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「現地における動植物について…?」
調査結果を示す文の見出しに違和感を覚える寺山。
資料には様々な見出しがついており、それとともに写真なども載せられているのだが、その見出しは他と比べても少しだけ異質だった。
だがそこだけ見ても内容は伝わらない。
寺山はそこから続く文章と写真を読み進めていった。
「…なぜ、こんなものが…?」
寺山は思わずそうつぶやく。
彼がそこで目にしたのは、自衛隊が被災地一帯で目にした木や草などの植物についての記録だ。
島根では見られないようなめずらしい植物たちが、写真や文章を交えて
中身を読めば何かわかるかもしれないと思っていた彼だったが、実際読んでみてもなぜこんな項目があるのかよくわからない。
もちろん何が起きるかわからない以上詳細に状況を伝えることは重要かもしれないが、被災地にどんな植物が生えているかなんてたいして重要ではないはずだ。
しかしわざわざ見出しを付けてまでしっかりと掲載してある。
それはなぜなのか。
寺山の頭の中でそのような疑問が渦巻いていく。
昨日の夜から今日にかけて、新たに入ってきた情報。
未だに不可解なことばかりで事態の解明に近づいたとはとても言えない。
だがこのように様々な調査をしてくれているだけでも、寺山にとっては状況の打開に向けて一歩ずつ前進しているようで心強かった。
そんなことを思いながら読み終えた資料を机の上に置く寺山。
しばらく座りっぱなしだったせいで凝った背筋をほぐしたのち、背もたれに体重を預ける。
そうして少しの間物思いにふけっていた。
長い静寂が部屋の中を漂う。
どのくらい時間がたっただろうか、寺山がふと気が付くと、時計はまもなく九時を指そうとしていた。
「もうこんな時間か…」
時計をちらりと見た寺山はひとことつぶやく。
予定の時刻が迫っていた。
すると突然、知事室の扉がたたかれる音がする。
「寺山知事、入りますよ」
そんな声の後、おもむろに扉が開かれる。
そして寺山が渡されたのと同じような資料を片手に、平松が入ってきた。
「平松さん、お疲れ様です」
「いえいえ、こちらこそ」
平松は部屋に入るや否や、持ってきた資料の中から数枚の紙を取り出して寺山に渡した。
「これが原稿ですか」
「はい、本日の島根県庁の公式声明として、知事に発表していただくものです」
「なるほど…」
寺山は渡された紙を手に取り、数枚パラパラとめくる。
中にはのちに読むことになるであろう発表の本文と、県民に配布する予定の資料が書かれてあった。
「どれも昨日の今日で急いで仕上げられたものなので、間違いがないかぜひ知事も確認してください。一応この後最終確認をしつつ、修正するところは修正する手はずになっております。細かい言い回しはともかく、警察や自衛隊からの情報に関する正確性に関しては災害対策本部も協力の上作成しているので問題ありません。」
「わかった。では最後に対策本部や職員たちともう一度確認してから発表ということですね」
「はい。では会議室へ向かいましょうか」
平松がそういうと寺山は軽く荷物をまとめて知事部屋を後にする。
寺山達でも状況がわからない今、何をどのように発表するかはかなり慎重に精査しなければならない。
日本政府との連絡も取れず指揮が取りづらいという悪状況の中だったが、それでもなんとか完成させた原稿。
それは多くの人々の努力の結晶だった。
調査資料の節々に疑問は残りつつも、このように警察や自衛官、そして職員が一丸となって協力しているありがたみの前にはそれも霧散してしまう。
そして彼らと同様に自らの役目を果たすという強い責任感が寺山の胸の奥でほとばしった。
発表前に行う最後の打ち合わせ。
そこでの話し合いで内容のすべてが決まる。
果たして公式声明で県民は納得してくれるのか、不安はぬぐえない。
それに作成の大部分を平松や職員たちに任せてしまった申し訳なさも寺山にはあった。
しかしだからこそ彼らの労力と努力、そして思いを無駄にしてはいけない。
その一心が寺山を会議室へと運ぶ、強い原動力となった。
調査結果を示す文の見出しに違和感を覚える寺山。
資料には様々な見出しがついており、それとともに写真なども載せられているのだが、その見出しは他と比べても少しだけ異質だった。
だがそこだけ見ても内容は伝わらない。
寺山はそこから続く文章と写真を読み進めていった。
「…なぜ、こんなものが…?」
寺山は思わずそうつぶやく。
彼がそこで目にしたのは、自衛隊が被災地一帯で目にした木や草などの植物についての記録だ。
島根では見られないようなめずらしい植物たちが、写真や文章を交えて
中身を読めば何かわかるかもしれないと思っていた彼だったが、実際読んでみてもなぜこんな項目があるのかよくわからない。
もちろん何が起きるかわからない以上詳細に状況を伝えることは重要かもしれないが、被災地にどんな植物が生えているかなんてたいして重要ではないはずだ。
しかしわざわざ見出しを付けてまでしっかりと掲載してある。
それはなぜなのか。
寺山の頭の中でそのような疑問が渦巻いていく。
昨日の夜から今日にかけて、新たに入ってきた情報。
未だに不可解なことばかりで事態の解明に近づいたとはとても言えない。
だがこのように様々な調査をしてくれているだけでも、寺山にとっては状況の打開に向けて一歩ずつ前進しているようで心強かった。
そんなことを思いながら読み終えた資料を机の上に置く寺山。
しばらく座りっぱなしだったせいで凝った背筋をほぐしたのち、背もたれに体重を預ける。
そうして少しの間物思いにふけっていた。
長い静寂が部屋の中を漂う。
どのくらい時間がたっただろうか、寺山がふと気が付くと、時計はまもなく九時を指そうとしていた。
「もうこんな時間か…」
時計をちらりと見た寺山はひとことつぶやく。
予定の時刻が迫っていた。
すると突然、知事室の扉がたたかれる音がする。
「寺山知事、入りますよ」
そんな声の後、おもむろに扉が開かれる。
そして寺山が渡されたのと同じような資料を片手に、平松が入ってきた。
「平松さん、お疲れ様です」
「いえいえ、こちらこそ」
平松は部屋に入るや否や、持ってきた資料の中から数枚の紙を取り出して寺山に渡した。
「これが原稿ですか」
「はい、本日の島根県庁の公式声明として、知事に発表していただくものです」
「なるほど…」
寺山は渡された紙を手に取り、数枚パラパラとめくる。
中にはのちに読むことになるであろう発表の本文と、県民に配布する予定の資料が書かれてあった。
「どれも昨日の今日で急いで仕上げられたものなので、間違いがないかぜひ知事も確認してください。一応この後最終確認をしつつ、修正するところは修正する手はずになっております。細かい言い回しはともかく、警察や自衛隊からの情報に関する正確性に関しては災害対策本部も協力の上作成しているので問題ありません。」
「わかった。では最後に対策本部や職員たちともう一度確認してから発表ということですね」
「はい。では会議室へ向かいましょうか」
平松がそういうと寺山は軽く荷物をまとめて知事部屋を後にする。
寺山達でも状況がわからない今、何をどのように発表するかはかなり慎重に精査しなければならない。
日本政府との連絡も取れず指揮が取りづらいという悪状況の中だったが、それでもなんとか完成させた原稿。
それは多くの人々の努力の結晶だった。
調査資料の節々に疑問は残りつつも、このように警察や自衛官、そして職員が一丸となって協力しているありがたみの前にはそれも霧散してしまう。
そして彼らと同様に自らの役目を果たすという強い責任感が寺山の胸の奥でほとばしった。
発表前に行う最後の打ち合わせ。
そこでの話し合いで内容のすべてが決まる。
果たして公式声明で県民は納得してくれるのか、不安はぬぐえない。
それに作成の大部分を平松や職員たちに任せてしまった申し訳なさも寺山にはあった。
しかしだからこそ彼らの労力と努力、そして思いを無駄にしてはいけない。
その一心が寺山を会議室へと運ぶ、強い原動力となった。
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