調査が進んでいるんですか?」
「えー、そうですね…。まずこのような事態が発生したのは今日の昼前に発生した地震直後と考えています。車で近くを通行していた目撃者が、地震発生とほぼ同時にあたり一面が霧で覆われたという証言をしているそうです」
「霧?」
「霧…と聞いています。何人か目撃した人がいたようですが、突如として霧、もしくは砂嵐のようなものが発生したとのことです」
霧、という言葉に少し引っかかる寺山。
島根は海と山に挟まれた地形をしているため、秋から冬にかけてたびたび霧が発生する。
だがそれは多くが夜間から早朝にかけてであり、晴天の真昼間になるころにはたいてい晴れている。
ましてや今日は霧になるなどの予報はまったくない。
そんな中でいきなり霧が発生するというのはありえない状況だった。
「土砂災害、というのであれば、流れ込んだ土砂のせいで視界が奪われるということもあり得そうですが、砂嵐というのはそういうことですか?」
「ええ、おそらくそうだと思います。私たちもそう思っているのですが…」
「…土砂災害には見えない、のではないですか?」
「…ええ、まあ、そうですね…」
寺山は皆がうすうす感じているであろうことを問う。
地震によって土砂崩れが起きたとしか考えられないような大規模な地形の変化にもかかわらず、とても土砂が流れたとは思えないような森林がそこにはあった。
本当に土砂災害が原因なのか。
寺山には、この誰も説明のつかない事態のとりあえずの解釈として土砂災害を持ち出しているようにしか思えなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~
専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。
ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる