【R18】かみさまは知らない

Cleyera

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3 おれ

22 ※ スペラ

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 漏らしてしまえばスペラにぶっかけてしまう、そんなことしたくない、とスペラの傘をばしばしと両手でタップして訴えるのに、止まらない。

「でる、でちゃうっ、やだ、やめてーぇ、うぅううっっ、ぅあ……ひぃっ!」

 出た、と思った。
 漏らしてしまった、と。

 けれど、その後が違った。
 情けなさと快感に強張らせるしかなかった全身を襲ったものは、強烈過ぎる射精感だった。
 出すという意味では同じなのに、度合いが違う。

「ひっ、ぁぃっ、いっっぃいっ」

 予期せぬことに制止しようとしても変な声が出るだけ。

 待った、おれはもらしたんだよな?
 これはおもらしだよな?
 快感に感じてしまうってことはもしかして、そのうち排泄行為のたびに気持ち良くなったりとか、ならないよな?
 そんなの嫌だよ、恥ずかしすぎるだろ。

 排泄じゃない。
 多分。
 そう言い張ることにした。

「いってる、でてぅ、でてるからぁっ」

 竿を擦った結果とは違う押し出されるような感覚に怯えながら、腹の中をぐりぐりと擦り続けるスペラに止まってくれと訴える。
 十分すぎるほど気持ちいいのに、それ以上を与えようとする動きにうまく呼吸ができない。

 息できない、死ぬ、と真っ白な快感の中で思った。



 不意に空気が肺を満たした気がした。

「……う、っんー?」

 目を開けてみれば、視線が定まらずにくらくらしていることに気がつく。
 数十センチ前の目の前にあるのは天井だ。
 見覚えのある宿の天井。

 なんかすっごく天井が低くなってないか?
 屋根が落ちてきたのか。
 それとも二段ベッドの上で寝てたかな。
 でも、宿にそんなもの無かった気がする。

 おれ、寝てたのか?

 ぼんやりとそう思ったら、ずくん、と腹の中から快感が湧き上がった。

「ふぅ、ぁーっ、ああっ」

 勝手に声が出た。
 全身ががくがくと震えるのを止められなかった。

 力の入って丸まった足の指先から、限界までのけぞった背骨を駆け上った快感が、脳天まで走り抜けていく。

 なんだ、これ。
 どういう気持ちよさなんだ。
 腹の奥から全身が気持ちいいとか、どういうこと?

 不思議とゆらゆら揺れている視線を足元へ向けたら、寝ぼけたように夢見心地だったのが霧散した。
 目の前にあるものが、信じられなくて。

 体が揺れていたから視線も動いていたのだ。
 呆然と目を見開くと同時に、揺れていた視界が止まった。

「……えっ?」

 思い切り左右に開かれているおれの足が、宙に浮いていた。
 スペラの上に馬乗りになって、全体重を預けていた。

 おれって体操の選手並みの柔軟性があったんだな、とか言いたくなるほど開いた足の間。
 股間に絡みついた銀ラメ入りのクラゲが、ぶるり、ぬくり、と蠢くたびに腹の中から気持ちよさが頭へと抜けていく。

 ぐちゅ、ぬちゅとねばつくものをかき混ぜる音と共に、気持ちいい、としか言えない感覚が目の前をくらませた。

「えー、と、すぺら?、うあ、あっ、ま、まっ、て、あああっっ」

 名前を呼んだ返事のように、ずるりと腹の中でなにかが大きく動いて、目の前がちかちかと揺れた。
 息が詰まる。
 それなのに声が出た。

 知らないのに知ってる。
 これは、達してる、状態だ。
 ほとんど動かれてないのになんで、なにがどうなってこうなってるのか分からないのに。

 まともに言葉も出せないまま、痛感した。

 これ、これだよ。
 欲しかったのはこのすごいやつだ。
 よかった、おれの勘違いとか記憶の間違いじゃ無かったようだ。
 スペラがおれを気持ち良くしてくれたのは、真実だったんだ。

「しゅ、っ、すぺら、きもち、いいの、もっとぉ」

 スペラの上に乗っているだけでなく、深く繋がっていた。
 おれに触れているのはスペラだけ。
 腹の中のどこで気持ち良くなっているのか分からなくても、不思議と怖くなかった。

