【R18】かみさまは知らない

Cleyera

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8 ボク

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 ここ数ヶ月の内訳、滅ぼした集団は十近い。
 それぞれヌー・テ・ウイタ・ラ・ドゥンネゼウの名前を使って、教団だとかなんだとか名乗っていたが、まともな教義を持っていたと思えない。

 ゼンさまが拐われた時のように、国一つの規模を持つ奴らはいなかったが、踏み潰しても次々と現れる害虫のようだ。

 あまりにきりがないので、集団や教団同士で連携を取っている可能性を考えた。
 だが、ボクもディスも初対面の相手、それも敵意や害意を持つ相手から話を聞き出す事は上手くなかった。
 結果として、潰せる範囲でやり尽くすしかなかった。

 一般信者らしいどこにでもいそうな奴らには手を出していないが、腹の中に溜め込みきれないもやもやを抱えていた奴らは、念入りに自壊させた。

 動けるのはゼンさまが眠っている時しかない、けれど時間は少なくても問題なかった。

 ボクらは常にゼンさまの側にいる。
 ゼンさまが地に人の姿で顕在しているかぎり、試練は続いている。
 焦る必要も、急ぐ必要もない。

 狙われ続ける事は、ゼンさまが人に与える試練の妨害に当たる。
 だから、滅ぼす。
 それだけだ。

 ゼンさまはボクらを止めなかった。

 止められない、という事はやっていい、と考えて間違っていないだろう。
 自らの身を犠牲にして世を変えている最中のゼンさまが、彼らの悪心を善心に変えるは難しい、または時間がかかり過ぎて他に悪影響を及ぼすと考えたなら。
 妨害する者らへの試練より、御身の安全を望まれる理由になる。

 と言うわけで、ボクらには時間がある。
 短期で結果を出す必要はない。
 長引きそうであれば被害を最小に一時撤退し、ほとぼりが冷めた頃に再び襲撃すれば良い。

 金と時間があれば大抵のことは解決する、とディスが言っていた。



「おはよう、ゼン」
「おはよう、なんか良い匂いしないか?」
「ゼンおはよう、ちょうど良い時に起きたな、串肉を買ってきた、ほら、口開けろ」
「自分で食べれるって」

 カウタ・テメイニックの襲撃後、訪れた街でディスはゼンさまと婚姻を結んだ。
 守りを万全とするために。

「良いから口開けろよ」
「……うぅん、あー」

 見た目を実年齢まで引き上げたディスは、驚くほど安定した。
 これから先も確実にゼンさまの側にいられる地位を確立したからなのか、猫被りをやめたのは良い。

 だが、ゼンさまを振り回しすぎだ。
 ゼンさまはボクらに甘い、強引にされると弱いと気づき、どこまで許されるのか試すようになった。

 ボクもゼンさまに餌付けしたい!
 口を開ける時に小さい子供みたいに「あー」と声を出してしまう所とか、すごい可愛い!

「ん、うまぁ」
「ゼンが好きそうだと思ってな」
「んむ、もぐ、ありがと」

 困ったような顔をしていたが、口に突っこまれた肉が好みに合ったのか、ぱっと喜色が浮かんだ。
 口元を押さえてふわりと表情を緩める姿は、何百回見ても見慣れることがないほどに愛おしくて尊い。

 もぐもぐしているゼンさまを見ながら、ディスに牽制する。
 次はボクがあーして差し上げたい。

「んだよ、お前もあーして欲しいのか?」

 ゼンさまに一口齧らせた後の串肉を自分の口に突っ込みながら、にやにやといやらしく言うディスに苛立ちを隠せない。
 分かっていてからかってくる面倒臭いやつだ、本当に頭にくる。

