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哀れな殿下
殿下は落ち込んだように顔を地に向け、そして、震える拳を胸に当てた。
そして、震える声で告げる。
「スジャルセレスカ嬢、そなたの父君、エインマナレイキ公爵が国家騒乱の疑いで拘束された」
「え?」
「そなたとは、もはや会うことも無いであろう」
思わず視線を向ければ、目を伏せた彼の姿が見えた。
なにも言葉にできないのではなく、己の職務に忠実であろうとしていると、わたしには分かった。
この場にいる中で、今、一番苦しんでいるのは殿下ご本人。
慰めの言葉をかけられるものは、共に苦しんだ者だけ。
彼はその中に入らない。
わたしもだ。
聞いた話でしかないけれど、殿下は、苛烈なスジャルセレスカ嬢を愛しておられるそうだ。
共に生きて、共に死にたいと願うほどに。
けれど、数年前に身罷られた正妃様が残されたお子は、第一王子殿下のみ。
王位継承権を持つ王族は他にもいる。
側妃らの子が三人、現王の弟妹も。
縁を辿れば、さらに増える。
けれど殿下が継承権を放棄すれば、国が荒れる。
スジャルセレスカ嬢を国母にしても、国が荒れる。
半年の間に、スジャルセレスカ嬢はステルカリ嬢を側に置く理由を、殿下には聞かなかった。
スジャルセレスカ嬢は、裏で暗躍する道を選んだ。
殿下は、スジャルセレスカ嬢に聞かれたかったのだろう。
婚約者を蔑ろにするな、と言われたかったのだろう。
相談されて、頼りにされ、対等であると示されたかったのだろう。
殿下の嘆きは深い。
愛する女性に、信用していないと、言われたも同じなのだから。
スジャルセレスカ嬢を愛していても、国を乱す者を王妃にはできない、と決めたのは殿下ご自身だと聞いた。
十八歳になるまでの半分近くを、共に切磋琢磨してきた婚約者を、国のために切り捨てる決断をされた。
自分にとって目障りな相手を、ためらいなく殺そうとする女性を、次の国母にはできない。
幼いスジャルセレスカ嬢と共に〝国のために生きる〟と誓ったから、と。
わたしが思ったのは、王族ってかわいそう、ということ。
真面目な殿下が不憫すぎる。
なにもかもが手に入るのに、なにもかもが手に入らない。
愛している相手が道を間違えてしまっても、共に迷うことが許されない。
声もなく肩を震わせている殿下に、憐れみの視線を向けた。
同時に一瞬だけ、彼の視線を感じたような気がした。
ねっとりと絡みつく様な熱を感じて、背筋がぞくりとした。
「スジャルセレスカ嬢、そなたにも共謀の嫌疑がかかっている、連れていけっ」
「違うのベルジスト殿下、殿下っ、でんかぁっっ!!」
殿下の声は、涙に濡れていた。
悲鳴のような嘆願のような、悲痛な叫びと共にスジャルセレスカ嬢は護衛騎士に連れていかれた。
殿下の名を呼び求める声が遠ざかっていくけれど、冤罪だ、という訴えだけは、その中に混ざりはしなかった。
常に令嬢と共にいた二人の女生徒も、騎士に任意同行を求められて、不安そうな表情のままに広間から去っていった。
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