日本一無名な島根が異世界に行ったら世界一有名になった話

マキナ

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「…これは、鳥取で起きてることではないのか?」
「いや、益田って言ってたからおそらく…」

部屋中のあちこちでざわめきが増していく。
それもそのはず、映し出だされた映像はたった今彼らが話し合っていた内容と酷似していたからだ。
道路や看板、隅に映る建物など一部違う点はあるものの、その奥に佇む森は鳥取のものと瓜二つといってよい。
さらに資料はその現象が一か所だけではなく複数の場所で起きていることを示していた。
少なくとも益田、津和野、吉賀の山口との県境において同様の事象が発生しているとの情報に、一同は開いた口がふさがらなかった。

通信障害に加え鳥取方面の対処ですら議論が紛糾している状態で、さらなる追い打ちをかけられたといっても過言ではない。
それに加え、資料の締めくくりに『広島県境でも同様の事態が起こっている恐れあり』との文言。
もしそれが事実なら状況はますます絶望的なものとなる。
寺山を含めほとんどの議員たちは言葉を失い、その顔は青ざめていった。

もともと一部のうわさとして、県西部で大規模な災害が起きている、などの話は出回っていた。
それを耳にしていた人々もいた。
だがその時はあくまで噂。
質の悪い冗談として誰も取り合わなかったのだ。

しかし事情は変わった。
県西部の自治体から正式にこのような報告がある以上それらを看過することはできない。
鳥取で起きていることと同じといえばそれまでかもしれないが、事態が深刻化しているというのもまた事実だろう。
ものの数時間で噂の真相が明らかになってしまった。
そして信じたくもない現実を目の当たりにして、皆はすっかり意気消沈してしまっている。

大勢はうつむき、悲壮感が漂う室内。
しかしだからといって何もしないというわけにはいかない。
寺山は皆を何とか奮い立たせようと意見を表明する。

県東部はもちろん西部においての調査方針の決定、現状における県民への通達など、改めて話し合うべきことは山ほどあった。
限られた情報からしか判断できなくても、まずはできることをやらなければならない。
そんな一心でもう一度一つ一つ話し合った。

『県境の調査はどのように行うか規定を設けますか?』
「本来は設けるべきかもしれませんが、今はスピードを重視したいと思います。最寄りの自治体を中心に調査を行ってもらいますが、その際の権限は自治体に委譲します。詳しい調査規定に関してはその後の決定にゆだねるつもりです」
『県境付近に住んでいる住民については特に早急な状況説明が必要と考えられますが、どのように伝えるつもりですか?』
「現在警察と自衛隊によって現場付近は通行止めになっており、一般人の接近を阻止しています。付近に住む住民のうち、特に被災地近くに住んでいる方には避難指示を出しております」
『県全体にはこの状況をいつ、どのように伝えますか?』
「今現在においても情報が十分とは言えないため県民への通達に関しては慎重に行うべきと考えています。とくにデマやパニックを誘発しないように、何をどれだけ伝えるかは審議が必要だと思われます」

長時間の会議に各々疲労の色が見える中で議論は続く。
相変わらず足りない情報のうえ、前代未聞の事態。
災害対策の専門家や研究者が軒並み頭を抱える中で、最善の方法があるのかすらわからない。
誰もが匙を投げたくなるだろう。
だがその一方で、何もしなければ刻々と状況は悪化する。
彼ら自身混乱から抜け出せないでいる状況でこれ以上事態を悪化させるわけにはいかない。
そんな信念が彼らの心を揺り動かす。
知識も情報も経験も全く足りていなかったが、できる限りの知恵を振り絞る議員たちの姿がそこにはあった。



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