日本一無名な島根が異世界に行ったら世界一有名になった話

マキナ

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もちろん寺山だけではない。
さすがに事態が事態なだけあって議員同士でも活発な議論が繰り広げられる。
普段あまり積極的に発言しない議員たちもその中に自らの質疑を織り交ぜていった。

『県境における災害発生地において、その内部における調査はどの程度進んでいますか?また今後どの程度進めるつもりでしょうか?』
「明日以降は警察も現地に動員して負傷者などの捜索も含め、全容の解明に努めます」
『現状起きていることをどこまで県民に伝える予定ですか?またどのように伝えるべきだとお考えでしょうか?』
「何をどう伝えるかに関してはこれから考えていく次第であります」
『どこまでって、包み隠さずすべて伝えるべきではないかね?』
『しかし下手に情報を流すとパニックを誘発する恐れが…』
『だったら県民に嘘をつけというのか?』
『いえ、そういうわけでは…』
『そもそも包み隠せるほどの我々も情報を得てませんよね…』

あちこちで白熱する議論につい口調が粗くなってしまう人もちらほら。
こんな状況だからこそ焦る気持ちもあるとはいえ、明らかに皆殺気立っていた。

島根を代表する37名の県議員たちによる会議。
県境で起きていることは何なのか、地震が原因なのか、通信障害はなぜ起きているのかなどをはじめ、それらの解決方法を模索するべく多くの意見が飛び交った。
県民に選ばれた代表者たる彼らなのだから、さぞ名案が出てくるだろうと誰もが思った。
だがそんな彼らの期待とは裏腹に、事態は混迷を極める。

情報の不足や不可解な事象、今までに経験のない状況に対して解決策がすぐに出るほうがおかしいのかもしれない。
しかしそれでも何らかの前進がみられると思っていた人達にとっては、失望に値する結果となってしまった。
いろいろな案が出てくるもののすぐに状況を改善できるわけでもなく、『さらなる調査が必要』というありきたりの結論に至ってしまう。
堂々巡りを繰り返すばかりの会議に辟易するひとも現れていく。

悪い意味で会議落ち着いていくそんなさなか、会議室の扉をたたく音が聞こえた。
その音は室内の話し声にかき消されつつも扉近くに座っている議員が気づいて振り向く。
そして振り向いた議員に気付いたほかの議員がその方向を向く、という風に一同の視線が扉に集中する。
するとおもむろに扉が開き、職員が顔をのぞかせた。
会議室の嫌な雰囲気を感じたのか皆の視線が集中しているのが気まずいのか、おそるおそる部屋に入ってきた職員がゆっくりと議長のもとに歩み寄っていく。
そしてポケットからUSBメモリを取り出して手渡した。

「これは?」
「えー、それは、津和野町と益田市からの災害状況の報告です。地震の直後に起きた出来事についてまとめてあります。知事含め議員たちに状況を伝えるとともに、適切な指示をいただきたいとのことです」
「…わかった。ありがとう」

津和野と益田。
県西部の地域から災害の報告があると聞き議長は少しばかり顔をしかめる。
鳥取で起きてる事態の対処ですらこのありさまなのにどうすればいいのかと彼は思ったが、ひとまず内容を見てからでないと判断できない。
職員に礼を言うとともにUSBを受け取った。

県西部からどんな情報が届いたのか、いろんな憶測が飛びかうなか、USBに収められた資料がスクリーンに映し出される。
主に文章と写真で構成されたその資料。
皆どこかで見覚えのあるようなものだった。
途切れた道路に焼失した建物、そして生い茂る森。
一同は言葉を失った。


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