 緩やかに動くスペラに合わせてぶちゅ、ぐちゅと音が聞こえる。
 それと一緒に、おれの卑猥な声も。

「すごぃっ、きもちいぃ、もっとほしぃっ」

 おれはイかれてる。
 おれはイかされてる。
 なんてすごいんだ。
 おれは、今、生きてる。
 この世界で、おれは生きているんだ。

 ずるずると腹の中をはいまわるものがスペラの男性器なのだとすれば、こんなに強烈な生への実感はない。

 スペラがおれを生かしている。
 おれをイかせているのはスペラだ。

 ごりごりと腹の中で動くものがスペラの一部だと気づいたら、体が勝手に震えだした。
 達しながら全身に力が入って締め付けてしまい、腹の奥に液体を吐き出されたのを感じた。

 腹の奥に熱いものが注がれる。
 おれの体温より高いから、温かくて腹の中がじんじんする。
 心地よい。
 こわい。
 でも、やめられたくない。
 もっと欲しい。

 するりと頬を撫でられて、気がついた。

 自分が泣いていることに。
 涙が止まらない、止められない。
 嬉しいのか悲しいのか分からない。

 帰りたいと思いながらさまよい歩き、何度も殺されて。
 痛くないせいで現実感がなくて、目が覚めるせいで諦められなくて。

 こんな場所はおれの居場所ではないと思っていた。
 今この時、ここにいるおれは。

 居場所を手に入れた。
 スペラの腕の中が、この世界におけるおれの居場所になった。

「おれをひとりにしないで、いっしょにいて」

 聞かれたくなくて口の中で声を噛み殺したのに、聞こえてしまったらしい。
 スペラの動きが変わった。

「ぅあ゛あ゛っっ!?」

 腹の中を滑らかに動いていたなにかが、明確な意志を持って腸壁を擦り上げてきた。
 返事をするように、応えてくれるように。

 気持ちいい。
 その一言で頭の中がいっぱいになる。

 ねばる水音とおれの声と、それだけで部屋の中が満たされる。
 願うように甘やかすように貫かれながら、これは腹上死コースをもう一度だろうか、と思った。



 気持ちいいと感じる場所ばかりを、的確に擦り上げられて。
 おれは意識を飛ばして目覚めることを繰り返した。

 気持ち良すぎると意識が飛ぶ、そんなの知らなかったんだけど。

 スペラに望まれているなら良いかなとか思いながら。
 ただ、毎回これは困るから、目が覚めたら言おう。

 おれはお前ほど体が強くないから、もう少し手加減してくれと。

 スペラがおれの夫になってくれた本当の理由は、分からない。
 でも今は、間違いなくおれに欲情してくれている。
 頑張って付き合おうと思ってしまうくらい、絆されてる自覚がある。

 おれの体中にからみつくスペラの腕が温かくて、つるつるしてぬるぬるした体液に包まれる全身が心地よくて、ゆっくりと次第に深くまで押し開かれていく腹の奥がどうなるのか怖くて。

「お゛っ、ぉお゛っ、ぅあ、っふぅ゛ぅうっ」

 声を出す気もないのに喉から出る音が、ひどく汚く聞こえて。
 目を開いているはずなのに真っ白でちかちか瞬いていて、耳の奥には自分の心臓の音とスペラが動く水音だけが届いて。

 幸せだ。
 と思ってしまった。
 思ってしまったんだ。



 なにも知らずに。



 ずっと知らずにいられたら、よかったのに。
 快感で気が狂ってしまえば、よかったのに。

 知らなかった。
 スペラがその存在すべてで、おれと添い遂げようと誓いを立てていることなど。

 まだこの時、なにも知らなかったおれは呑気に快楽に溺れていられた。
 一人ぼっちではないことが嬉しくて、自分がこの世界で生きていると感じられる事に感激していた。

 これからもずっと変わらないのだろうと思っていた日々が、あっさりと失われると考えもせず。
 おれといる事でスペラを苦しませてしまう時がくるなんて、考えもせず。

 スペラと一緒にいたい。
 人生をゆずりわたしてしまうとしても、スペラがおれには必要だ。

 その思いは今も変わらない。
 変えることができない。

 その思いで、スペラをずっと縛り付けることになるなんて、この時はまだ気が付いていなかった。
 おれの、終わらない生に。

 
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