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本編
15 トゥアバヌ王
しおりを挟む五年前のあの日。
ボクは手抜きな女装をしていた、凛々しく哀れなトゥアバヌの美しい姿に見惚れた。
あの頃のトゥアバヌは、男色家の前王の妃という立場だった。
それも幽閉同然の。
トゥアバヌを守っていたのは同腹弟で侍従のカビラと、事情を知っていても仕えてくれていた、わずかな護衛騎士だけ。
遊び呆ける王の代わりに仕事をさせられているのに、報酬は頭の上を飛び越えて王の愛妾へ払われる生活。
そんなトゥアバヌを、ボクはどうして不遇の身に甘んじているのかと思った。
でも違った。
トゥアバヌはかわいそうな人だった。
考え方なのか、感覚なのか。
彼はボクには理解できない情の深さゆえに、自分から面倒ごとに首を突っ込んでいく、おかしくてかわいそうな人だったのだ。
今のボクは知っている。
トゥアバヌ王の情の深さが恐ろしいことを。
その執着が、どこまでも深く強いことを。
トゥアバヌはボクや実弟を守るために、血のつながった異母兄である前国王を引きずり下ろし、自分が国王になる道を決めたのだから。
でも、それを責めることは難しい。
他国から来たボクには状況判断ができず、多方面から自分で情報を集めた結果、悪いのは前国王と先先代の王だという考えに至った。
トゥアバヌは先先代王の妾が産んだ、存在してはいけない王子だった。
出生から嘘まみれの王子だった。
夫婦神を国の神と崇める、一夫一妻制のアルシリヤの王には、妾も愛人も許されないのに。
国土が広くて国民が多くなるにつれて、派閥争いが絶えなくなったアルシリヤには、公娼制度というものがあるらしい。
交配を仕事とする公娼は、男女関係なく不妊処置を受けた者のみ。
王配、王妃の立場を脅かすことはない。
愛人や妾とは違い、公にも認められるらしい。
世界は広い。
厳格な一夫一妻制度の国なのに、交配専用の人員がいるなんて。
公娼制度があるのに、先先代の王は妾を囲った。
当時を知る者が残っていないので、理由は調べられなかった。
侯爵家の令嬢ヤヌミ、としてトゥアバヌの出生届は出され、戸籍上も女性。
物心つく前に、王妃を母に持つ八歳上の異母兄王子の婚約者に据えられ、兄が成年を迎えた時に、十歳で王子妃にさせられた。
子供の異母兄王子のわがままを優先した、では無理があるから、飼い殺しにする意図があったのだろう。
異母兄王子が男色家だったのは偶然。
成長期を迎えて、異母兄王子の身長を超えてしまうヤヌミ王子妃。
美しくて華奢な少年を好む異母兄王子は、美しくても長身でたくましくなっていく妻を嫌った。
そのまま、国王と王妃になり。
よほどの理由がなければ王妃をやめることもできず。
今になって、男でしたと公表もできない。
王になった異母兄は、弟の人生を十分に踏みにじった上で、不要になった妃の幽閉を決めた。
邪魔な王妃を殺さないのは、次に女の王妃を押し付けられないように。
弟のカビラを守れたことだけが、トゥアバヌの人生で唯一のよかったこと。
このまま死ぬまで幽閉か、と思っていたところに、ボクが来た。
トゥアバヌ自身は、自覚した時には男も愛せる男だったという。
けれど抱きたい側であり、異母兄に抱かれることを嫌悪した。
肉欲対象への嗜好が、トゥアバヌは先先代王、異母兄の前国王とそっくりだった。
王家の嗜好が、血筋的に似るのかもしれない。
だからこそ危機感を覚えたという。
弟を守ってきたようにボクを守らなくては、と思ったらしい。
それ以上の感情はボクに聞かされることはない。
ボクも望んでいない。
抑圧されて育ったトゥアバヌは、周囲を見て、引き際を見極めるのがうまい。
ボクに愛情を示してはいけない理由を、きちんと理解してくれている。
〝一、派遣された男の魔術師は、王の子を宿す〟
ボクから契約内容を聞いたトゥアバヌは、異母兄王を玉座から蹴落として、自分が王になることにしたのだ。
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