ステータス、SSSじゃなきゃダメですか?~クソザコステータスの人間が魔王軍に加入させられたら~

シュリ

文字の大きさ
49 / 53
第二章

第四十七話

しおりを挟む
 


   崩壊した皇国の城、その一角。いくつかの死体が転がるその場所で、一つの人影が蠢く。

   砕けた大理石の破片を避け、時には崩しつつ、何かを探すようにゴソゴソと動き回る。バラバラになった死体には目もくれず、夜闇の中紛れるように行動していた。

   一つの巨大な瓦礫を動かした時、人影の動きはピクリと止まる。まるで重さを感じさせない動きで瓦礫を横に寄せると、人影は徐に座り込んだ。


「……」


   その視線の先にあるのは、一人の男。煤だらけになり、蒼白な顔色をしたまま倒れ込んでいる。胸の動きは──無い。彼の死に体を見て、影はそっと眉を顰める。


   しばしの沈黙。影はゆっくり動き出すと、男の懐に手を伸ばす。


「……ああ、久し振り」


   ピクリ、と影の動きが止まる。


「……サカグチ様。生きておられたのですね」

「なんとか、ね。でもダメだ。さっきから頑張ってるけど、指の一本も動かせやしない」


   男──サカグチは、にこやかに影へと話しかけてみせる。だがその声色に力は無く、言葉の端々から弱々しさが読み取れる程衰弱している。


「前にもこんな事あったよな……俺がクラスメイトの陰謀に巻き込まれて、ズタボロにされて森へ放り出された時……。あの時は本当に死ぬかと思った。ハハッ、死にかけてる今の俺が言える事じゃ無いか」

「……無駄口は避けた方が宜しいかと。身体に触ります」

「まあいいじゃないか。どうせ俺はもう助からない。最期に話す相手が居るってだけ、無駄にはなりゃしないさ。それに──そっちの方が好都合だろう?」

「っ!!」


   息を呑む気配が伝わったのか、サカグチは力無く苦笑する。


「ああいや、別に責めてる訳じゃ無い。元々拾われた命だからな……あんな裏切りを一回経験してるから、そういった利用しようとする相手には敏感だったんだ」

「……ならば、分かっていてこの様な道を?」

「まあね。でも後悔はしてない。俺の様な弱者がこの世界で生きるには、必死に虚勢を張って、襲われない様に見せかけの力を誇示するしか無かったんだ」


   ゆっくりと腕を動かし、自らの懐を指差すサカグチ。その指先は覚束ないが、少なくとも迷いは見えなかった。


「これ、取り出してくれないか?  どうなってるか自分じゃ見れないんだ」

「……ええ」


   砂埃と血液で汚れた胸元を、影は静かに弄る。その手つきにはなるだけ相手を傷付けないようにしようという気遣いが見て取れた。

   するり、と取り出されたのは、一つの水晶球。鈍い輝きを放つそれには、一筋の罅が真っ直ぐに入っている。


「辛うじて最後に『リバース』のスキルが発動したみたいだけど……スキル・シールが壊れた状況じゃ大した効果は無かったみたいだ。おかげでこのザマだよ」


   サカグチは本来、何のスキルも持たない無能であった。異界の地から勇者として強制的に召喚され、皇国の御旗として利用される所を無能という理由だけで迫害され、そして殺されかける。

   その窮地を救ったのが、影の主が持ってきたスキル・シールであった。特定のスキルを封じ込め、誰にでも使用可能にするアイテム。この中に封じ込められていた『スナッチャー』を使って、サカグチは自らを追いやったクラスメイトに一人一人復讐。全員分のスキルを奪った後、この国全体を乗っ取り、都合の良いように記憶を改変したのである。

   だが、その奪ったスキルの数々も、元を辿れば『スナッチャー』があってこその物。スキル・シールがヴィルヘルムの一撃によって破壊され、その機能を為さなくなった時点で喰らったスキルは総じて使用不能になった。
   辛うじて発動した起死回生のスキルも発動は不完全であり、精々が命を繋ぎ止める程度の力しか発揮できなかった。そして、その効果も今尽きようとしている。


「まさか、魔王軍の天魔将軍とやらがあんなに強いなんて……初見の時はオーラも雰囲気も感じなかったから、完全に油断してたよ。ああ、やっちまったなぁ」

「計画に入る前、ある程度は計画してやったと思うが?」

「もうちょっと、もうちょっとだったのに……クソ、やっぱクソだよこんな世界」


   最早意識も朦朧としているのか、受け答えもハッキリとしたものにはならない。どこか的の外れた答えをうわ言のように繰り返し始めるその様を見て、影は諦めたように首を振る。


「……器は既に限界の様ですね。私の力ではこの傷を癒す事は出来ません。気の毒ではありますが……」

「なんでなんだろうなぁ……」


   ポツリ、とサカグチが静かに呟く。


「なんでこんな目に合わなくちゃならないんだろうなぁ……ついこの間まで普通に学校に行って、普通に友達と話して、普通に家に帰って……何の変哲も無い暮らしをしてたのになぁ……。なぁ、俺が何をしたってんだ?  何か悪いことしたって言うのか? 何なんだよホントに、畜生……」

「……」

「オマケに飛ばされた異世界じゃロクな目に合わないし、掴みかけた夢も手から溢れて、終いにゃボロボロになって野垂れ死に……。ハハ、ホントに意味ねぇな俺の人生」

「……弱さは罪です。だからこそ、この世界では力を得なければなりません」


   ですが、と影は言葉を続ける。一つ一つ噛みしめるように。


「弱さが罪にはならない世界……少なくとも、私はそれを美しいと思います。話に聞いた、貴方がたの世界の様な」

「…………」


   サカグチはそれきり口を閉じると、一切の言葉を発さなくなる。最早話す事も辛いのか、既に呼吸も浅い。

   影は彼の様子から限界を悟ると、スキル・シールを持ったまま立ち上がる。


(……遺骸でなければ回収してあげたかったのですが……こうなってしまった以上、回収する事にもリスクがあります。残念ですが……)


   だが、そんな影の背中に唐突に声が掛かった。


「……せめて最期くらい、無駄死ににはさせないでくれよ」


   サカグチの静かな、しかし悲痛な声。最早届いているかは分からないが、それでも影は振り向く。


「……ああ。私達の使命に掛けても、貴方の働きは無駄にはしないと誓おう」









 ◆◇◆








   マギルス皇国の王城を抜け、闇夜の中を影は進む。人目を偲ぶ様に隠れ進み、とある民家の陰に入ると、その手の上に魔法陣を出現させる。


「……こちら皇国班。シールの回収には成功。ですが、対象の確保には失敗致しました。ええ……」


   魔力通信。遠く離れた場所と交信を行う技術であり、理論だけは確立されているが、それは到底個人で行える方法では無い。それこそ魔王でも無ければ。

   だが、現に影はそれを成功させ、何処かと通信を行えている。それは技量が魔王程ということを伝えているのか、あるいは。


「……分かっています。ええ、この程度で目的を見失いはしません。寧ろ一層、果たさねばならないという気持ちが強まりました」


   月の輝きが遍く世界に降り注ぐ。それは影すらも例外ではなく、フードの元を掻い潜り、僅かに影の顔が照らされる。


「──全ての魔人族に死を。それが私の変わらぬ望みです」


   その顔は、かつてマギルス皇国へと向かっていたヴィルヘルムらを襲い、そして目の前で自ら命を絶った女の暗殺者に良く似ていた。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

処理中です...