日本一無名な島根が異世界に行ったら世界一有名になった話

マキナ

文字の大きさ
25 / 25

25

しおりを挟む
太陽が民衆の頭上、天高く上ろうとしている。
時刻はまもなく午前十時。
島根県庁から災害における発表がなされる時間だ。
地震発生からまだ一日もたっていない中知事が何を発表するのか、多くの県民が注目していた。
特に県庁周辺に押し寄せる人々は気が気ではない。
彼らは一刻も早い事態の解決に向けて自治体が動いてくれるのを熱望していた。
その思いを自治体で働く人々へ伝えるため、わざわざ自分たちから足を運んだのだ。
だがそれも当然だろう。
県外との移動も通信も遮断されてしまえばたとえ一日でも生活に大きな支障が出てしまう。
県外で働いたりそこに家を持っていたりそこに家族が住んでいたり、島根において周辺県とのかかわりは欠かせない。
現在起きている出来事に対して少しの妥協も許されないという点で、県民たちが焦るのも無理はなかった。

そんな彼らが一縷の望みとしていた県庁の対応。
この不確かで不安定な現状を変えてくれるのではないかと皆が期待していた。

そしてついにその時が訪れる。
島根各地に設置された防災事務局。
災害時に速報などを伝える目的で設置されたそれは、県内各地のスピーカーを通じて一斉に放送を始めた。

『みなさんこんにちは、島根県知事の寺山です』

突如響いた寺山の挨拶に、ざわついていた人々は徐々に静まり返る。
そして放送の聞こえてくる方向を向き、寺山の言葉に耳を傾けた。

『今回、昨日に発生した地震及びそれらの被害に関して島根県庁として公式声明を発表いたします』

地震、被害。
それらの単語が聞こえてくると、群衆は再びざわつき始めた。

『昨日の午前11時47分、島根全土で震度3から4を観測する地震が発生しました。現在島根県内における被害状況を確認中なのですが、地震の発生に伴い大規模な通信障害と土砂災害が発生したことが確認されました。この件につきまして県として速やかに災害対策本部を設置し、全容の把握と対処に努めております。昨日の段階で地震による被害が甚大だと思われる区域につきましては、当初警察と消防で対処に当たっておりました。しかしこれまでの報告により、想定を大きく上回る規模の被災地が確認されており、自衛隊災害対策部隊を現地に派遣して事態の収束に努めております』

刻々と語られる内容を大衆はかたずをのんで見守る。
発生した被害に対して現在どの程度復旧できているのか、県民たちの関心はそこへ向けられていた。

『本来このような状況下において日本政府から支持を仰ぐのが通常ですが、通信障害のため政府との交信が困難な状況にあります。そのため県独自の判断を多分にとり入れておりますのはご容赦いただきたいと思っています。そのうえで県民の皆様にはこの災害における安全確保を目的として以下のような対応をしていただきたいと思います。まず一つは通行規制です。県境近くの被災地において大規模な土砂災害が発生しており、通行が非常に危険だと考えられるため、当面の間全面通行止めとさせていただきます。詳しい通行止め個所は全県民に配布される資料をご覧ください』

当該地域の通行止めと聞いて、皆は不安の色を浮かべる。
大規模な災害が起きれば通行止めは当然起こりうる。
だが普段から通勤や買い物でその場所を通る人は多くいるという点で、それは深刻な影響を及ぼすことになる。
それに昨日の時点で通行止めになった個所に出くわした人もちらほらと見られた。
日常生活に悪影響が出る前に出来る限り早く復旧してほしいと、彼らは一様に願っていただろう。


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...