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過去:花とねむる

クマは合歓を知る 3/3

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 最後のとどめに腰を押し込むと、下腹に冷たい合歓の肌が触れた。
 亀頭が柔らかい壁を押し上げるのを感じた。

「ひゃぁンッッ」
「うっ!、ふうっ、ふーっ」

 合歓のあげた声につられそうになり、再び射精を我慢しながら、思った。

 おれ、格好悪いし気持ち悪いな。

 童貞の余裕の無さを全面に出し過ぎて獲物を狙う獣のような呼吸をしながら、ひんやりした合歓の腹の中を感じる。
 ねっとり吸い付く内壁の中は愛液に満たされていて、抵抗は少ない。

 締め付けがきついわけではないのに、包み込む合歓の中はおれの陰茎にぴったりとくっつきすぎていた。
 軽く腰を揺らすだけで気持ちよさが一気に襲ってくるので、まともに動くことができない。

 合歓の声は甘く聞こえるけれど、苦しんでいるようにも聞こえる。
 人の女の初めてみたいに痛かったりするのか、と不安を覚えた。

 女も男も知らないのでうまく言葉にできないが、合歓以上に素晴らしい者はいない。
 いてたまるか。

 達してしまわないように歯を食いしばって我慢しているのに、合歓が腰をくねらせる。

「あついのたくさんほしい、じゅせいしたいっ」

 注いでほしいとねだる動きに、おさまっていたはずの射精感があっと言う間に襲ってくる。
 子供がわがままを言うように顔を歪めているが、そんな姿すら美しくて胸が苦しくなっただけだった。

「まて、まってくれ、たくさんはむりだ、そんなに元気ないからっ」

 油断をすると出してしまいそうだというのに、合歓の泣き顔を見たくないと必死で口を開く。

 今日は信じられないほど興奮して、十代並みの硬度と角度を見せている息子だが、普段のおれはもう三十路を越えて性欲も減退気味だと感じている。
 精力が弱っていると自分の口から言うのは情けないが、加齢で衰えるのは生き物の摂理だ。
 安請け合いをしたら合歓を悲しませてしまいそうで、恐ろしくなった。

「……」
「ね、合歓?」

 無理だ、と言った途端に合歓が目を見開いた。
 薄黄色の瞳がこぼれ落ちそうに開かれたかと思えば、涙のような透明な蜜があふれ出して白いほほを垂れて濡らしていく。

 これが合歓の花蜜だと知っている。
 蜜蜂たちに与える時は他の場所からも分泌すると言っていたが、他ってどこだろうな。

「……ゲンキ」
「どうした、なあ、怒ったのか?」

 恐怖が腹の奥を引っ掻き回して、ずん、と岩でも飲み込んだような重さを胃の奥に感じた。
 ゆっくりと目を閉じて開いた合歓が、おれを見ながら瞳をきらめかせる。

「このミをタべてゲンキになって?」

 これまでに見たことのない表情だった。
 無表情とは違う。
 咲き狂っているのに儚く見え、貞淑でありながら虫を寄せる食虫植物のように甘く誘われている。

 ぞくり、と腰がうずく。
 おれは一体なにをしているんだ、と気がついた時には、ひんやりとした合歓の顔をなめまわしていた。

 合歓の肌は人の肌とは違う質感だった。
 なめらかな花弁の表面のような柔らかさと、きちんと中身が詰まっている弾力が両立していた。

 やけに甘い蜜が、なめとった舌を焦がして、流れ込んだ喉を焼いていく。

 前に食べた蜂蜜と味が違う。
 蜜蜂が介在するからだろうか、とぼんやり考える間に熱が股間に集まって、すぐに耐えられなくなった。

 熱い。
 呼吸が詰まる。

「ねむ」
「はぁい♡」

 腰を振り、命を注ぎ込む。
 蜜にまみれた壁が陰茎にからみついて、もっとほしいとねだってくる。
 出しきって萎えたとしても、合歓の蜜をなめればすぐに勃起する。
 嬉しそうに笑う声が頭の中をぐるぐる回る。
 気持ちいいが、気が狂いそうだ。
 おれは今、どうなってるんだ。

「ねむっ」
「きもちぃいのもっとぉ♡」

 おれが達するたびに合歓が甘く声をあげる。
 どこもかしこも甘くて、思わず肌に歯を立ててしまえば合歓が小さな子供のような歓声をあげた。
 なんて美しくて淫らなんだ。
 こんなに何度も注ぎ込んだからにはもうおれの合歓だ、そうだよな?

 押し込んで引き抜くたびにねっとりとからみつく内壁。
 何度も何度も出し入れを繰り返した穴からは、ぶくぶくと泡立って白く粘った液が寝台へつたい落ちていく。

 押し込むたびに吸い込まれるようにからみつく。
 合歓の中で新しく分泌される体液が多いのか、どんどんなめらかに動けるようになっていく。

 耳に届くねばる水音、合歓の喜びの歌、肌と肌を叩きあわせる破裂音。

 呼吸をすると甘い香りが強くなっている気がする。
 合歓が喜んでいるからなのか。

 気持ちいい、気が狂いそうに気持ちいい。
 呼吸を乱して汗だくで獣のように荒ぶり、出して、出して、出して、……なにもかも出し切ってぶっ倒れた。

 最後の記憶は、合歓が全身を使っておれにしがみついてきた所で途切れている。



   ◆



 死ぬかと思った。

 目が覚めると、合歓が全身を使っておれに抱きついていた。
 一瞬だけ絞め殺されるんじゃないかと思ったが、おれが目覚めた時点でそんなつもりがないのは明らかだ。

「おはよう、エイヨウたくさんとってゲンキになった?」
「えいよう?」
「たくさんゲンキになるように、このミをタべてといったよ」
「……なるほどー」

 いくらなんでも盛りすぎだとは思ったが。

 合歓のあの甘い蜜は嫁が旦那に強精剤を飲ませたり、活力の出る料理を用意するようなものだったのか。
 だが、本気で絞りかすになるかと思った。
 さすが樹精というか、効きすぎだろ。

「まだジヨウタりない?、ゲンキないの?」
「いやいや元気になった、でもな、ちょっと効き目が強すぎたかな」

 最後の方は泥酔した時みたいにべろべろになってた自覚があるからな。
 初めての性交で何十回出したのか覚えてないってのは、怖すぎる。
 次も同じことを求められたら本当に死んでしまいそうな気がするので、早々に話し合いが必要だ。

 なにもかも忘れて性交に没頭してしまう蜜なんて、怖すぎるだろ。

「ツヨすぎた?」
「おれには強すぎると感じたかな、次は使う前に相談してほしい」
「ツギね、うん!」

 これまでで一番の幸せそうな姿を見てしまうと、命を搾り取られているのかという疑問を合歓には聞ける気がしない。

「そういや、授精はしたのか?」

 樹精が人との間に実とか種とか子供とか作れるのか知らないが。
 もし可能なら、おれも父親になれるってことか。
 合歓と夫婦になるってことか?

 いいな、それ。
 どうせこの先に蜂蜜目的でなにかに巻き込まれるくらいなら、合歓を嫁だと宣言した方が手出しされにくい気がする。

 精霊は怖いという先入観を利用しているだけだから、いつまで続くか不明ではあるが。
 おれ自身ができることなんぞ拠点にする地域を移動することくらいで、せいぜい連絡しにくい場所に逃げるくらいしかできない。

 おれが合歓を守ってやれたら良いのにな。

「……ジュセイできなかった」
「そんな顔すんなって、な、次があるだろ、次な?」
「うん」

 あんなに何十回も搾り取られた結果が無駄でしたと言われて虚しい気持ちになるかと思ったが、合歓が落ち込んでしまったので焦った。
 しなしなと音がしそうな表情になった合歓に、もう年齢的に複数回はしんどいので次は一回だけにしてほしいとは言えなかった。




 とまあそんなこんな色々あって、おれは脱童貞を樹精相手にした、世界でおそらく唯一の養蜂家になったわけだ。
 国崩しを目指す気がないから誰にも言わないし、言えない。

 この先、合歓の花蜜から作った蜂蜜を商品化する時に精液みたいな味と匂いがする、と弟に言われて、身に覚えがありすぎて誤魔化せなくなったり。
 売り物にならねえ、というか売りたくないが自分で消費するにしても自分の精液食うことになるのか?、と悩む羽目になるとは、考えもしなかった。

 
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