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「いったいどういうことですか!?」

議事堂の中に大きな声が響き渡る。
その声の主は明らかにいらだちを見せながら、壇上にいる寺山を問い詰めた。
だが寺山はそんな男の態度とは裏腹に落ち着いて答える。

「ですからここに書いてある通りに…」

プロジェクターでスクリーンに映し出された資料を指しながら説明する寺山。
数々の文章と写真によって証拠が示される一方、やはりその男は納得いかない表情を浮かべる。
いや、その男だけではない。
部屋にいたほとんどの人が寺山の話を信じられずに疑念を抱いていた。
しかしそれも当然のことだろう。
突然県境の向こう側の鳥取が別世界に変わったといわれても、素直に理解してくれる人はほとんどいない。

例の地震の後、寺山達が鳥取との県境まで現場を視察しに行った帰り際に、自衛官たちは重要な情報をUSBメモリにまとめて渡してくれていた。
県外よりはましだったが県内の通信も不安定な状況下だったため画像などの送信は困難だったが、これによって画像のみならず動画でも現状を伝えることができるようになった。

そうしてこの場に集まっている議員に鳥取で今何が起きているかを説明する。
当初は信じない人、怪しむ人、疑う人のオンパレードだったが、知事や現場にいった職員たちの力説の甲斐もあり少しずつだが理解されるようになってきた。
ほかの議員たちの協力を得るには何としても現状を把握してもらうことが重要である。
その第一段階はぎりぎり突破した。
だがそれによって問題が解決したわけではない。

「なぜこのようなことが起きたのか原因はわかっているのですか?」
「県境付近の地形変動はどの程度の規模で起きているのでしょうか?」
「食料や燃料輸送にどのような影響がでるのですか?」
「事態の対処のために知事はどのような判断をするのですか?」

あちこちから飛んでくる質問。
それらに一つ一つ寺山は答えていった。

「なぜこのようなことが起こったのか、どの程度の規模で起きているのかなどは現在調査中です。食料や燃料に関しても現状外部との接触が出来ないため輸送することは困難ですが、現在通信設備などの復旧に力を入れており早期の解決を目指しております」

「調査は現在どの程度進んでいるのですか?」
「輸送が困難な状況で食料などの備蓄はどの程度もつのですか?」
「通信設備の復旧といいますが、本当に復旧すれば外部と連絡が取れるのですか?」

一つ答えれば三つの質問が飛んでくるといわんばかりの応酬が繰り広げられる。
知事として説明する責任はあるものの、正直寺山自身限られた情報しか持っていない。
どんなに問いただされても答えられる内容は限られてしまう。
そんな中なるべく嘘が混じらないように当たり障りなく答えれば、議員からはちゃんと説明しろとヤジが飛ぶ始末。
彼自身どう答えればいいかわからなかった。
だがそれでも何とかこたえようと奮闘する寺山の姿がそこにあった。



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