「ディス、これ、一本ちょうだい」
「ああ、いいぞ」

 肉を飲み込んだゼンさまが、ディスの持っていた木皿から串肉をとり、今度はディスにあーしてやるんだろうな、とやさぐれているボクの目の前に差し出した。

「はい、スペラもあーん、な?」
「っ、は、はい、あー」

 視界の端でディスが信じられないと叫びそうな顔をしているのを見ながら、優しいゼンさまを試すような真似をするからだ、ざまぁみろと思った。

 ゼンさまはボクら二人の夫を、可能な限り同等に扱う。
 見られないようにしていたけれど、ボクとディスがお互いに出し抜こうとしていた事を知られているんだろう。

 かみさまにとって、ボクらは特別で唯一だと行動を持って示してくださる。
 二人とも特別だ、それぞれに。

 ゼンさまの好みだと知った肉は、甘辛い香草のたれに漬け込まれた郷土料理だ。
 同じ味は無理でも、野営の時に似た味を用意する準備をしようと思った。

 襲撃される前にこちらから撃退しているから、日々は平和だ。

 昼はのんびりとゼンさまの歩みに合わせて街を歩いたり、旅をして、夜は結界を張って休息をとる。
 望まれれば交合して、丸一日を過ごすこともある。

 今夜は望まれたいな、と闇夜色の瞳に見つめられながら、思った。



 夜が来て、二人で感知できる範囲内に追手がいないことを確認した。

「ゼン、どうかな?」

 街で最上級の宿の最上階を借りきって、ゼンさまを寝台に座らせる。
 何度も同じように過ごしているのに、未だにどこか物慣れない緊張した面持ちをするのは、人ではなくかみさまだからなのか。

 困ったことに二人で抱いてしまうと、一日以上が過ぎてしまう事が多い。
 文字通り肉欲に溺れてしまって。

 ゼンさまの肉体は、ディス曰く、傾国の名器だ。
 ボクら二人とも他の人を知らないけれど、ゼンさまだから納得できる。

 元から弱い肉体をボクらの相手で酷使して疲れきったゼンさまは、一日から二日の休息を必要とする。
 力の譲渡に慣れたのか、以前より目覚めが早くなった。

 ゼンさまが只人なら、壊れるか逃げ出すだろう。
 過剰な快感を終わりなく与えられて疲れて動けなくなり、休んで目覚めたら同じことの繰り返し。

 暴力と性を押し付けられて支配されて、死んだように生きるしかない人の姿を、ボクは知っているから。
 自分がそうなるはずだったから。
 ゼンさまが望んで、受け入れてくれるたびに、歓喜に身を震わせてしまう。

 これもまた、試練なのかもしれない。
 ボクたちにとってなのか、ゼンさまにとってなのか、分からないけれど。

 人を模したゼンさまの肉体に過剰な負担がかかるのに、頻回に交合を求められる理由は、世界の滅びが近づいているから、とディスは言う。
 移動しながらサイシの仲間たちと手紙をやりとりしているので、情報の正確さを疑う事はない。

 世界が滅びに近づいている、と言われても、ボクにはあまり実感がない。
 けれど、確かにそれは静かに歩み寄ってきているのだろう。

 野にある獣の数が減っている。
 新鮮な食材の値段が高騰し、並ぶ品数も減っている。
 冒険者組合支部で張り出されている依頼で薬草採取が増えているのは、人の生活圏で生育出来ていたものが育たなくなったからだろう。

 雨が減ったわけではない。
 空が落ちたわけでもない。
 何も変わっていないのに、ゆっくりと何もかもが変わっていく。
 違和感を感じられないほどに少しずつ、世界は崩れている。

 かみさまが弱い肉体しか用意できていないのに、地に降りて自らを犠牲にしてまで世界を回らねばならないほどに。
 危機的状況なのだろう。

 試練は、進んでいるんだろうか。
 ボクたちが教団や集団を潰す時間をとる事で、邪魔になっていないか。
 疑問は尽きる事がないけれど、ゼンさまの態度を見ている限り、危機的状況ではあっても、数年以内という事では無いのかもしれない。

「スペラ、ディス……」
「ゼン、今日は二人一緒でも良い?」
「う、んっ」

 夕食後に体を拭いて差し上げた時に、尻穴に拡張用の栓をはめているから、言葉にしなくても分かっていただろう。
 けれど、あえて言葉で告げる。

 牙色の肌に血色を乗せ、困ったように朔夜の瞳を潤ませる姿は、純真無垢で色事を知らない子供のようだ。
 感じ入って淫らに腰を振り喘ぐ姿を知っているのに、どちらもゼンさまだなと思うだけで、不思議ではない。

 
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