33 / 74
5 おれ
イヤシキケモノ
しおりを挟む齢二十を過ぎた頃から、かみさまを憎んでいる。
そろそろ死なない程度に育ったと、三歳で付けられた名前はディスプレ。
父が言う、祭司の中でも特別な力を持った者には、増長しないように悪い意味の名前を付ける伝統で。
クソ喰らえ。
ぼくは他人と違う。
生まれつき。
そのせいで死ぬまで他人に嘲られる。
父は自分の名を嫌っているのに、ぼくにも伝統を背負わせた。
祭司としてはともかく、父としては尊敬できん。
ぼくには聞く力がある。
他人の持つ悪意が、音として聞こえる。
ミシミシと軋むような音。
きぃきぃと擦れあうような音。
がりがりと引っ掻くような音。
耳障りだ。
どいつもこいつも、クズばかり。
同じ里の祭司は心を覗かれるのではないかと疑心暗鬼になり、石を擦り合わせるような不愉快な音をたてる。
耳殻を引きちぎって、耳腔を潰してしまいたい。
何度そう思ったか。
何度、そうしようとしたか。
他人の悪意を聞かされて、次第に黒味を増していく髪と瞳を嫌悪する。
吐き気がするほど耳苦しい音が、ぼくの生活を脅かす。
悪意を吐き出せ、使え、狂ってしまう前にと言われて修行したが、ぼくの悪意を吐き出す能力は弱かった。
集めてしまったゴミを、仕分けてまとめて捨てる力が足りない。
捨てられないのにゴミを集めてしまう。
望んでもないのに。
かみさまなんて嫌いだ。
祭司の血など途絶えてしまえ。
そう思いながら、痛みで気絶する日々を送り、悪意を使う。
外に出すことができないなら自分の中で使うしかないと、肉体改造をさせられた。
育つ体を抑え込んで、いつまでも子供の肉体を維持すれば消費量が多いと言われても、四十歳を過ぎてなお子供の姿のまま。
子供の体を保っているせいで妻帯どころか性交もできない。
かみさまへ敬意を持つことなく年齢ばかり重ねたぼくは、なんの因果か物知らずの儀典祭司を救う任に就いた。
初めて会った、ぼくと同じように悪意で体を改造している存在だが、仲良くなれないと一目で知った。
どっからどう見ても子供。
かみさまのため、とか言ってるが、全部テメェのためだろうが。
かみさまのために命をかける奴なんかいねぇよ。
そう思っていたが、かみさまは全てお見通しだった。
己が身を犠牲にして、人々を導くなんて戯言だと思っていた。
いじらしいまでの可愛らしさが、胸を引っ掻く。
ほとんど会話もしていないのに名を嫌っていることを見抜かれて、新しい名前〝ディス〟を与えられた。
ぼくはかみさまを誤解していた。
かみさまは、我が子を、我らを愛してくださっていた。
改心し、誠心誠意お仕えすることを誓おう。
僕として朽ち果てるまで。
10
あなたにおすすめの小説
ふたなり治験棟
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
朔の生きる道
ほたる
BL
ヤンキーくんは排泄障害より
主人公は瀬咲 朔。
おなじみの排泄障害や腸疾患にプラスして、四肢障害やてんかん等の疾病を患っている。
特別支援学校 中等部で共に学ぶユニークな仲間たちとの青春と医療ケアのお話。
飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
2025/09/12 1000 Thank_You!!
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる