上 下
23 / 26

22

しおりを挟む
 エコバックの中には、ローストビーフの材料が入っている。
 オレはエコバックに手を突っ込み、あるものを取り出した。

「逃げる、つもり?」

 すぐ背後まで迫っていた少女の霊が、辛うじて人間の言葉とわかる音で言った。
 振り返ると、少女の霊は口も耳も鼻も無く、ギリギリのところで人の形を保った闇になっていた。
 ただ、赤い瞳だけがかつて人間だったことを証明するように、輝きを放っていた。

「誰が逃げるもんか!」

 オレはエコバックから取り出したものを、霊に向かってふりかけた。

「う! うぅ……!」

 明らかにオーラの威力が弱まり、霊はその場に膝をついた。

 オレの手に握られているのは、岩塩のボトルだ。

「残念だったな、こだわるオレはローストビーフを塩でいただく!」

「ぐぅ、くそ……!」

 立っているのも辛いのか、霊はオレを睨みつけながら、重力に負けるように、地面に臥した。
 その上から、塩をふりかけてやる。

 霊はみるみる小さくなっていき、声を発することもできなくなった。
 塩をかけられて縮むなめくじのように、霊は消滅した。

 わずかに地面に汚れのようなものが残ったが、悪霊は祓われた。
 オレは額の汗を拭い、岩塩のボトルを目の高さまで持ち上げた。

「気になっていた、高い岩塩を買っておいて良かったぜ」

 オレは車に乗り込み、廃墟を後にした。
 もう2度とここに戻ることはないだろう。

 廃墟を出て、しばらく走り、オレの気持ちも落ち着いてきた。

 まさか、心霊体験をするとは思いもしなかった。
 幽霊なんて信じていなかったのに、オーラを纏った霊から大慌てで逃げる自分を思い出して、笑いが込み上げてくる。

 くつくつと笑いながら大通りに出る道にハンドルをきった時、後部座席が軋む音がした。

【除霊?END】
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

花嫁と貧乏貴族

BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:17

呪部屋の生贄

ホラー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

紫式部~実は、歴史上の人物がΩだった件

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:17

烏王創世記 部族動乱時代

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

勇者の息子と魔王の娘(仮)

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:24

日韓

現代文学 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:99pt お気に入り:425

処理中です...