47 / 53
第二章
第四十五話
しおりを挟むこれ以上はどう足掻いても体の方がもたない。そう感じ取ったサカグチは、発動していた《ジャイアント・キリング》を解除する。
だが、それをしてしまえば当然ステータスは逆戻り。急激に力を流し込んだり、抜き取ったりを繰り返していれば、肉体がより疲労に追い込まれるのは自明の理だ。
力の入らなくなった足腰を、しかし敵に無様な様は見せまいと必死に叱咤し、なんとか膝立ちの体勢で支える。目の前にはヴィルヘルムが至近距離で睥睨しているが、最早それに拘っている余裕も無い。荒い息を隠そうともせず、ただひたすらに思考を巡らせる。
「……ハァ……ハァ……ま、まだ、だ……まだ、おわっちゃ……」
全ては生き残る為。勝ち残る為。どれだけ自身の手を汚そうと、泥に塗れようと、彼は自身の生存を諦めようとはしない。例え二重三重に仕掛けた策を全て破られ、限界まで追い込まれていたとしても。
「……せっかく、あのクソッタレたクラスメイトどもを殺せたんだ……!! 俺を蔑んだあいつらに、一泡吹かせたんだ……!! だ、から、次はおれが……グッ、ああっ!!」
最早、心の底から溢れ出す本音と怨嗟を抑え込む事すらしない。そこに先程までの勝ち誇っていた悪役としての姿は無く。ただひたすらに、目の前に立ちはだかる壁を越えようとするだけの、一人の孤独な少年が立っていた。
目の前に立つヴィルヘルムの服をひっ掴み、それを支えにしてゆっくりと立ち上がる。サカグチも中高生らしい体格をしている為、体重はそれなりにあるはずだが、その全体重を受けても彼はピクリとも動かない。それはまるで大樹を思い起こさせる様であり、そこに秘められた力を推し量ることすらもサカグチには出来なかった。
だが、手札はまだ残っている。斬鬼ら相手にジョーカーまで切り終わってしまい、残されたものは既に紙クズ同然。ヴィルヘルムに通用するなどとは思っていない。それでも、切れるカードはまだ残っているのだ。これを切り終わる迄は、死んでも死に切れない。
「つ、かまえた……!!」
「?」
弱々しい力で掴むサカグチの事を、ヴィルヘルムは怪訝な顔で見る。
《洗脳》は使えない。あれは精神的に隙がある対象にしか適用出来ない。
《パワー・ウィップ》だけでは足りない。先ほどまでの戦闘を鑑みるに、あれでは最早力不足だ。スキルならば一定の火力は保証できるが、逆に言えばどれだけ踏ん張ろうと一定の火力までしか出ない。
その他のスキルは……幾多にもあるが、この状況を打開出来そうなものはない。
ならば、頼れるのは自分以外。ヴィルヘルムの影響を受けていない、洗脳した手駒達だ。
「撃て!!」
──ダダダダダダダダ!!!
その一言を皮切りに、アンリを始めとして無数の魔弾がヴィルヘルムらの元へと放たれる。
同時にサカグチは《パワー・ウィップ》を発動し、ヴィルヘルムの動きを制限しようとする。密着状態になったのは、その動きを予測されない様にする為、そして逃す余裕を与えない為。
照準はサカグチにも向いているが、そこはヴィルヘルムを壁にすればいい。どうにか出来る可能性は低いが、少しでも足掻く他にはない。
だが、残念ながら小細工を弄する事自体、ヴィルヘルムに対しては無駄だと言わざるを得ない。事前に練りに練った策だろうと、彼の前には全て捻じ伏せられる。それは誰が相手だろうと変わる事はない。
「な、あ……!?」
一切の抵抗すら許されず、根元から引き千切られる《パワー・ウィップ》。そして次の瞬間、彼はサカグチにしがみつかれたまま、大きく跳んだ。
世界が、加速する。
「おおおおおおおおおお!!!????」
体験したことのない程のGが、サカグチの衰弱した体に襲いかかる。情け無くも悲鳴をあげながら、それでも決して振り落とされまいと強くヴィルヘルムの身体にしがみつく。
ヴィルヘルムは急ブレーキと急加速を繰り返しながら、迫り来る魔弾を躱し、術者をワンパンで気絶に追い込む。気絶、とは表現したもののそれは生易しいものではなく、半端の無い膂力で吹き飛ばされ、無理やり追い込まれているだけだ。傍目には死んでいてもおかしくは無い。
……ちなみに彼自身は特に何も考えていない。強いて言えば
「(うおお……やっぱ本職の人だけあって、吹き飛ぶ演技も凄いな。実際はちょっと小突いただけなのに、本当にすごい攻撃食らったように見える。これもやっぱ訓練の賜物なんだろうか?)」
勿論、実際にすごい攻撃を食らっているからである。
一人、二人、三人。間髪をおかずに次々と打ち倒していく様は、まさに一騎当千、天下無双。雑兵など相手にもならぬとばかりに、纏っている装備ごと蹴散らしていく。
彼が拳を振るう度に、戦場に舞い散る砂塵。それは決してヴィルヘルムの輝きを霞ませるものではなく、寧ろ英雄を引き立たせるにふさわしい舞台装置として機能していた。
「(……ふざけんな。それじゃ俺がまるで……!)」
一瞬でもその考えに至ってしまったサカグチは、自身の考えを必死に否定する。仲間を奪われ、倒され、自らも窮地に陥りながらも、敵の首魁の元へと討ち入り最後には大立ち回りをする。その所業が主人公だと言うのならば、さしずめ自分は……。
そんなはずは無い。文字通り死にそうなまでの逆境を経て、漸く舞い戻れたのだ。しかし、その経験をもって自分の心を叱咤しようと、どこかでそれを認めきれない自分もいる。
そして──遂にヴィルヘルムのスピードに対応できなくなったサカグチの手が、彼から離れる。
「あ……」
視線の先のヴィルヘルムは、最後に残ったアンリに向かって手を伸ばし、彼女の手を取る。
彼女の洗脳は未だ解除されておらず、未だ敵対状態は解けていない筈だ。だが、その様はまるで御伽噺に出てくる騎士と姫の様でもあって。
「(んだよ、それ……これじゃ、俺、ただの……)」
振り払われた体は地を滑り、瓦礫へと激突する。既に意識を保つ事も出来なくなったのか、急に瞼が重くなる。
「悪役、じゃねぇか……」
パキン、と何かが割れる音。次の瞬間、サカグチの懐から幾多もの光の雨が飛散する。
それは王都全体に飛び散り、そこにいた人々全員へと降り注ぐ。当然その場にいたアンリや斬鬼、ミミも例外ではない。
「……これは、ミミの力が戻って……?」
「……う、ううん……あれ? パーティーは? って、ヴィルヘルム!? ななな、なんで私抱かれてるの!?」
「……ふう、やはり最後に決めて頂けるのはヴィルヘルム様か。実に私も不甲斐ない……というかアンリ貴様! 操られていた分際でよくもまあ抜け抜けと!」
「ふえっ!? ちょ、ちょっと待ってよー!!? 事情分からないんだからいきなり捲し立てないで、というか刀を抜かないで!!」
気付けば夜は開け、薄闇の果てから静かに紅色の光が立ち上り始めている。ヴィルヘルムは姦しいアンリらの声を聞きながら、静かにそれを眺めていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる